カメロンの身になって考える
一人雪の森をゆく。
一人きりなどずいぶん久しぶりの気がした。だが秋口にマミをひろう前はずっと一人だったのだ。
一人の秋はまずカモを撃ち、キジを撃ちして収入を得ていた。時には小物のモンスターの駆除……小物猟師で散弾専門だった俺は、主に鳥系のモンスターを駆除していた。もちろん一人きり。そんな俺にとってポイズンラビットなど、小さくて高額な獲物だ。駆除依頼が出ただけで、小躍りできる獲物だった。
それが今じゃどうだ? 最高の獲物を見かけても、撃つなときたもんだ。おまけにレジェンドへの挑戦。変われば変わる、人の身分よ。
そうそう、一人時代の俺は雪が降ったら主にウサギを追いかけていた。以前、ウサギは犬を使えと言っていたが、人間の単独猟も不可能ではない。ひたすら歩くだけだ。
ここいらがウサギのポイント、という区域に入り、ひたすら歩くかひたすら待つ。極寒の中で骨まで凍えながら、干し肉やビスケットをかじり、寒さと飢えに耐えるのだ。
シーズン中は、大物猟に参加することもある。ポイズンラビットを追い立てたように、勢子役をやらされていた。もちろん途中でヘバったりと、結果は散々。スキーの必要性を実感したもんだ。
俺はあまり山や森の奥深くまでは入らなかった。だからカンジキで十分、スキーなど使ったことはなかったのだ。人里に近い里山で、チョロチョロとハトやカモやウサギをやる。鉄砲猟師としてのキャリアは長いが、割りとショボい経歴しかない。
それが一人カムイの正体だ。
まあ、だからといって恥ずかしいことは無い。無理に大物をねらって遭難するよりも、必ず生きて還ってくる。それが俺の信条だからだ。棺桶の中で眠るには、まだちょっと早すぎる。できることなら俺としては、雪山で永遠の眠りにつくよりも、美人のお姉ちゃんの腹の上で息を引き取りたいと願っているしね。
森の中を歩いていると、奇妙なコブを見かけることがある。動物の足跡だとはわかるのだが、どのようにできるのか、一般人には想像もできないだろう。
例えばいま、目の前にはキツネの足跡がある。それがイボでもできたように、点々と雪の上に生えているのだ。
なぜキツネの足跡とわかるか? 奴らの足跡はスマートだ。一直線に四つの足跡が、美しく並んでいる。タヌキだとこうはいかない。割りとドン臭くヨタヨタと、フラつくようについているのが、タヌキの足跡だ。
さて、キツネの足跡。これが穴をあけたように凹んでついているなら、みんなにも理解ができるだろう。しかし足跡がイボかコブのように、出っ張っている。生えているのだ。
これは比較的古い足跡に見られる現象だ。
まず動物がパウダースノーの上を歩く。目方が軽いから出来る芸当だ。当然踏み締めた部分は、雪が押し固められるね。
押し固められているから足跡部分だけ、風が吹いても飛ばされないで残る。パウダースノーは風に飛ばされる。
だから足跡はイボかコブのように残される、という仕組みだ。
木々の枝に積もった雪を見れば、昨夜は風がなかったとわかる。だからこの足跡は、昨日より前につけられた足跡、と分かるのだ。
そんな足跡を見分ける技術、トラッキングをしながらカメロンを捜す。この辺りは奴らの餌となる、ポイズンラビットがたくさんいる。ならば奴ら、カメロンの痕跡が残っていてもおかしくはない。モンスターを含めて、生き物というのは餌場に近い所に住み着くはずだから。
その他、怪鳥というならば羽毛が落ちている場合がある。これなどはやはり急激に羽ばたいたりでないと、抜け落ち難い。急激に羽ばたくとなると、縄張り争いが考えられる。しかしこんな里に近い場所の、レジェンドモンスター。縄張りを争うライバルが、そうそういるとは考えられない。あるいは雌に対する求愛ダンス。これもまた、同じ理由で可能性が低い。
急激に羽ばたく理由の三つ目として、外敵に襲われた緊急事態が上げられる。しかしカメロンの天敵とは、何か? 身長二メートル以上の鳥類。それもただの鳥類ではなくモンスター。これを餌とするモンスターなど、いるのだろうか? 天敵……簡単に言うと餌にする生き物というのは、大抵その動物と同等あるいはより大きな個体である。そうでなければ、群れ。
どれもこれも考え難い。あるいはカメロンの情報が少なすぎて、想像することができないでいる。
「むぅ……」
森の中で一人、唸るしかなかった。
ならばと生き物にとって必要なものを、他に考えてみた。熟考することしばし。
水という考えにたどり着いた。まずは飲料水。雪があるから飲料水は必要なかろうと考える方もいらっしゃろうが、雪を口に含んでも水分はわずかしか得られない。口の中を冷やす程度にしか、役に立たないのだ。そうなると大量の雪を摂取しなければならない。それは非効率的だ。例え氷が張っていても、それを割って水を飲んだ方が早い。
そうなると、どのような時に水分が欲しくなるか? 朝の起き抜け? 人間の二日酔いならばそうだろう。しかしカメロン酒など聞いたことが無い。ではどのような時か?
これは人間を例にするが、食糧を大量に摂取すると消化を助けるためか、水分を欲すると聞いたことがある。そうすると餌場に水分。
ライギョの池が思い当たった。そこに向かったのはマミ・ライゾウのベアと、デコ・サンペイのベアだ。
何故彼らの出発前に、このアドバイスの送ることが出来なかったか。自分を責めてしまう。それができていたならば、より効率よくカメロンを押さえられたかもしれないのに。
……幻を見た。
死んだ親父の幻だ。
畜生、腹を抱えて笑ってやがる。コイツはいつだってそうだった。初めての鉄砲でコジュケイを五羽仕留めたのに、「酒のアテにもならねぇな」と笑って、一人でペロリと平らげちまった。
初めてのウサギの時だってそうだ。「血抜きがイマイチだな、こんなもんギルドに納めるな。俺の名折れだ」とか言って、ペロリ丸々一羽を平らげやがった。
とにかく俺のやる事なす事、ケチをつけては笑い者にしたがる、嫌な親父だった。
そのクソ親父が、幻になってホザく。
「小僧っ子が、一人前のツラして隊長のマネしてやがる! ハナタレが他人にアドバイスなんざ、一〇〇年早いんだコノ馬鹿馬鹿バーーカ!」
一人カムイはしょっぱい存在。チョロチョロとケチな猟をするのがお似合い。
知ってら、クソ親父。
俺なんてマスターきららとマミがいなけりゃ、ケツの穴みたいな猟師でしかないんだ。
猟師は謙虚たれ。
誰もが授ける教えだ。
自分で見つけた獲物ではない。謙虚になればこそ、獲物の発見を「出会い」と言う。
隊長になったからといって、慢心するなかれ。
その考えに至るとクソ親父。
舌を出してオッケー・サイン。片目をつぶって消えていった。
わかったよ、クソ親父。
俺は俺で水場を捜して、カメロンの痕跡を捜してやるさ。




