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ムラタ!


 マタギ、アキヤマ・サンペイの鉄砲もまた、薬莢式の鉄砲らしかった。しかし我々のような元折れ式ではない。謎の形状をしている。

「では、拝見します」

 いつものようにマスターきららは、目より少し高い位置に鉄砲を掲げ黙礼。鉄砲の外観をしげしげと眺める。

 鉄砲は機関部右側にレバーが生えていた。それを掴んだマスターきららは、ガチャガチャっと無造作に動かす。すると機関部が口を開けた。

 俺の目に映る限り内部はピカピカに輝いていて、まるで新銃のようである。よほど丁寧に手入れをしているようだ。あれこれいじくり回したマスターきららは、満足そうな顔で鉄砲を返した。

「……眼福でした」

「いかがでしたか?」

「初めて見ましたが、これがボルト・アクションというものですね?」

「さすが、お目が高い」

 ボルト・アクション。なんだそれは? というか、この鉄砲がそのボルト・アクションそのものなのだろうが……。

「みんな、後学のために聞いておいてね。このボルト・アクションという形式は、私たちと同じ薬莢式鉄砲の一種なの」

 マスターきららが説明してくれた。

「私たちの元折れ式は弾の交換に……」

 ライゾウの水平二連で実演する。

「鉄砲を折って銃口を下げるか、肩に押しつけた床尾を体から離さないとならないのね。……つまり」

「一度かまえが崩れる……というか、ねらいを外さないとならないわね」

「その通り! ところがボルト・アクションは、左手と肩で鉄砲をはさんでいるから、右手でボルトを操作して……」

 アキヤマ・サンペイが立ち上がり、実演してくれる。

「ねらいを外すことなく、リロードができるのよ」

「熟練すれば一息に三発は撃てまする」

 その熟練した者がお前だろう、と言いたくなる手つきで、アキヤマ・サンペイはボルトを操作。空薬莢を入れて薬室を密閉、引き金を引いて排出を繰り返した。

「機関部が頑丈に作れるから、ボルトアクションはかなり重たい弾を撃つこともできますね」

「左様」

 重たい弾、かまえを崩さぬ連射……。その辺りがひっかかった。

 カモシカ撃ちの名手という二つ名に、すっかり騙されていたようだ。

「アキヤマさま。その鉄砲、もしかするとカモシカ狙いに生まれたものでは、ありませんね?」

「さすがは隊長、慧眼に御座る」

「どういうことよ?」

「何を狙うんですか、親分?」

 ライゾウに、マタギ鉄砲の口径をあらためさせた。

「オイラたちより小さくて、マミ姉の鉄砲よりは大きいかな?」

「十六番径に御座る」

 話に聞いたことがある。アキタ領のある北方には、少し特異な文化が育ち、独特な鉄砲を鍛える業師が存在すると。

「銘は、うかがうまでもありませんね」

 マスターきららが口角を上げた。

 アキヤマ・サンペイは、「ムラタに御座る」と答えた。

「いやしかし、独自の文化を持つアキタ領とはいえ、これは変わり種すぎるのでは?」

「必要が道具を生んだので御座る」

 アキヤマ・サンペイの言葉に、やはりと確信を得る。

 このムラタは、獲物を狩るために生まれた道具。その獲物を狩るためには、強力な弾と速射能力が必要。

 ではその獲物とは?

「この鉄砲は、クマ撃ち専用に御座いまする」

「……なるほどねぇ」

「それで連射と重たい弾が必要なのか」

「でもこれだけすごい鉄砲があれば、クマも怖くないですねぇ」

「ふっふっふっ、それは違うぞ、マミ」

 クマと鉄砲。一発でしとめろよ、などと簡単にのたまう読者は、すでにいないことと思う。いかに鉄砲とはいえ、クマのどこを撃っても死んでくれる訳ではない。

 狙いはひとつ。眉間の急所、この一点しかない。それ以外の場所に当たっても、痛みと攻撃された復讐心に燃えて、クマは逆襲してくるのである。ましてクマも、簡単に眉間をさらしてくれる訳ではない。なかなか射撃のチャンスは少ないのだ。その間に距離をジリジリ詰められ、いつ来るかいつ来るかという重圧にさらされる。

