君の名は(笑)
「聞くところによると、そちらのカムイさんはモンスター駆除の名手だとか?」
「いえ、俺などはとてもとても。良い仲間に恵まれ、良い鉄砲に恵まれた。それだけのことですから、俺自身は……」
「御謙遜を……。鉄砲を見ればわかります。手入れが行き届いて、射手の思い入れが感じられますよ」
マスターきららがコーヒーを淹れてくれた。テーブルをすすめられ、紳士とともに着く。猟場での、鉄砲の使い勝手を聞きたい、と言うのだ。
「まず感じるのは軽さですね。肩に背負って山歩きをして、重たさを感じない。これが第一印象。そして獲物を見つけて挙銃。これがまた軽い。なめらかな動作でかまえることができます。そして鉄砲を左右にスイング。ここでもはっきりと、軽さを感じる」
「銃身も短いですな。これは取り回しが良さそうだ」
「山の中、森の中では草木や枝が障害になり、思ったスイングができないこともありますが、こちらは二六インチ若干ではありますが銃身が短くなっています。こういった差は大きいですよ」
紳士はマスターきららに目を向けた。
「最大の謎ですが、銃身長が短くなっているのに、何故弾の飛距離が伸びているんでしょう? マスターフランキの鉄砲は、銃身長を伸ばすことで飛距離を稼いでいるとうかがったのですが」
来たな。やはりマスターフランキの名だ。一体どこから「うかがった」話なものやら。
だがマスターきららは、まったく意に介せず。俺の鉄砲の銃口を、チョンチョンと指差した。
「出口を狭くしているんですよ。川の中でも狭くなった場所では、水の流れが急になりますよね? そんな工夫が施してあります」
逆に言うならマスターフランキの鉄砲は、出口を狭めていない。一粒弾を撃つことも可能だ。その辺りの説明は、以前デコの鉄砲を見た時にした通り。
「一粒弾を撃てると言っても、一粒弾はどこへ飛ぶか、わかりませんからなぁ……やはりマスターきららの鉄砲が一番だろうか?」
「いえ、お客さま。こちらを御覧ください」
キノコのような、ブリネッキと呼ばれる一粒弾頭を、テーブルに並べる。ちなみに半球型の粒弾は、フォスターと呼ばれる。
と、これは十六番サイズと二〇番サイズの弾頭だ。つまりサンペイとデコのための、新しいシカ撃ち弾だ。
「最近の弾はこのような弾頭を用いて、糸で尻尾をつけて正確性を出してますので、命中精度も飛躍的に向上しております」
「なんとけしからん! 二人のガンマスターはそんな工夫をして、客にどちらか選べと迷わせる! なんともけしからん!」
紳士は声を出して笑った。
「しかし銃口……弾の出口が狭いというのは、反動が凄そうだね? 現場で使用してみて、その辺りはどうだろう?」
「マズルジャンプ……銃口の跳ね上がりは付き物。……そう考えておけば、さほど気にはなりませんが」
「こちらの鉄砲は、いつ頃から使われているのですか?」
「この秋から……もうじき三ヶ月、というところでしょうか」
「カムイさんといえば、駆除での御活躍を耳にしますが、主にどのようなものを?」
「メインは……」
少し言い淀む。ポイズンラビットが駆除のメインなのだが、毒ウサギの駆除など簡単に口にしてはならない。一人で猟をしていた頃ならまだしも、四〜五人で戦果を挙げた駆除など、ギルド職員ではないが口にはできない。いらぬ混乱、いらぬ動揺を与えてしまう。ましてこの紳士、キアッパの住人かどうかわからない。よその町で、キアッパがポイズンラビットに毒されている、などと噂されてはたまったものではない。
「大きなところでは、オークの群れを退治しましたね」
嘘は言ってない。まあ、メインと大物猟をすり替えはしたが。
「オーク! 散弾でそんな大物まで倒せるんですか?」
「もちろん当たり所にもよりますし、即死と呼べないケースもあるでしょうが、バックショット……大物用の弾を使えば、なんとか……」
それにオーク駆除では、新型だけでなくマズルロードも活躍している。そのこともつけ加えた。
むう、と紳士は唸る。
「散弾というと、どうしても小物猟というイメージがありましたが、なかなかどうして……やるものですなぁ」
「ちなみにオーク駆除では、マスターフランキの鉄砲も活躍してます」
「ほ? この町にフランキを所持する方が、いらっしゃるので?」
「俺のチームに一人、アンジェロ・フランキの娘です」
「さぞや可憐なお嬢さんでしょうなぁ……」
ふむ、デコだデコだと呼んではいたが、フランカの容姿は悪いものではない。むしろ美少女と呼ぶべきものだ。
「花のようですよ」
自然とそのように答える。
「俺もあと一〇歳若かったら、気持ちが揺れて猟にならなかったでしょうね」
「今は大丈夫なのですか?」
「気持ちを揺らそうものなら、しっかりしろ隊長! などと尻を叩かれるでしょうね」
紳士は笑った。
いや、大変に良いものを拝見しました。と言って席を立つ。
結局なにも買わずに、店を出た。とはいえマスターフランキと、マスターきららの鉄砲。どちらを選ぶべきかと、いまごろ思いを巡らせているに違いない。
たっぷり迷うといい。
それが良い品物を買う時の、ときめきなのだから。
「……品定めは終わったみたいね」
「あぁ、現物を見たら、余計に迷うと思うよ」
「あら、私には迷いが無いように見えたわよ?」
そうかね? しかし鉄砲……それも新型は安い買い物ではない。やはり彼は迷うだろう。
「ところでマスターきらら、彼はどこの誰なんだろうね?」
「ウベルティの方よ」
「知り合いだったのか……」
この店では、見たことのない客だ。それもそうか、馬車で三日もかかる街の人間なら。
……馬車で三日? どこかでそんなことを言ったような気が……。
「まだわからないかしら、カムイさん。あの人はマスターフランキ。フランカちゃんのお父上よ?」
なぬ? 今のがマスターフランキ?
「……って、何しに来たの?」
「品定めじゃない? 良いものか悪いものかの」
ケッケッケッ、ザマァ見さらせ。とでも言いたそうに、マスターきららは笑っていた。




