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なんくるないさ


 川、池、沼。

 いわゆる水辺というものは、どのように発生しているか? 簡単に言うと山から染み出している。

 雨が降り土に染み込み、樹木の根がそれらを吸いとる。ところがいかに樹木でも、山に染み込んだ水分のすべてを、吸いとり切ることはできない。いやむしろ、山に染み込んだ水分から一部だけ、樹木がいただいていると考えた方が良いか?

 とにかく山は水がたっぷりと染み込んでいる。その水が地層やらなんやらの関係で、まっすぐ地下へ浸透せずにあふれ出してくる。

 これが湧き水になり、流れをつくり、留まっては池や沼になる。

 ということで、水を探すには山を探すべし。

 だがしかし。

 俺がいるのは森の中。山から染み出した水が流れつき、樹木に水分を与える場所。山など無い。というかこの森全体が、巨大な水場なのだ。

 これが何を意味するか?

 森の中をひたすら歩き、水を探すしか無いということだ。

 気分はしんなり。ポッキリ折れるならば潔い。しかし生半可な未練と、「マミたちがカメロンの痕跡を見つけてくれないかな」という甘い期待で、ポッキリといってくれない。実に中途半端な気分である。

「いやいや、なにを甘いこと考えているか、一人カムイ」

 そうだ、俺は一人カムイ。何でもすべて一人でこなし、猟から無事に生還する。例えそれがしょっぱい猟だとしても、すべて一人でやってきた。そのことを忘れるな。

 カンジキの重たい足を励ました。一歩、また一歩と。ゆっくりではあるが確実に前進する。

 目標としているのは、毒草の群生地。ポッコリとそこだけ拓けていて、なんとも気の抜けたポイントがある。そこにもポイズンラビットは集まる、と読みを張っていた。その周辺に水場が……小さなものだが存在する。

「そう都合よく、カメロンの痕跡が見つかる訳は無いが……」

 しかし行ってみる価値はある。行ってみないことに、猟は始まらないのだ。

 とにかく太陽の角度、足元に伸びる樹木の影を確かめて、時間と方角を把握しながら一歩一歩。立ち並ぶ樹木を抜けて、ポッコリ拓けた場所が目に入る。

 まずは樹の陰に隠れた。それから拓けた場所をこっそりと、盗み見る。いるかなと思ったポイズンラビットは、すでに寝床へ帰ったようだ。しかしV字型の足跡が残っている。雪を掘り返し、越冬の毒草を狙ったのであろう。あちこちに穴が開いている。

 ラビットの数は三羽。ここいら辺りを徹底的に探れば、猟果につながりそうだ。

 ではカメロンの痕跡は?

 こちらはパッと見て、空振りに終わりそうだ。しかし水場と餌場が近接している。良いポイントであることには変わりない。ということで、水場を探る。こちらにも取り立てて、良好な痕跡は見つからなかった。

 他に餌場となりそうな、毒草の群生地はなかったか? 恥ずかしい話だが、ギルドでそういった場所を訊いてみるのも良いかもしれない。いかにベテランでも、見落としはあるものだ。

 そろそろ戻るか。太陽はだいぶん高くなっている。結局調査できた心当たりは、一ヵ所だけ。カメロンの形跡は無く、ポイズンラビットの気配のみという締まらない結果に終わった。

 しかしそれは当然というもの。いかに人里近い場所で目撃例が上がったとしても、やはりそこはレジェンド。簡単に姿をあらわすことは無い。捜索初日で成果を出す、というのが無理というものだ。

 だからといって日数をかければ良い、というものでもない。こちらがあちこち歩き回り、カメロンの出現ポイントに先んじて訪れたとしよう。我々の痕跡を見たカメロンは警戒するだろう。そんなポイントが二ヵ所、三ヵ所と重なれば、カメロンはこの森から出て行ってしまうかもしれない。

 焦りがにじむ。レジェンドにチャレンジというのが無謀な行為とはわかっているが、それでも「あわよくば」という思いはある。エースのカードが二枚しか無いのに、大役を期待するのと似ている。

