わりと意外な話
短い更新です
その日のうちにギルドで馬を手配。
翌朝から、しおから騎兵隊となって森を探索することになった。
馬といってもサラブレッドのような、格好のよろしいものではない。どちらかと言えば農耕馬のような、ずんぐりムックリとした感じで、角の無い牛か面長の豚という感じの馬だ。
だが、それで良い。あんなガラスの脚とか走る芸術品のような、繊細を絵に描いたような馬など雪の森で役には立たない。頑丈一点張りの一点豪華主義。雪の中ではそれが必要なのだ。
ちなみにこういう時代の戦さでは、戦場を馬で駆け回る素敵な騎士さまを思い浮かべるだろうが、あれは守り手だけの話。遠征などの攻め手に、騎士はほとんどつかない。馬は餌を食うし水も飲む。戦場は定期便のように休憩場所が確保されてる訳ではないので、水や餌は自分たちで運搬することになる。そんな無駄はできないので、騎士の戦場はごく近場か城の周辺に限られている。
俺たちもまた、日帰りの狩猟だ。朝と昼の餌を積めば、水は水場にある。というか、これから水場に出かけるのだ。負担は少ない。
借りたソリにスキーや餌、その他細かい道具を積んで未明の町を出る。幸いみんな馬に乗れた。
が、しかし!
「ちょっと! せっかく馬があるのに、なんで歩きなのよ!」
「馬に乗るのは森に入ってから。それまで馬の脚を温存するのは、当たり前じゃん」
デコの叫びにライゾウはにべもない。
「フランカさん、お馬さんも雪の中は大変でしょうから、今は楽をさせてあげましょ?」
「ま、まぁ……おねえさまがそうおっしゃるのなら……」
降雪という意味ではなく、雪の町をゆくという意味での雪の進軍だ。しかも未明。だが今朝は曇天のようだ。寒さも少しはマシな方だと思う。みな吐く息は白いが、表情に厳しさは無い。寒さはかなりマシな方のはずだ。
馬をひいて歩く。いつの間にか誰もが無口になった。
北の山からオオカミの遠吠えが聞こえてきた。思わず頬がゆるむ。オークたちに破壊され尽くした山が、早くも復興の兆しを見せている証拠だからだ。あの山へ一番で帰り着いたのは、どの生き物だろうか? いや、そもそもオークの群れから逃げ出すこともせず、己の生活を守り抜いた者もいるかもしれない。
そう考えると、なんだか可笑しかった。あれだけ俺たちが大騒ぎしていながら、俺たちが生きている間には二度と修復不可能などと言いながら、山は今よみがえり始めている。
いや、こんなことで山がよみがえったなどと、喜んでいられるか。俺たちが見た山の手傷は、あまりにも深かった。とてもではないが、ひと月やふた月で回復できる規模ではなかったはずだ。
山を思いながら貯水地の脇を抜け、やがて森の入り口へ。
サンペイは入り口に立つと、両手の平を合わせた。マミとフランカは合わせた手を組む。俺とライゾウも手を合わせた。
それぞれ形は違うが、祈りの姿だ。それは山の神へ安全を祈ってのことか? はたまた豊猟を祈念してか? それとも、これから我々が奪いにゆく、命に対しての祈りなのか?
それは、わからない。ただ俺は無心に手を合わせた。
「……デコ、馬に乗れ」
顔をあげて言った。デコは祈りを止めて、馬上の人となる。そのまま南へ。水場の探索とポイズンラビット狩りに入らせる。
俺たちは東へ、森の奥を目指して。
途中でサンペイと別れる。
「デコのことはまかせたぞ」
「心得た」
サンペイもまた馬上の人となり、雪の森へと消えて行った。
さらに奥へ。
そして頃合いを見計り、ライゾウに言う。
「あとはマミをライギョの池まで案内して、それから南へ向かえ。水場の探索とラビット撃ちに変更だ」
「わかったよ、ダンナ」
で、ちょっと気がかりがあったので。せっかく初期の三人しかいないことだし……。
「……ライゾウ、最近マミと仲が良いな」
「あぁ、オイラはマミ姉のこと、好きだからね」
「おう、そうか。言うまでもないが、仕事はしっかりな」
「もちろんさ」
「じゃあ俺は、ここで別れるぞ」
「マミ姉のことはまかしといてくれよ」
おう、と俺は答えた。馬にまたがり、かかとで脇腹を励ます。
俺たちが難儀していた雪を、馬はものともせずに掻き分けた。
そして俺は気づく。
ライゾウがマミのこと好きだって言ったとき、マミの顔を見てなかったな。
まあ、ライゾウは好男子だ。マミにとっても悪い相手ではないだろう。




