恋に屁理屈こねるのは男、何も考えないで感じるのが女
しかしデコ……いや、フランカのこの態度。うぬぼれではなく、俺に好意を抱いていると考えるのが普通だろう。
俺のどこに、何がよくて?
それが最初の感想。
そしていつから? というのが第二の感想。
いや待て。むかしから言われることじゃないか。「恋のはじまりに理由はいらない。恋の終わりには理由が必要だ」と。
フランカに限らず、もしも俺に好意を持った娘がいたとしよう。
その娘に問いかける。俺なんかのどこがいいのか?
娘は答えるだろう。仕方ないじゃない、好きになっちゃったんだから!
回答になっていないが、娘……女の子という生き物は、そういう生き物だ。少なくとも俺の中ではそういう生き物であり、男の思考ではまったく理解できない行動をとるものだ。
俺は、そう信じている。
フランカならばどのように答えるだろうか?
冴えないところよ。
うん、にべもない。だがその方がいつもの「デコ」らしくて、俺としては気が楽だ。
いやいや待て待て。俺の要求をしてどうする。そうじゃない、今は夢の中にいるような、フランカの願いをかなえるべきだろう。
だがこの年頃の娘、何をどのようにして欲しいものやら。
「嫌じゃない? あたしが抱きついてて……」
顔を埋めているので聞き取り難い。
「嫌なことなどない。むしろこちらからお願いしたいくらいだ」
「……バカ」
「髪を撫でるぞ……いや、撫でさせてくれ」
「こちらからお願いしたいくらいよ」
くすりと笑って、脱いだ手袋を雪の上に落とした。素手になってフランカの髪を撫でる。下手に力を入れれば、首の骨が折れてしまいそうだ。優しく優しく、フランカの負担にならないように、そっと撫でる。
「それだけ、カムイ? 髪を撫でるだけでいいの?」
「もっと呼んでくれ」
「なに?」
「もっと、名前で呼んでくれ」
フランカは顔を上げた。頬が薄紅に染まり、瞳は可愛らしく潤んでいた。不覚にも、胸の中にある何かを、わしづかみにされた。
「……カムイ」
「フランカ……」
「恥ずかしいわよ、カムイ」
「俺もくすぐったいよ、フランカ」
おっさん、何やっとんねん。そんなツッコミは不要だ。何故ならここは山の中。見ている者はいない、二人だけの世界だからだ。
身を屈めながら、小さな頭をかき抱く。頬と頬を寄せあって、そんなことができるのは仲良しの証拠。
「……ん、しあわせ」
フランカの言葉が耳朶をくすぐる。
「これだけでいいのか?」
「そうね、これだけでしあわせを感じてちゃ、駄目ね……」
もじもじ……くねくね……。もしも女の子がもじもじしていたら、男というのは何かをしてやらなければならない。それは女の子という生き物が恥ずかしさをこらえて、必死に出しているサインだからだ。
では何をして欲しがっているのか? 女の身ではない俺に、わかる訳がない。しかし無難な処置というものはある。
あごの先をつまんで、軽く持ち上げる。驚かせてしまったか、フランカは目を見開いた。
しかし覚悟を決めたのか、黒目がちの瞳を閉じて、唇を差し出してくる。
軽く、触れるだけのキスだ。しかしフランカの唇は甘いので、少しだけくすぐるように唇を動かす。
「……んっ」
反応した。軽く身体を強ばらせたが、腕の中の細いフランカから力が抜け落ちるのを感じる。
唇を離したら大きく抱き締めてやる。正直に言うと、こんなおっさんが少女小説のような真似をして恥ずかしいので、フランカの顔を見られないのだ。
無難な処置とはいえ、なんとも気恥ずかしい。だが、恥ずかしいのが恋愛というものだ。
恋愛か。
もう、対岸に開く花火のようなものだと感じていたが、まだ俺にもそんな感情が残っていたようだ。
恋のはじまりに理由はいらない。そう言ったが、恋のはじまりにスタートラインが無いのも事実らしい。いつの間にか落ちているもの、それが恋というものらしい。
もう四〇になるというのに、まだまだ俺にも知らないことはあるものだ。
遠くで銃声がした。
一発だけだ。サンペイがシカを当てたのだろう。
「そろそろ行くか?」
フランカは少しグズッた。
「まだ大事な言葉をもらってないわ」
それもそうだな。
顔を見ないように、見られないように、耳元でささやく。
初めてフランカに贈る、愛の言葉だ。
おぉぉ……私はロマンスな場面は、これが限界。しょっぱい作者ですみません!




