サンペイの予感
マスターフランキが来店した。鉄砲の品定めをした。そこまでは理解できる。しかし何故、マスターきららの鉄砲を品定めしなければならないのか? 薬莢式鉄砲は、マスターきららとの共同開発なはず。今さら品定めもなにも無い。
では銃口をすぼめた、チョーク入り鉄砲の品定めに来たのか? それも考え難い。マスターきららの性格からすれば、銃口をすぼめた鉄砲、その効果。さらには製作過程にいたるまで、同胞とも呼べるマスターフランキに公開しているはずだ。いや、そんなことをしなくとも、鉄砲は商品。誰かが手に入れた瞬間、あるいは店頭に並んだ瞬間から、秘密ではなくなってしまう。
「はて、マスターきらら」
「なんでしょう?」
「マスターフランキはマスターきららの鉄砲の、何を品定めに来たのかな?」
マスターきららは呆れた顔をした。前髪に目が隠れていたが。
「あのですね、カムイさん?」
「なんでしょうかな?」
「一連の話の流れで、何かこう……ひらめくものはありませんでしたか?」
「ふむ……」
考えてみよう。
マスターフランキがわざわざ馬車の旅を重ねて、マスターきららの鉄砲を品定めに来た。そして俺から駆除の話を聞き出していた。
「……ということは、つまり」
「つまり?」
「ウベルティの街でもモンスター駆除の仕事が増えた」
「はい、消えた!」
「なにが?」
「正解をつかみとる可能性が」
「つまりはハズレと?」
「そうなります。猟師としては縁起が悪いですね」
「嫌なこと言うねぇ、君も。……じゃあヒント! ヒントを下さい!」
「きららちゃんのヒントタイム! ちゃらん♪ とりあえず鉄砲から離れて下さい!」
「よしわかった! マスターきららの店がはやってるかどうか、視察に来た!」
「はい、死んだ!」
「やっべ、早くもツーアウトかよ……。よぉし! 気合い入れていくぞっ!」
「ブッブーーッ! 時間切れでーーす! カムイさんはオフサイドの権利を失いました!」
「なにそのオフサイドって? それが無いとどうなるの?」
「オフサイドの権利を復活させるには、きららちゃんにプリンをご馳走しましょう♪」
「うわ、こっちの質問に答えないで、襟元にナプキン差し込んでるよ! ご馳走になる気満々じゃないの!」
とはいえ、隣の喫茶店でプリンの出前をたのむ。俺としては謎の権利、オフサイドが非常に気になったからだ。
マスターきらら、プリンを食して至福のひととき……。
「……で、マスターきらら?」
「なんですかチュルン♪」
「オフサイドの権利ってなんですか?」
「はい、カムイさんはオフサイドの権利が復活しましたので、そこで存分にオフサイドしてくださいチュルン♪」
「結局ただのプリン詐欺かよっ!」
「これは引っかかる方が悪いと思いますよ? しかもいい大人が」
まあ、そんな戯れ言を楽しんで。
結局マスターフランキは、何を品定めに来たのか?
