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死神貴族(2)




 死神なんて信じない。死神なんて居やしない。死神なんて宗教によって作られた、ただのうわごと。




「ホーホーホッホッホッ!?では、私は一体何者になるのでしょう?」




 うるさい!黙れ!喋るな!私は公園のベンチに座る目の前の男にグーでパンチを入れる。




「ホーッ!?ちょっと、ちょっと、桃子?死神にパンチを入れるのはどうなんでしょう?」




 だが、そいつは軽やかにそれを避けると、ブランコの遊具まで行き、ギィーコーギィーコーと立ち漕ぎをし始めた。




「オーホ、オーホ、オーホッホーホーッ!!私は貴族、死神貴族!私の仕事は魂の選定!!皆の皆の寿命を頂く。悲しくも重要な役職なのです!!」




 死神貴族・デス。

 コイツはいきなり私の所に現れ、こう言ってきた。




「貴女の魂、選定させて頂きました。で、残り寿命……あと、一時間!ホホホホ、それでは良い人生を〜♪」




 殴ってやった。ぼこぼこに殴ってやった。それはもう凄まじい程に…。そして、私はコイツに言ってやった。




「なにが、死神よ?そんなの居るわけ無い!だいたい、寿命があと一時間!?ば、ばか言ってんじゃないわよ!?あんた、アレでしょ?変な宗教勧誘!絶対そう!絶対そうなんだから!!」




 私は信じなかった。

 たとえ、コイツが私に関する全ての事柄を言い当てたとしても私はコイツを死神なんて信じなかった。それを見た自称死神・デスは一瞬考えて…




「ふむ、分かりました。信じて貰うには、コレしかこざいません」




 得意気に両手を掲げ、何やらぶつぶつと呟いた。すると、どうだろう?夜の公園は次第に光に満溢れ、そして、そこから何か生き物が出てきたのだ。




「……そ、それって犬?」


「そうです。地獄の番犬・ケルベロス…」



「嘘うそ!だって、頭3つじゃないじゃない?」


「ホゥ、意外と物知りですね桃子?確かにこの子は3つ頭ではござません!だって、この子は地獄の番犬ケルベロス…の子どものケルルちゃんだもーん♪」




 …殴ってやった。ぼこぼこに殴ってやった。それはもう物凄い程に…。




「ホホホホ、痛いです。私の名前はデスです。あれ?デスですデス?ん?デスですデスです?まぁ、デスです。……ん?デスですデスですデ……?」




「もう良いっちゅうねん!!」




「オホーツク……いえ、オホーホホホホ!とりあえず、分かってくれました?私、死神!」



 いつの間にか再びベンチに座る私の前にやって来た自称死神のデス。

 あれで分かると思ってるのかしらこのバカ?だとしたら呆れる程にバカだ…。私はため息をつく。




「さて、桃子。信じても信じなくてもキミの勝手であるが…」




 と、急に真面目な声でデスが話し掛けてきた。恐ろしい程に低いデスの声。先ほどまでホホホホなんてふざけていた男の声では無かった。




「な、何よ?」




 私はそのデスの恐ろしい程に低い声に驚きながらも平静を装う。




「……残り15分だ」




「!?」




「そろそろ魂の悲鳴が聞こえてきたはずだ。先ほどから胸が苦しみだしたのに気付いているか…?」



 胸の苦しみ?

 私はバッと言われた胸に手を置く。




「………」



 心なしか少し苦しい。ドグンドグンと波打つ私の心臓。だが、それはいつもより強く波打っている。そう。まるで、最後の足掻きのように…。




「はぁ…はぁ…はぁ…」




 だんだんに息が苦しくなる。先ほどまで元気であったはずなのに私の額からは信じられないほどの大量な汗が流れる。




「ふむ、さて、時間も近いことだし……デスサイズ!!」




 苦しみにうずくまる私にデスは見下ろす。そして、どこからともなくそれを取り出す。大きな大きなそれ。それは俗にいう死神の大鎌。どす黒く光る刃は三日月状に闇に美しく映る。




 あぁ、私、死ぬんだ。全然、生きてないけどもう死ぬんだ。あは、あはは…?お母さんに謝らなきゃ…。ごめんなさいって、ごめんなさいって、謝らなきゃ…。




 いつも素直じゃ無くて、ごめんね。わがままに育って、ごめんね。お母さんの言う事聞かないで、ごめんね。いつも困らせてばっかりで、ごめんね。不登校で、ごめんね。突き飛ばしたりて、ごめんね。救急車呼ばないといけないのに、ごめんね。お母さん、ごめんね。お母さんの娘で、ごめんね。産まれてきて、ごめんね。お母さんの娘に産まれてきて……ごめんね。




「懺悔は済んだか、桃子?」




 死神・デスが大きな鎌を振りかざしてきた。私は死んでしまう。苦しみの中、私は後悔した。もっと、ちゃんとしていれば良かった。もっと、お母さんに親孝行して置けば良かった。でも、もう遅い。デスが鎌を振り下ろす。何の躊躇いも無く、何の戸惑いも無く。




『デ〜ンデ〜ン、デ〜ンデ〜ン♪』




 と、そんな最後の絶望の中、急に可笑しな音楽が流れ始める。そして、それと同時にデスが振り下ろした鎌が凄いスピードで私の顔の目の前に突き刺さる。




「!?」




 ざっくりと大鎌の鋭い刃先が地面に突き刺さる。艶かしい程のその刃はヌラリと妖しく光っていた。その大鎌を目の前にして私の背筋にゾクリと寒気が走る。そして、次の瞬間、デスが私にとって驚く事を口にする。



「あぁ、桃子…お前の魂を刈り取るのは中止だ」


 え、どうして今さら?と、私がデスに疑問をぶつける前に更なる驚きの言葉を彼は口にした。




「お前の母親の『最後の願い』で、お前の寿命が伸びた。母親に感謝する事だな…」




 え、なに?デスの言っている事が私には理解が出来ない。一体、何を言っているのだろう?私のお母さんの、最後の……願い!?




「ホホホホッ、次に私が魂を刈らなければならない人物の名前を教えてやろうか、桃子?」




 デスの言葉に理解が着いていかない私。そんな私にデスの言う、更なる驚きの言葉、それは…






「次に魂を刈られる人物、それは、当夜桜子……お前の母親だよ」




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