 鉄砲一丁で無敵気分など、夢のまた夢でしかない。

「おぉう……そんなに怖いものだったんですか。……申し訳ありません」

「うっかりするのも仕方ない。お前はクマより怖いとされるオークを、バタバタ倒したんだからな」

「なんと? オークをですか! しかも、バタバタと?」

 マスターきららはマミの鉄砲を手にして、アキヤマ・サンペイに差し出した。

「私の鍛えた、スラッグ弾専用の鉄砲に御座います」

「拝見する」

 御存知四一〇番、きらら・スラッグ・スペッシャルだ。アキヤマ・サンペイはまずその軽さに驚き、距離調整用の物差しに唸った。

「マスターきらら、こちらの物差しは距離を合わせるために使うと見ましたが……」

「その通りにございます」

「それにしても、二〇〇の目盛が振ってある。そのような距離では、さすがにオークも豆粒でしょうに」

「私たちにとっては、豆粒です。しかし彼女にとっては、手が届く程度の距離にすぎません」

 マスターきららは、マミの魔法について説明した。

「ぬぅ……測距魔法ときましたか……。質問を重ねますが、マスターきらら。その距離をどのようにして、この元折れ式でまっすぐに飛ばすのですかな?」

「作り方は職人の秘密ですが……」

 マスターきららは鉄砲を折り、内腔をのぞかせた。アキヤマ・サンペイは「うっ!」ともらしたきり、動かなくなってしまう。さしものアニのマタギも、内腔螺旋に驚いたようだ。

「こ、このようなもの……いかにして……」

「ですから職人の秘密ですってば」

「お、おう……左様で御座った。……とはいえ、なんと美しい」

 ところでマタギの兄ちゃん、と声をかけたのはライゾウ。

「アキタでも鉄砲に工夫を入れてんだろ? どんな工夫が自慢なんだい?」

「ん! 訊くだけ訊いて教えぬは、卑怯の振る舞いだな。マスターきららほどの工夫ではないが、教えよう」

 と、ポロポロ懐の中から取り出したのは、一六番の装弾。こちらは紙巻きではなく、真鍮で巻いた薬莢である。

「この中の弾頭に工夫があってな、火薬が燃えると弾頭自身が銃身の中で、キリキリと回転するのよ。しかもだ、キアッパの弾頭は接触した時の面積が大きい」

 弾頭とおぼしき鉛の粒を、マタギは取り出した。

「アキタの弾は、この通り。しいの実のように、先をすぼめている。だから射入口は小さく鋭く、獲物の内部で弾頭が潰れ体内組織を巻き込み、ぐしゃぐしゃに破壊するのだ」

 だから、威力があると言う。マミの弾は接触面積がある。だからコンタクトの瞬間から体組織を巻き込んで破壊に走る。つまりオークの胸部を撃っても、筋肉や骨に阻まれて即死にならない場合がある。いや、あった。

 マスターきららは不満そうな顔をしていた。いや、それは不満というよりも、厳しい顔と言った方が正しいか? 鉄砲職人がさらなる高見を目指し、さらなる精進を誓っているような気がする。

「ところでアキヤマさま、今夜の宿などはお決まりですか?」

 デコが妙におしとやかな口をきいた。

「いや、まだ決めておらぬ。なにしろキアッパに来たら矢も盾もたまらず、マスターきららのもとへ馳せ参じた次第であって……」

「でしたらこの店で一夜を明かされては? いえ、冬の旅は危険です。どうせならキアッパに腰を落ち着け、ひと冬越してはいかがでしょう?」

 なにを言い出すやら……と思っていたら、デコは俺にウィンク。

 あぁ、シカ撃ちの男手を確保しようと言うのか?

 それならば……。

「実はアキヤマさま。私たちはこの冬、はじめてシカに挑もうとしているのですが、なにぶん大物に対して素人。どなたか達者な方に導いていただきたいと思っておりました」

「そうか……それはかたじけない。そして拙者のような若輩でよろしければ、知るところを余すことなくお伝えするが、しかし」

「しかし?」

「それでしたら拙者も、カムイどのの配下になりとう御座る。隊長より良い導いきを授かりたく思う」

「未熟の集まりでよろしければ」

 バンザイだ。

 素晴らしい射手が、良い鉄砲を背負ってやって来た。

 これでチームしおからはこの冬、シカに挑むことができる。


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