行くひと、待つひと
仲間が一人、旅立つ。
故郷へ帰るサンペイだ。手土産は、マスターきらら製作の十六番、ボルトアクション一粒弾鉄砲、ライフリング付きである。
「どういう訳かこの一丁、ライフルを目一杯切るよりも、元残しで銃身の半分でやめておいた方が、調子がいいのよね」
「いや、拙者には過ぎた逸品に御座る」
そうだ、十六番きららスラッグスペシャルもまた、二〇〇メートルでコインを撃ち抜く精度を誇っている。マミのような測距魔法でもない限り、長距離射撃その性能をフルに発揮するのは難しい。なにしろ二〇〇メートル先のコインなど、肉眼で見える者はいないのだから。
「サンペイ兄のとこじゃ、今からの時期、何が獲れるんだい?」
「そうですなぁ、この時期はまず、川をせき止めているビーバーの駆除。残雪の山で羆撃ち。カモシカはもう少し太らせてからで御座るか」
「マスターきららの鉄砲があれば、大猟確実じゃない」
「アキタから獲物がいなくなるかも知れませんなあ」
すでに旅装束のマタギとともに、町はずれまで歩く。
「道中お気をつけて」
「のんびりと帰りまする」
「秋になったら、また来いよ」
俺が声をかけると、サンペイは耳打ちしてきた。
「その折には奥方に内緒で、ですな?」
「あたぼうよ、パツキンのチャンネーが束になって、サンペイのことを待ってるぞ」
奥方とあったが、俺はフランカと式を挙げた。正式に俺の妻となっている。ウベルティのマスターフランキに、挨拶に行こうと思っていたのだが、その必要は無いと言われた。
「やっぱりアンタ気づいてなかったのね?」
「なにが?」
「お父さまがマスターきららのお店に来たのは、カムイの品定めだったのよ?」
「つまり俺はマスターフランキから見て、優良物件に見えたってことだな?」
俺の言葉に、フランカは苦笑いしたものだ。
「猟師の嫁は財布の紐を絞めておけ、って言われたわ」
「弾代鉄砲代が大変だからな」
「金を与えると、猟師はロクなことに使わない、だって」
つまり秋口にサンペイが帰ってくるまで、俺はへそくりを貯めておかなくてはならない、ということだ。パツキン討伐の軍資金としてである。
「ライゾウどのたちの式は、年末でしたかな?」
「あぁ、サンペイ兄がこっちに来てからだよ」
「ですが向こうとこっちの往復では、サンペイさんのお嫁さんがいつまでたっても、決まりませんねぇ……」
心配はご無用と、サンペイは笑う。
「此度の帰省はキアッパ移住を報告に帰るまで。永住はこちらと決めておりまする」
サンペイは三男。家を継ぐことも無い気楽な身分だそうだ。
「それではみなさま、この辺りで」
もう、町のはずれだ。
「秋口なんて言わないで、すぐに帰って来い」
「可能な限り、早急に」
「スラッグはまた担いでくるのかな?」
「アキタの職人は恐ろしいですぞ。実物をみせたら三日で同じものを作りまする」
次キアッパに来る時は、フルライフルのムラタを背負っているかもしれないと、サンペイは笑った。
「もしも、ですが隊長?」
「どうした?」
「フランカどのが御懐妊となったら、山に入れないのですかな?」
まあ、そうなる。猟師フランカは引退せざるを得ないだろう。
「その時はマスターきららにお願いして、フランキにライフルを切ってもらうわ。そしたら新銃を買わなくてもいいでしょ?」
妻は早速財布の紐を絞めて来やがった。
「私の四一〇番も、ライゾウくんのところに行きますねぇ」
「うわ、なんだかオイラプレッシャーだぞ?」
最後は笑顔だ。
サンペイは背中を向けた。ひと冬でたくましくなった背中は、広がる前途を目指してゆく。
春がめぐってきた。また新しい冬にむけて、準備を始めなくてはならない。
「北の山の復興度合いを調査してくれと、ギルドから依頼があった。明日から出発するから、準備にかかるか」
春風ひとつ、フランカの髪をゆらす。
新たな生命が、そこかしこに満ちあふれていた。
おわり
ここまでの御愛読、まことにありがとうございました。本作品はこれにて終了です。重ねて感謝申し上げます。




