めぐりくるはる
ちょっとバタバタしてますが、ラス前です。
笑っていた。
マミはニコニコと笑っていた。
すでにサンペイが撃ったシカは回収を終えて、マミの撃ったシカも回収を終え、初期処理も済ませ皮つきではあるがギルドに納め、店に帰ってきたところだ。
笑っていた。
ライゾウは祝福の微笑みを浮かべてくれた。
笑っていた。
サンペイは彼らの言う「晴れの日」、つまりよい日を祝う笑顔であった。
そして最大の問題。
マスターきららだ。
この笑顔を擬音で表すならば、にたぁ〜〜、である。
その笑顔は語っている。
おめでとう、ロリコンさん。
その笑顔は語っている。
よ、そこの犯罪者♪
その笑顔は語っている。
後戻りしたら……ヤルわよ?
後戻りなどする訳は無い。俺はフランカのことを、しあわせにすると山の中で誓ったのだ。そして中年の保険。もしもフランカが俺を裏切ったとしても、決して恨んだりしない。憎んだりしない。それはフランカからのプレゼントだ。
カムイ、あなたはまた自由なのよ。そう……男と女の間では、裏切りもまた男への贈り物なのだ。
そのくらい男は、タフでなくてはならない。己の心を鋼のように鍛え上げ、どのような苦境にも耐えて生きなければならないのだ。
女々しい未練など残すな。
思い出をありがとうな。
そう言い残して背中を向ける。それが男の美学というものだ。もっとも、つきあい始めた初日から、こんなことを語るのは俺の頭がおかしいからなのだが。
「と、いう訳でしてみなさま!」
MC……すなわちマスター・オブ・セレモニーは、燕尾服に蝶ネクタイの妖精リンダがつとめる。
「この度、めでたく独り者のカムイおじさんと!」
「こら妖精、独り者とかおじさんは余計だ」
「キアッパのオデコ・マルダシーノことフランカ・フランキさんが!」
「あんたシメるわよ?」
「めでたく御懐妊となりました!」
「「ちょっと待てーーっ!」」
それは一足とびだ! まだそのような行為には及んじゃいねぇ! なのにもう「手をつけちゃいました」みたいなことヌカしやがるな!
「あたしはまだそんなことしてないわよっ!」
「ということは、これからするの?」
こらマミなんとかしろ。お前のペットだろ。
「ねーねーデコちゃん、どーゆーことするの? 二人で『わぁお』なことしちゃうの? マミとライゾウみたいにするの?」
なぬ?
「ねーねー」
「ちょっと待て、妖精。いま何と言った?」
「ねーねー?」
「いや、その前だ。マミとライゾウが、なんだって?」
妖精相手におとなげ無いとは知っている。しかしこれは、詰め寄らざるを得ない事案だ。
「マミとライゾウ?」
「そうだ、それそれ」
確かにライゾウは以前、マミのことを好きだと言っていた。それなりに頑張ってアプローチしていたのもわかる。
しかしマミの方が受け入れたのか? いつ?
「え? ……もしかして親分」
「気づいてなかったの? オイラたちのこと」
「知らなかった……全然、ちっとも……」
「ほら見なさい、カムイさんは気づかなかったでしょ! 賭けは私の勝ちよ!」
マスターきららの「にたぁ」という笑いが、俺以外の全員にむけられた。欲丸出しな笑顔で、みんなから現金を回収している。
なにそれ? どういうこと? 話がマッハで進んでるぞ?
まあ、要約するならば。マミとライゾウは付き合っていた。だが公私を分けるために、仕事では一切そういった雰囲気を出さないようにしていたそうだ。
もちろんその日のうちに、女性陣はそのことを全員が知ったそうで。サンペイも、すぐに察したということだ。
で、俺。
まったく気づいた様子が無い。ということでマミとライゾウが告白するまで、俺が二人の仲に気づくかどうか。賭けが始まったそうだ。
「……いくら親分でも」
「気づかない方がどうかしてるわ」
「今でも夜中に抜け出すから、枯れてはいないと思うよ?」
「隊長も男に御座る。娘たちの微妙な変化に、勘づくと思うが」
これに異を唱えたのが、マスターきららである。
「ふふふ、あなた方はカムイさんという男を知らなすぎるわ」
そう言って、テーブルの上に銀貨をベットしたらしい。
「あのポンコツ親父は二人の仲に気づかないに、これだけ賭けるわ」
「……ならば拙者は、これだけ」
「……あたしは……どうしよっかな」
「自分の気持ちでいいんですよ、フランカさん?」
「……じゃあ、ちょっぴり」
「オイラは当事者だし、気づいてくれると思うから」
「私はライゾウくんと同じだけ」
これで賭けは成立したそうだ。もちろん俺のことをよく知る、マスターきららの総取り。
……それはそれでたいへんにムカつくのだが。
「まあ、こんなカムイさんだからフランカちゃんには、直球で行けってアドバイスしたんだけどね」
「さすがマスターきらら、親分のことはなんでもお見通しですね」
「でもね、マミちゃん。問題も山積みなのよ?」
はて? マスターきららになんの問題が?
「私だけ彼氏がいないなんて、切ないわーーっ!」
だってアンタ、鉄砲こしらえてばかりで、出会いを求めてねーじゃん。
「出て来てちょうだい、鉄砲よりも魅力的な男の子ーーっ!」
あんたもう、恥も外聞もねーな。
まあ、そんなこんなで。
やがて春は巡り来る。




