三日吹く風
吹雪に閉じ込められる三日間。しかしこの嵐は天祐と呼べた。
吹雪に閉じ込められるのは人間だけではない。動物もモンスターも同じなのだ。そして嵐が去ると人間は活動を始める。これもまた、動物やモンスターも同じ。水を飲み餌を求める。三日も飲み食いしていないのだから、間違いなく餌場に現れる。
カメロンもきっとそうだ。問題はこの嵐が、いつ去るかだ。できることなら夜中のうちに吹雪いて、明け方とともに去りゆき、カメロンを餌場に招いてもらいたい。そうすれば我々は未明のうちに待ち伏せし、悠々とレジェンドを討ち取れるのだ。
湯からあがり飯を食い、窓を補強する材料の買い出しに出る。ならば自分で酒を仕入れてくれば良いだろう、と君は思うだろう。しかし俺には周囲の偏見の目がある。俺に金を持たせるとおねーちゃんのいる酒場に行くか、あるいは酒を仕込んでくるといった偏見の目だ。これでは酒瓶を提げて帰る訳にはいかない。そこでライゾウに頼んだのだ。ライゾウなら、周囲の目をかわすことができるはずだからだ。
材木を購入する前に、ギルドへ立ち寄る。三日後の馬を予約するためだ。この時間になると、ギルド庁舎も人はまばら。職員も半分ほどに減っていた。みんな荒天準備に忙しいのだ。残っている職員は独り暮らしの下宿住まいか、庁舎住み込みの人間なのだろう。
馬の手配を終えて、材木屋へ。釘や金槌は店舗にある。
店に戻ると鉄砲猟師たちが、火薬と弾を仕入れに来ていた。なかなかの人数で、マスターきららも忙しそうだ。俺は梯子を引っ張り出し、二階の窓へ向かって立て掛ける。材木をかついで梯子をのぼり、窓枠に打ち付けた。
建物を一周、グルリと二階の窓を打ち付けた。途中で井戸から水を汲み上げる、サンペイの姿が見えた。上半身裸になって身体から湯気を上げている。あれはもう一度、風呂が必要そうだ。
ライゾウも薪を運んでいる。あるいは鉈で、さらに細かく薪を割ったりしていた。こちらも汗をたっぷり流している。
「……俺も一緒に、もうひとっ風呂かな?」
実は補強の板を押さえ、金槌を振るうのもなかなかの労働だった。
二階の補強を終えて、いよいよ一階。店に客が残ってはいたが、容赦はできない。一階の窓にも板を打ち付ける。
マミとデコが帰ってきた。俺たちも作業を終えて風呂屋に走る。風呂屋はそろそろ店じまいだろう。客もまばらになっている。早々に湯を出て、帰還する。外は雪が強くなっていた。
店に戻ると入り口に、「準備中」の札がかかっていた。それを回収して、マスターきららに返す。
「あとは俺たちが、着替えと寝具を運んで来るだけだ。店の灯を落としてもいいよ」
「急いでくださいね、荒れてきましたから」
部屋から荷物を運んで、出されたソファに寝床を拵えていると、窓の外で風が鳴った。補強の板の隙間からのぞくと、すでに荒天。町は吹雪に飲み込まれていた。強い風は時にビョウビョウという音を立て、マミとデコは怯えて互いにしがみつき合う。
「まだまだ、こんなものじゃないわよ二人とも」
マスターきららは、ライゾウが運んできた薪をくべた。
「これから夜中になると、もっと強い風が吹くんだから。ちょっとしたスペクタクルよ」
「大丈夫なの、マスターきらら? ……このお店」
「家鳴りがして、ちょっと怖いですよぉ〜〜……」
マスターきらら、そして俺とライゾウは笑った。キアッパの町で暮らしていれば、三日吹く風はちょっとしたイベントのようなもの。マミくらいの年頃の次男三男は集会所に集まり、下らない話や飲酒などで楽しむという、若者特有の習慣を持っているくらいだ。
「つまりキアッパの建物は、三日吹く風を前提に建てられているから、この程度の冬嵐で潰れることは無いのよ?」
というか問題となるのは、やはり風。外側の風に強い建物でも、窓が破られて吹き込まれたら、案外に脆い。それ故に窓を補強、物が飛んで来てガラスを破られないようにしてあるのだ。
「しかしこの風の音、あまり心地のよいものでは御座らぬなぁ」
「その一言は、アレかい? こいつを要求してるってことかい?」
ライゾウはテーブルに酒瓶を乗せた。たっぷり安酒のウイスキーだ。
「おう、これこれ。これがなくては三日間の乗り切れませぬ」
サンペイは相好を崩す。
「ちなみにキアッパでは……」
マスターきららは自分のグラスに、断りもなくウイスキーを注いだ。
「キアッパでは天秤座と蠍座の子が多いのよね。……なんでかしら?」
口の両端をニッコリ吊り上げた。
デコは赤くなる。
マミは「なんででしょうねぇ〜〜……」と、ボンヤリ顔。
「対照的な反応よね……って、ライゾウ君。なぜ君が赤くなるのかな?」
ライゾウはモジモジしながら答える。
「……だってオイラ……天秤座生まれだから……」
ふむ、三日吹く風に仕込まれた子か。風のライゾウ……なかなか格好いい二つ名だが、本人は嫌がるだろうなぁ……。
ここで「おぉっ!」と奇声を上げたのはマミだ。
「何を隠そうライゾウ君、このマミお姉さんも天秤座なのですよ〜〜♪」
ほう? そうなのか。まあ、話の流れで天秤座というのが一〇月生まれというのはわかる。しかし星座占いとか言うやつで、天秤座がどのような性格の持ち主なのかまでは知らない。ライゾウとマミは比較的正反対の性格に見えたが、意外な共通点があるものだ。
「へぇ、マミ姉も天秤座なんだ?」
「はい♪ 二月生まれの天秤座です!」
「一〇月じゃねぇのかよっ!」
やっぱりか! やっぱりこんなボケが入ったか! いや、なにかあるな〜〜とは思ったが、予測してない角度からのボケだったぜ!
「ですから親分、私は二月生まれの天秤座なのですよ〜〜♪」
「お前の星占いは根本から間違っておるわっ!」
「いや、隊長。無理もありませぬ……」
サンペイが俺の袖を引いた。無理もない理由はすぐにわかった。
「クピクピ……ぶへ〜〜っ! いやぁ、今日もお酒は美味しいれすねぇ〜〜……」
安酒をいいことに、マミは初回からトバしていた。
三日吹く風の初夜。
きらら鉄砲店とチームしおからは、早くも深みにハマっていた。