 無理と知っていても諦めた者に猟果は無い。

 カメロンへの挑戦は俺にとって、先人猟師からの教えそのもので、諦める訳にいかないものなのだ。

 シーズン最終日の日没の瞬間まで、弾が一発でも残っているならば、猟師は狩りを諦めてはならないのだ。

 間もなく昼前。予定通り、待ち合わせ場所に到着。マミとライゾウが帰って来るのが見えた。歩いている姿から、探索が空振りだったと知れる。

 だが一応、念のため。

「そっちはどうだった?」

「ポイズンラビットの形跡は見かけたんだけどね」

「カメロンさんはお留守でした」

「ライギョの池付近は、見て回ったか?」

 はい、とマミが答える。

「餌と水がある場所に、カメロンさんは現れるだろうって、ライゾウ君が」

 さすがライゾウ、抜かりが無い。

 デコとサンペイも帰って来た。

「空振りだったわ」

「水と餌のある場所をと思い、ライギョの池周辺を回ったので御座るが、痕跡ひとつ残っておらぬ」

「なるほど、みんな考えは同じだな」

「ということは、隊長も?」

 ポッコリ空間の水場の話をした。そこもラビットの形跡だけで、カメロンの姿がなかったことも。

「こうなると選択肢がふたつ御座るな、隊長」

「……毎日同じポイントを見張って、カメロンの出現を待つか? さらに捜索範囲を広げて、より積極的にカメロンを捜すか、だな?」

「他にも考えられるよ、ダンナ。捜索時間ってのも問題だ」

「ポイズンラビットさんが夜行性で、それをカメロンさんが食べるなら……カメロンさんも夜行性という可能性がありますねぇ……」

「他にも可能性があるわよ、マミ!」

 妖精の声だ。どこにいる? 辺りを見回すと、樹の幹に背中をもたれさせ、ニヒルな笑みを浮かべる妖精が枝の上に。

 なにやら……黒い羽根を……それも巨大な奴だ……。

「リンダさん、どうされたんですか? その大きな羽根は?」

 妖精リンダはマミの肩に止まった。

「カムイ、これがカメロンの羽根よ。ポイズンラビットの寝床を襲って、餌にしたみたいね」

 カメロンは昼行性なのか? やはり怪鳥の生態は、そこからしてわからない。

「足跡を尾行けたら、水場で水を飲んだ形跡があったわ」

「池か? 川か? 氷は割れていたか?」

 有毒モンスターのポイズンラビットを襲った形跡。残された巨大な羽根。それらはカメロンのものという可能性が高い。

「池だったけど、氷は割れたままだったわ。きっと午前中に水を飲んだのね」

 冴えてるじゃないか、妖精リンダ。なかなかの名推理だな。これでカメロンは、少なくとも昼間に活動「することがある」と解った。

「水を飲んだあと、カメロンはどこへ行った? 寝床に帰ったのか?」

「そこまではわからなかったわ、残念ながら時間切れ。お腹減っちゃったから」

 クソッ! 寝床まではわからないのかっ! 今度いつ、餌を求めるのかわからないってのに!

 強く頭を振って口汚くののしる。そのことをデコに咎められた。

「駄目よ、カムイ。悔しいのは判るけど、猟場で汚ならしい言葉は御法度よ」

「そうですよぉ、親分。まずはリンダさんを褒めてあげてくださいな」

「隊長、焦りすぎで御座る。手掛かりがあっただけ、収穫に御座る」

 むぅ……こいつら、次から次へと……。まあ、悪いのは俺なんだけどさ。

「ダンナ、全力を尽くすためには檄が必要だよな」

 ライゾウだけは、俺の愚行を肯定してくれた。

「明日なんて無い。今この時を大切にしなくちゃ。今を大切にできない奴に、明日も未来も微笑まない。そんなダンナにピッタリな、魔法の言葉を知ってるぜ」

「ほう? なんだその言葉とは」

 ライゾウはニッコリ笑う。

「なんくるないさーーっ! ……全力を出す奴は、きっとなんとかなるって意味らしいよ」

 今が駄目でも明日がある。ここで全力を尽くさない人間に、明日は微笑まない。全力を尽くしているならば、あとは神さまにまかせましょ。今日の結果が悪くても、今日の努力は未来につながる。

 俺も聞いたことがある言葉だ。

「すまなかったな、リンダ。そして、よくやった」

 ライゾウの言葉で、自分を取り戻すことができた。

 俺たちは猟師。猟師というものは常に全力を尽くす。その結果は、山の神さまにまかせるものだ。

「ハチミツと金平糖の報酬は、俺にまかせておけ」

 マミに、妖精から詳しい場所を聞いてマップに仕上げることを命じる。

 その上で……。

「チームしおから、レジェンド級のモンスターの存在を確認した! 大戦果だ! 今日は引き上げるぞ!」

 すでにへとへとなメンバーたちは、こんな時だけ「おうっ!」と声をあげた。


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