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買い出し


 話は決まった。早速準備に取りかかることにする。

 まずは防寒装備。異郷のマミとデコは当然持っていない。これは買い出しに行かせる。そして通常の猟服。こちらは大丈夫。動きやすいもののはずである。

 しかし雪の中を歩くのだ。靴はインナーにボアが入って、雪が侵入しないものを用意しなければならない。そしてスキー。これは本来猟師が作るものだが、そんな時間は無い。軍からの払い下げを商いしている店があったはずだ。そちらを覗いてみることにしよう。もしかしたら靴も良いものがあるかもしれない。

 ポイズンラビットを駆除することもある。アンチ・ポイズンの魔法がかかった袋も欲しい。こちらは魔法道具屋に行けばなんとかなるだろう。

 そしてソリだ。なんと言ってもソリだ。これは絶対に必要である。こちらは古道具屋をたずねてみることにしよう。

 さしあたって。

「まだどこの店も開いてない。コーヒーでも煎れてくれ」

「というか、カムイさん?」

「まだいたんですか、アドリアさん」

「それらの道具、ギルドで揃える気は無いんですか?」

 おぉう! 普段ギルドにたよらないから、念頭になかったぜ。というか……。

「あるんですか、これだけの道具が?」

「ギルドで揃わないものはありません、おまかせください」

 ならば早速買い物だ。

 まだ朝早いが、商人など叩き起こせばどうとでもなる。俺たちは雪の町に出た。

 アドリアさんの先導で、いざギルドの商会へ。商会は庁舎の隣のブロック、建ち並んでいる倉庫が拠点だった。

「よし、手分けするぞ。マミとデコは防寒装備を、ライゾウは防毒の袋。サンペイは俺と一緒にソリとスキーだ」

 全員が散る。支払いはギルドの報酬から、ということで打ち合わせてある。

 早朝だというのに働いている職員を捕まえ、ソリとスキーの売り場を訊く。職員はすぐに案内してくれた。専門の職員に引き継がれる。

「今日はどのような御用向きで?」

 さすがギルドの商人。俺たちが客と知るや、揉み手揉み手ですり寄ってきた。

「スキーをセットで五人分、狩猟で使う山スキーだ。それと大型ボブスレーを二基」

「ほ? 狩猟用ですか! それでは頑丈なものがよろしいですな」

「そうなのかね?」

「それはそうです。雪、狩猟、スキーとなれば遊びとは違います。人のいない場所へおもむき、生きて帰ってくる。それを可能にするのは、頑丈な行軍用具」

 しかし悪戯に頑丈で、目方が重くては生還に支障をきたす。

「なるほど仰る通り。その場合は、敢えて故障覚悟のスキーを購入されては?」

「故障覚悟だと?」

「そうです。その分、補助用具に力を入れれば差し引きゼロですから」

「つまりは工夫して生還しろと?」

 左様でございます。そう答えて、職員は目を光らせた。

「売り子として本音を言わせていただくなら、なに人間ごときがどれだけ道具を揃えたところで、雪山にかなう訳あるまいて。むしろ何としてでも生還する、生きて還るのだという信念こそが最強の道具と確信しておりますので」

「気に入った、それでこそ猟師だ。まずはスキーとブーツを五人分そろえてくれ」

「かしこまりました」

 次はボブスレーだ。ボブスレーといっても、雪上ボートにほど近い。というか、そのまんまじゃねぇのかこれ、という形状だ。

「いえいえ、ボートはそこが竜骨で尖ってますが、ボブスレーは底面が平らになっておりまして」

「隊長、ボブスレーの方は頑丈な物がよろしいかと」

「うむ」

 その通りだ。人間の体ひとつならばどうとでもなるが、シカやカメロンを運ぶとなると話は別だ。獲物は引きずったりして傷めたくない。

「より良いものを見せてくれ」

「かしこまりました」

 その間、ロープやシカを吊り上げるフックなとを見て回る。なかなか頑丈そうなものが揃っていた。大物猟を経験しているサンペイの目にも、満足いく品が多いようだ。

 こうしてボブスレーも手に入った。帰りに倉庫の表で引き取ることにする。他の者たちはどうしているか? 待ち合わせ場所に向かってみた。

 すでにライゾウが待っていた。さすが機動力のライゾウだ。仕事が速い。

「マミとデコはまだか?」

「女だからねぇ、買い物には時間がかかるって宣言してたよ」

 いいものは手に入ったかと、ライゾウが訊いてきた。スキーはヤワだが軽量なものを手に入れたと教える。そしてソリに関しては、頑丈なものにしたことも伝えた。

 さらには小道具。シカを吊ったり解体したりするのに、必要なものを仕入れたことも教える。

 待ち合わせ場所のそばでは、コーヒーを支給していた。ライゾウとサンペイは飲んだが、俺は煙草だけにしておいた。

 二人がコーヒーを飲み終え、俺が煙草を三本灰にしても、娘たちは帰って来ない。女の買い物に短気は禁物だが、こういう無駄な時間は好きではない。野郎三人で防寒売り場へ突入する。

 マミとデコはすぐに見つかった。やはりあれこれと品定めを繰り返している。

「あ、カムイ。ちょうどよかったわ、これに袖を通してみて」

「おいおい、俺は防寒くらい持ってるぞ?」

「それくらい知ってるわよ。でもせっかくのチームなんだから、この際防寒着はみんなお揃いにしようと思ったのよ」

「そんなことで時間を食ってたのか」

「そんなことって何よ、大事なことじゃない」

「なんでもいいから、早く済ましちまおうぜ」

 それまで防寒着を選んでいたマミが、ピクリと反応した。

「いま……なんでもいいからって……おっしゃいましたね、親分?」

 ゆっくりとこちらを振り向き、あやしい微笑みを浮かべる。

「な、なんだマミ、その顔は? おっかないからヤメなさい」

 マミの手には、ショッキングピンクもまぶしい防寒着が、しっかりと握られていた。

「……なんでもいいからっておっしゃいましたね、親分?」

「まて、俺は男で中年だ。そのまばゆいばかりのピンク色はやめてくれ!」

「さあ親分……怖がることは無いんですよ? 誰でも最初は戸惑うものです……」

 ジリッジリッと、マミは間合いを詰めてくる。まさに、カムイさん大ピンチだ。

 ……まあ、結局防寒着は白で統一。本当は雪中迷彩が良かったのだが、俺に口をはさむ権利はなかった。

「隊長! ライゾウどのは意外とピンクが似合いますぞ!」

「着せるなよ馬鹿! っていうか着るなよ、ライゾウも!」

 ライゾウは細面の痩せ型だ。意外なくらい女物が似合ったりする。

「隊長! 山の中で辛抱たまらなくなったら、ライゾウどのにお願いしてよろしいか!」

「何をお願いするつもりだ、貴様っ!」

 後に知ったことだが、一部地域には念友という制度があるそうだ。もちろんサンペイの地域には無い。冗談で言っただけらしい。

 サムライというのも、意外と砕けた人種のようだ。


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