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ポイズンラビット


 それから。午後はスキー訓練。休耕となった畑を歩き回らせていただく。平地を歩いたのだが、膝丈程度の雪で難儀する。特にソリを引くと、つらさもひとしおであった。

 しかしライゾウが先行で歩き、道筋をつけてくれると随分歩きやすくなる。

「先行者のことを、ラッセルと申す。ボブスレーに荷物が乗ると、ラッセルのありがたみが判りますぞ」

 サンペイが言うと、ソリが重くなった。振り向くと、ボブスレーにデコが座っていた。俺に断りも無しに……。

「さ、隊長さま。隊員に頼もしいところを、見せて下さいな」

 心の中に毛玉のような、むしゃくしゃしたものを感じる。しかし顔には出さない。俺は大人なのだ。

「いくぞ、デコ」

「がんばってね、隊長♪」

 静かに静かに、ゆっくりと。はじめの一歩、それから二歩。少しずつ足を進めてゆく。空ソリの時点でコツを掴んだのだが、ソリ曳きは力や勢いではない。いかに休まず歩くかだ。どれだけ勢いよく引いたところで、先は長い。そんな引き方ではすぐにバテる。ならば歩みは遅くとも、休まず歩く方が距離を稼げる。

 そして、休まず歩くためには無理は禁物。ゆっくり静かに。これが肝なのだ。

「腸抜き中型」

 サンペイが呟いた。

 超大型のシカは250ポンドを越えるウェイトだ。大型は200ポンドオーバー。腸を抜くとウェイトは約半分。

 ではミドル級、それ以下となるから180ポンドとして腸を抜けば90ポンド。キログラムに直すには0.45をかけて……うむ、サンペイの見立てでデコの目方はそのくらいか。

「マミ姉も乗ってみるかい?」

 ライゾウもボブスレーを引いてきた。こちらは猟具運搬の目的で購入したものだ。

 そうそう、ここで言っているシカのウェイトは、あくまでファンベルク王国のシカが基準だ。もしも君たちのところに棲むシカが、これより大きくても小さくても、あれこれ言わないでいただきたい。聞いたところによると寒い地域に行けば行くほど、種は巨大化するそうだ。だから君たちのところに棲むシカが俺たち基準より小さいならば、君たちは暖かい地域に住んでいるんだろう。なんだカムイ、小物じゃん。と笑うなら、君たちはもっと寒い地域に住んでいると想像する。

 で、ライゾウのボブスレー。

「……よろしいんですか、ライゾウ君?」

「乗って乗って」

 ライゾウはニコニコ見上げていた。マミは不安そうに見下ろしている。

 男女の違いはあるが、二人の身長差は歴然。しかも骨格で比べるなら、細身のライゾウと豊満なマミ。大人の女性と小僧。とてもではないが、ライゾウにマミを引っ張る力があるとは思えない。

 それでもライゾウの押しは強い。タレ目のマミをゆるさない。半ば強引にボブスレーの人とした。

「……うむ!」

 デコの時とは違って、サンペイは唸るだけ。決して目方を読み上げたりしない。

 ただ、俺の見立てでは……。デコが乗ったボブスレーよりも、明確に雪へ食い込んでいる。

「それじゃ行くよ、マミ姉」

「はい……お願いします……」

 ぐももと厚い雪を踏み締める音。ライゾウはゆっくり足を進め、ボブスレーも静かに動き出す。動き出してしまえばこっちのモノとばかり、ボブスレーは徐々に加速。一定の速度で進んでいた。

「やるもんだな、ライゾウ」

「そりゃあね、おねえさまの前ですもの」

「なんじゃそりゃ?」

「あぁ、独身には判らないわよね」

 何を言ってるやら、さっぱりだ。とにかく俺も練習を続けなければならない。

「お二人ともコツがつかめたようですな」

 ということで、今度は女性陣が空ソリを曳いて歩く。それが終わったら、今度は斜面の登坂。ヒルクライムだ。

「実際、斜面は平地よりも雪が浅ぅ御座る。スキーよりもカンジキの方が、便利なこともありますことを覚えておいていただきたい」

 ただしそれは、里山の話。サンペイが活動した山奥では、スキーも役に立たない雪深さだそうだ。まあ、そうでなければシカも里山へ降りては来ない。

 冬の日暮れは早い。ほどほどに訓練してほどほどに終わっておく。そうでなければ本番の明日、筋肉痛で動けなくなるからだ。

 夕刻、店に帰る。服を着替えてみんなで銭湯にゆく。


 そして、カメロン駆除の朝がきた。スキー用具、ボブスレー、鉄砲に解体用具といった大荷物で、チームしおからは出撃した。

 最終的にはカメロンの駆除が目的だが、ポイズンラビットも捨ててはおけない。ということで、道中でメンバーにポイズンラビットの生態を説明しておく。

 まず、耳が良い。実に高性能な聴覚を持っていて、逃げるのにすばしっこい。そして追い詰められたり、敵を威嚇するとき毒を吐く。これが致死レベルの毒だ。我々猟師も弾を当てたと思って、倒れたラビットに迂闊に近づくとたちまちヤラれてしまう。要注意だ。

「ちょっと、カムイ」

「どうした?」

「そんな子供相手の知識、あたしたちに必要なの?」

「危険は油断の中にある。基本をおろそかにしてはいけない」

 ということで、続き。

 ポイズンラビットは草食で、毒花をはじめとする有毒植物をよく食べる。逆に言うならばポイズンラビットの生息圏には、有毒植物が群生しているということになる。その場所を薬物採集の冒険者に教えてやると、大層喜ばれるのだ。

 以前語ったかもしれないがが、ポイズンラビットの亡骸はギルドで引き取られる。世間一般ではその生態は明らかになっていないというから、ギルドで解剖して採毒、解剖、研究しているのだろう。

 さて、ここからが我々猟師にとって大切なポイントだ。

 いま述べたようにポイズンラビットは、毒草の群生地に生息している。まずはそこへ行くべきだ。大抵ギルドの看板で、「この先毒草地帯、危険!」と知らされている。

 そんな毒草地帯でラビットたちは、穴を掘って暮らす者。地面の凸凹に身を隠して暮らす者と、バラエティーに富んだ生きざまを見せてくれる。ただ共通して言えることは、夜行性ということ。薬物食らって夜中に出歩いて、なかなかのアウトロウと言える。

 では昼間、どのように撃つのか?

 大声をあげて練り歩き、驚いて飛び出したところを撃つ。あるいは巣穴に爆竹を放り込んで、驚いて飛び出したところを撃つ。

 どちらにせよ、寝ているラビットからすれば、迷惑千万な猟になる。


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