デコの生態は謎
夜中にサンペイと暖炉番を交代したおかげで、ぐっすりと眠ることができた。しかし俺のソファは酔いつぶれたデコに占領されている。だからと言って床で寝る気も無い。
仕方なし、狭いソファでデコと一緒に眠っての朝だった。ただ、デコは小娘。体温が高いので、快適な眠りではあった。
胸元にデコの頭がある。妙に赤く、湯気でも上がりそうな感じだ。
デコを起こさぬよう、ゆっくりと毛布から抜け出る。
「あ……」
小さな声。ふと見ると、デコと目が合った。
「……起こしたか?」
「ううん」
頭を振るが、しっかり目を覚ましてるじゃないか。
「もう少し寝てろ。いま朝食を作って来てやる」
「……ん」
抜け出た毛布を独り占め。デコはみの虫のようにくるまって、ソファの上でコロコロ転がっている。
「サンペイ、お前も少し寝ておけ。どうせ今日も風はやまない」
「そうですな、朝食をいただいてからにしましょう」
冬だ。まだ外は暗く、風も猛威を奮い続けている。当然、屋内も暖炉の明かりだけしかない。
「それにしても隊長」
「なんだ?」
「拙者が暖炉の前でチェアに腰かけて、番兵しておったのですから、拙者のソファで寝ても良かったのでは?」
「暗かったからな、ついデコのところに戻ってしまったよ」
「これは拙者が無粋でしたかな?」
「いや、かまわんさ」
デコは相変わらずコロコロ。ウニャウニャとか訳のわからない声を発して、毛布とたわむれている。
別なソファで寝ていたライゾウが、むっくり起き上がる。
「ダンナ、朝飯つくるのかい?」
まったく寝ぼけた様子が無い。起き抜けでもいきなり平常運転。いや、性能をフルに発揮できそうな感じだ。
「おう、スープ用に水を準備してくれや」
「わかったよ、ダンナ」
てきぱきと寝具を片付けて、カウンターの裏に押し込むと、ライゾウは厨房に入って行った。俺も後に続く。俺の担当は、まず火をおこすことだ。
それから生鮮の野菜を切り、保存食のベーコンを厚切りに。パンは昨日仕入れたものがある。こいつもスライスだ。スライスしたパンはかまどの火で軽く炙る。寸胴鍋に野菜クズとベーコンの切れっ端を投入。
あとは男の料理らしく、炒めて! 炒めて! 炒め抜くのみだ!
おまけに卵を割って、サニーサイドアップなんぞも添えてやる。ザックリとして失敗の無い、男の朝食が完成だ!
マミが起きてくる。マスターきららも目を覚ます。デコもようやく復帰して、モリモリと朝食を頬張り出した。窓の外は、当然のように吹雪。
「今日も吹雪ねぇ……」
食後のコーヒーを飲みながら、デコが呟いた。
「心配するな、しばらくはこんな天気だ。風がやめば雪が降り、雪がやめば風が吹く。風と雪が同時に起こっても、同時に止むことは無い。それが三日吹く風だ」
「年に何日も無い、猟師の完全休養日よ。しっかり遊んでしっかり休んで、英気を養ってね」
マスターきららが食器を片付け始める。
「あいやマスターきらら、そのままそのまま。後片付けは朝食の支度で活躍できなかった、拙者がやります故」
「それ言うなら、オイラもスープの準備しただけだ。サンペイ兄ぃ、オイラがやるよ」
サンペイには暖炉番をしてもらった。ここはライゾウに頼むことにした。
「あんたは皿洗い、しないの?」
「お肌が荒れるから」
「馬鹿言ってんじゃないわよ」
「真に受けるなよ馬鹿」
「フンだ」
マミはいつの間にか席を立っていた。ライゾウの皿洗いを手伝うらしい。皿やカップを割ってくれなければ、それはそれで良いことだ。
マスターきららはカードをシャッフル。サンペイに札を三枚、自分に一枚。どうやらカブを始めるようだ。眠たいだろうに、サンペイもよく付き合う。
デコは席を立って、暖炉に火掻き棒を突っ込む。炭となって燃える山を崩し、空気の通り道を作ってから、薪を三本投入した。それから窓辺に立つ。なんだか落ち着きが無い。
とか思ってたら、今度は外を眺めたまま動かない。何やってんだ、コイツ? どうやら手を前に組んでいるらしい。肩幅が狭く、そして脆く儚い感じに見えた。
「どうした、デコ。雪が珍しいか?」
「あたしの故郷じゃ、あまり降らないから」
「途中で風が変わるからな。お前のとこじゃ雪雲が通らないんだろ」
「……来ないの?」
なに言ってんだ?
「……………………」
デコは黙っている。
仕方ない、ちょっとつき合ってやるか。あまり動きたくはないが、席を立つ。窓辺に足を運んで、デコのとなりに立った。窓の外は見飽きた光景、一面の白銀だ。
「……きれいね、雪って」
「まあな、この時期の雪は格別だ」
シカも繁殖の時期が終わり、体力を回復。越冬のためモリモリ餌を食らい、十分に肥えている。さらに言うならば、山奥は雪雪雪また雪。食料を求めて里に降りてくる。
早く撃ちたい。チャレンジしたい、アタックしたい。しかしそのためには、とっととカメロンをしとめる契約を終わらせなければ。
七日間の約束だった。カメロン駆除の契約は。それより先に怪鳥をしとめるか、失敗に終わるかしないと、シカには挑めない。
「ねえ、カムイ」
「ん?」
「どうして結婚しないの?」
いきなり何言い出すやら、このデコは。
「いい人、いなかったの?」
「そうさなぁ……恋愛なんかよりもずっと、打ち込みたいものを見つけちまうからな、俺は」
女の子に打ち込める性分じゃない、とは言えない。
「それってやっぱり、狩猟なの?」
「狩猟は奥が深いからな。俺なんかまだまだ、マスターきららの助けが無いと、何も出来ないさ」
「大変ね、あんたの恋人や奥さんになる人……」
「自分で言うのもなんだが、本当にそう思う」
こんな男にゃ引っ掛かるな。不安と心配しか無いぜ。とキメたいところだが、独身男はどこまで行っても独身男。格好いいものではない。
「カードで遊ぶ?」
「今日は何を賭ける?」
「あたしの一存では決められないわ」
それもそうだ。
「ゆっくりと、何も賭けずにアップして行こう。何を賭けるかは、場が暖まってからだ」




