ラブストリーは突然にw
賢明な読者さまはお気づきでしょうが、わたくし恋愛話は激しく苦手です。わたくしの冷や汗をお察しください。
カメロン駆除からポイズンラビットの駆除を経て、ようやく俺たちはシカに挑むことができるようになった。もちろん女性陣の「祝日」も通過している。
まさに今が、シカの旬。一番旨い時期になった。
「いよいよお肉の祭典ですね! ハリキッて、いっちゃいましょーーっ!」
未明だというのに、マミのテンションは高い。
「シカとなればこのサンペイ! マスターきららのスラッグ弾により、今や天下無双! 右に出る者無しっ!」
サンペイも盛り上がっている。マスターきららはサンペイの鉄砲、ムラタに手を加えることなく、その命中精度を上げることに成功していた。
尻尾つきのスラッグではない。マミの鉄砲が弾を回転させるように、サンペイのは弾自身が回転するようにしたのだ。
これはさすがに、フランキの水平二連では不可能。サンペイのムラタは、薬室の強度が桁外れに高いのだ。
よって、デコの弾は尻尾つき。サンペイのムラタに比べれば、いささか精度で劣る。
「しかし、ムラタに比べれば、の話だ。お前の腕をあてにしていることに変わりは無い。頼んだぞ」
「えっ? ……あぁ、うん……」
なにやら歯切れが悪い。悪いものでも食ったのか?
「オイラたちは脇役になるかな、ダンナ」
「確かに、雪の中をラッセルしたりボブスレーを曳いたり撃った獲物を運搬したりと、ある意味主役と言えるかもな」
今回は西の山を目指す。本来ならば北の山もシカの出没区域なのだが、いかんせんオークに荒らされてしまった。少し休ませる必要がある。という理由で、西の山へ出撃なのだ。
雪道は普通に歩き、田畑はスキーで渡る。俺とライゾウが、ラッセル役だ。
山裾に到着したら、まずはお祈り。無事故で猟が終わりますように。良い出会いに恵まれますように。そして獲物に恵まれますように。
お祈りが済んだら、俺とサンペイとデコで、山の裏に回る。マミとライゾウは表側から頂を目指す。裏も表も、シカのついていそうな棚は、俺とライゾウで把握している。それぞれがシェルパ……案内人となって、スラッグ組に獲物を獲らせる、という作戦だ。
チームを二つに分けての作戦だから、取り決めをしておく。
まず日の出前の発砲は禁止。動くシカへの発砲は禁止。バックストップ……つまり獲物から逸れた弾を止めてくれる、斜面や地面の無い場所での発砲は禁止。何しろ山の反対側には、チームメイトがいるのだ。ハズレた弾が山を越え、仲間に当たりでもしたら……。
ということで、バックストップに関しては具体案を追加。棚のシカは必ず、真上から撃つこと。これらを厳重に守るよう、散開前に伝えておいた。
で、山の裏側。あまり山裾ばかり歩いていて、雪崩に逢っても危険なばかり。すみやかに林道に入り、まずは安全の確保だ。そこからまず、近場の棚へアプローチ。ズバリと言うなら、棚へアプローチする途中で雪崩に飲まれそうな場所は、絶対に行かない。そんな危険な場所は、シカさえ寄り付かないからだ。
それではソロソロと、音を立てないように……。
棚をのぞいてみる。
ハズレ。
ここに獲物はいないことを、後ろの二人に手で合図する。了解してくれたようだ、デコがターンする。林道まで逆戻りだ。
最後尾となって俺が林道に復帰したところで、再び進軍開始。
と、その前に。
「疲れたか?」
「まだまだ大丈夫で御座る」
「あたしも、なんともないわ」
しかし、鼻の頭にうっすらと汗が。
「小休止する」
「え? あたしは大丈夫よ!」
「隊長の指示に従うもので御座る。シカは逃げたりしませぬゆえ」
「む〜〜……」
「ふくれるな、そのうち嫌でも汗をかかせてやるから」
そうだ、こんな場所で汗を冷やして危険な目に逢う必要は無い。
シカを当てたら血抜きのために逆さ吊り。重たい内臓を抜いて内容物を絞り出して、さらには解体。ついでに運搬。汗をかく機会はたっぷりあるのだ。
「だからといって、ただ汗を冷ますのも良くない。軽く膝屈伸でもするか」
林道の真ん中で、俺を中心にデコとサンペイは左右に。三人で脚をほぐす。
「棚をのぞくたびに、こんなことするの?」
「あぁ、それでも足りないと俺は思っている。だから次に棚をのぞいたら、より本格的に体操するからな」
「うへぇ、大変よね」
デコが顔をしかめると、サンペイは笑い声をあげた。雪が音を吸い込んでくれるので、辺りには響かない。
「フランカどの、隊長は体力で劣るフランカどのを気遣って御座る。存分に甘えるとよろしい」
「え? 甘えるって、そんな……そんなことする訳ないじゃない! 誰がこんな冴えない中年に……きゃっ」
興奮しすぎだ、デコ。小さな拳を振り回したおかげで、バランス崩して尻餅コロリン……の前に、腕を伸ばして身体を支えてやる。
山の中では些細なミスでも大事故につながる。もしここでデコが尻餅をついて、足首でも捻ったらどうなるか?
確実に言えるのは猟の中断。当然収入はゼロ。今回ならボブスレーがあるので、それに乗せて運搬。ボブスレーが無ければ背負って帰らなければならない。
最悪の場合、置き去りにするケースも考えられる。今回の人員は三名。三名が全滅するよりも、二人生き残る決断に迫られることも、念頭に置かなくてはならない。
もっとも、そんな危険な場所には立ち入らないことにしているが。
とにかく、転びそうになったデコの身体を支える。防寒服越しの身体は細く頼りなく、そして想像以上に軽いものだった。
「羽毛のように軽いな」
思わず口にする。
「え?」
フランカは俺を見上げた。顔が近い。
「いや……大丈夫か?」
「あ、ありがとう……」
「軽い事故のつもりが、山では大惨事につながることがある。気をつけろ」
「わ、わかったわ……」
「さすがは隊長、隊員の救助が素早いですな」
「雪とスキーだ、足元が慣れていない。隊長としては、常に気を配ってないとな」
サンペイはニコニコと笑っている。
「ときに隊長」
「なにかな?」
「いつまでフランカどのと抱き合っているので?」
言われて気がついた。あまりにデコのサイズがしっくりくるので、つい離さずにいた。そしてデコの方も俺の腰に腕をまわし、しっかりと抱き締めていた。
いつまで抱き合っているので? という質問だった。
「もう少しの間だけ」
俺は答える。
「これは拙者が無粋なのか、はたまた目の毒と苦情を訴えるべきか」
「すまないな、気を使わせて」
「かまいませぬ、フランカどのも悪い気はしていないようですので」
そうだ。こんな時は癇癪を起こしたように怒るデコが、おとなしく抱かれている。というか、俺を抱き締めて離さない。いやいや、俺の防寒服に顔を埋めている。
「フランカどのは、まだ調子がよろしくないようで。隊長、ついていてあげて下され。拙者、先にシカを捜して来ますゆえ」
「うむ、気をつけてな」
ムラタの鉄砲音がしたら来て欲しい。サンペイはそう言い残して、林道を登ってゆく。
どうにも手離すのは惜しい。ただそれだけの思いで、フランカを抱き締めたままサンペイを見送る。