それはわからず終いだった。
で、午後。
「ただいま帰りました!」
「もーーすごい雪よね! 三日降る雪になんてなったら、いやよ!」
珍しくめかし込んだ、マミとデコが帰ってきた。というかこの二人、猟服か楽な部屋着しか見たことがなかった。
無理もない。猟師という職業に休日は無いのだから。特に冬場は稼ぎ時。獲物の肉質はピークになり、処理中の気温も最適。保存もオッケーと来た日には、撃って撃って食料に変えなければならない。まさしくヤルべき時なのだ。
しかし……。
私服の二人はどうも、こう……。顔立ちの関係なのか、マミの方が可愛らしく見えて、年下のデコの方が美人に見える。
「背丈や体格はマミの方がいいのになぁ……」
「なによ、おねえさまの方が可愛らしくて、あたしが美人だっていいたいの?」
「おう、まったくその通りだよ」
「ふふん、おねえさまの可憐さに気づいたって、もう遅いんだからね! あたしのおねえさまなんだから!」
「じゃあお前の美貌に気づくのは、遅くないんだな? じっくり観賞するかジーー……」
「な、なに馬鹿なこと言ってんのよ! ……もう、仕方ないわね」
とか言ってクルリとターン。髪をかきあげてポーズをつくる。
飲みかけて忘れていた酒を、一口。ちょっと、言葉を発するのはもったいない。美少女を眺める瞬間というのは、そういうものだ。
「な、なによ! なんか言いなさいよ!」
「うむ、キレイだぞデコ」
「デコは余計よ! きちんと名前で呼びなさい!」
「そうだな、キレイだぞフランカ」
こっちがリクエストに答えたのだから、モデルの真似のひとつくらいするのが礼儀というものだろう。しかしフランカは、顔を真っ赤にして硬直した。動かない。
「どうした? もう少し美人なところを見せてくれないか?」
「親分、フランカちゃんは調子が悪いようなので、これで失礼を……」
「いま遊んで来たばかりだろ?」
「さささフランカちゃん、どうぞお部屋へ」
デコはマミに付き添われ、奥へと入ってしまった。
「どうしたのかね、デコは?」
「さて、どうしたんでしょうね?」
マスターきららはニマニマと笑うだけ。
一体なにがどうなっているものやら?
ほどなくして、サンペイが帰ってきた。満足感にあふれた顔だ。俺の顔を見るなり、相席してきた。
「良い討伐だったみたいだな」
「いや、満足に御座る」
「パツキンのチャンネーだったか?」
「ボインボインに御座った」
「実は先ほどな」
マスターきららがグラスを出してくれた。ウイスキーを注いで、サンペイに出してやる。若いマタギはチビリと一口。
「実は先ほどな、マスターフランキが店を訪れた」
デコには言ってない。
「マスターきららは品定めに来た、と言っている。しかし鉄砲の品定めでは無いらしい」
「ふむふむ」
「サンペイ、お前はどう思う?」
「なにかが起こる予感、としか言えませぬ」
「予感というと……猟師、マタギの予感か?」
「いえ、人として、一人の男としての予感でしょうか」
ならば当てにはならんな。男としての予感が当たる奴なら、金を払っての女遊びには興じないだろう。
「拙者の予感によりますと、隊長に対する包囲網と言いますか。やはりこう、隊長御自身の境遇に大きな変化、節目がおとずれるような気がいたします」
当てにはならない勘を聞くのも、ある意味参考にはなる。サンペイは包囲網とか節目とか言ったが、それは起こり得ないと判断できるからだ。
ならば何が起きるのか?
通常の日々だろう。俺たちはギルドのめんどくさい依頼を受けて来た。おそらくはまたもや、室長ワイではなくおかしな場所から、めんどくさい依頼が来るのだろう。
もしもサンペイの予感を採用してやるのであれば、包囲網……つまり断れない依頼と推察できる。そして節目というのなら、その依頼をこなすことで、我々の立場が大きく変わるのかもしれない。
「善い節目ならばいいのだがな」
「節目を良くとらえるも悪くとらえるも、人の心ひとつに御座る」
坊主のようなことをヌカシやがる。しかし世の出来事はそういうものなのだろう。独り身の俺を「淋しい人」と称するか、「自由人」と称するか。それは心の持ち方ひとつなのだ。もちろん俺は自分の境遇を、蝶のように虎のごとく自由である、と思っている。
いやしくも男子たる者、安穏と家庭の中でふんぞり返るなど許されない。常に足を動かし旅をして、寒風に吹かれ冷雨に打たれ、荒野に水を探し森林に食糧をもとめ、暖かなベッドよりも朝露に濡れて目覚めるものだ。
間違えても墓などには入らない。野に朽ち果てて骸をさらし、肉体を離れた霊魂となれば、三千世界をまた旅の日々。誰が墓石の下でなど、おとなしくしてやるものか。ンなことしてたら、せっかく魂だけになってるのに、女の子のスカートの中をのぞけないだろ。
まあ、それは冗談として。
境遇の変化。これには留意しておこう。




