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オーク駆除後日談


 それから。

 俺たちは漸減邀撃のつとめを果たしたと、室長ワイにアピールした。妖精の偵察によると、オークは四の山から完全撤退。五の山に残党が少数残っているのみ。まだかなりの数が生き残っていたが、それも散り散りに逃げ去ってキアッパの町に影響は無いと説明した。

 だが非情の室長は、かくのたまった。

「じゃあ駆除本隊の護衛も、お願いします」

 誰もが予想していた言葉だ。予想はしていたが、聞きたくない言葉だった。

「待ってくれ、俺たちは死ぬか生きるかの戦争をしてきたばかりだぞ! せめて休みのひとつも求めたって、バチは当たらんだろ!」

「私個人、ワイという人間はカムイさん、あなたに絶大な信頼を置いてます。しかし室長という役職に就くワイという男は、石橋を叩いて他人に渡らせなければなりません。もう一人の私……つまり室長ワイは、こう囁いているんです。……現地と状況を知る有能な者たちを、護衛につけるべきだとね」

「それはわかるが、だがしかし……!」

「あ、そうそう。室長ワイは私の中に、もう一人いました」

 なんのこっちゃ? いぶかしんでいると、奴はホザきやがった。

「もう一人のワイは、こう言うんですよ。……干されたいのか? ってね。そんなことになれば、お互いとって不幸でしょう?」

 だむん! しっと! 考えられる限り、最悪の一言だ。なんだかんだ言って俺たちは、所詮ギルドの一員。そして奴はギルドの顔。こいつが一言口をきけば、俺たちは永久に冒険者をできなくなっちまう。

「……カムイ」

「……カムイさん」

「……ダンナ」

「……親分」

「……モテない独身」

 みんなが心配そうに、俺を見詰めた。約一名、笑いを噛み殺したデコがいたが。

「おう、ワイよ」

 できるだけコワモテ、できるだけドスを効かせた声で言う。

「室長さんよ……報酬はちょっぴり上乗せしてもらえるかな?」

「上乗せしても構いませんが、ノルマも上乗せになりますよ?」

「わかったよこのゲス野郎! 引き受けてやらぁ、鬼、人でなし、巨乳マニア、二次元耽溺者! 手前ぇホントにおぼえてやがれ! 明日は何時どこに集合なんだよ、バーカバーカバーカ!」

 俺の罵詈雑言に、ワイは穏やかな微笑みを浮かべる。

「良かっです、カムイさん」

「なにがよ?」

「もしも貴方がロリコンと言ったら、今頃生首がそこに転がっていたでしょうから」


 そして……。

「なんてこと約束してくんのよっ!」

 マスターきららにまで怒られた。

「私が心血そそいで作った弾をこんなに使って! それはもちろん正解よ、バシバシ撃ってこその猟師なんだから! でもね、ストックの無い現状で『また弾ください』なんて言っても、ある訳ないじゃないっ!」

「……あの、錬金術師に頼むなんてことは」

「私、アレ……大っっ嫌いなのっ! なによあのとり澄ましたイヤラしい顔っ! いっつも私のこと、『たまたま当たった発明品』とか、『理論もなにもありません』とか、ケチばっかりつけてっ! こっちが仕事を発注してるってのに、なんで下請けの方が偉そうなのよっ!」

 いやマスター、その辺りの事情は、俺たち関係ないっスから……。

「だけど私、新型スラッグの製作方法はまったく教えてないモンね! へっへ〜ん、ざまぁプー!」

「……ンな子供じみたことして、最後に困るのは誰ですか?」

「私じゃないっ、チキショーっ!」

 ヘイ、みんな。知ってるかい? うちのマスターは城にも招かれるような人物なんだけど、実態は世間一般のガキよりも、はるかにタチが悪いんだぜ。

「どうにかなりませんか、マスターきらら?」

「一応ストックは、用意してるんだけどね」

 まさかこんなに弾が必要になるとはなぁ、とかなんとか。マスターきららはブツクサ言いながら、カウンター背後の棚を漁り始める。

 するとまぁ、出てくる出てくる。マミ専用のスラッグ弾、俺たちの散弾、デコの散弾と二〇番スラッグ。

「さすがマスターきらら、在庫を確保しているあたり、間違いがありませんなぁ」

「なに言ってんの? これで私は今晩も遅くまで作業、明後日の弾を作らなきゃならないわ。今回はこれで打ち止めだもん」

 いや、マスターきらら。嫌いでもなんでもいいから、錬金術師に作ってもらった方がいいっスよ?


 さらに言うならば、駆除本隊の案内はもっと茶番じみていた。

 レベルのあまり高くない剣士、魔法使いなどが一〇〇人以上集められ、兵隊ではないので統率が取れなかったのだ。つーかこの駆除本隊、隊長は誰よ? という腐れた集団だったのだ。

 ワイワイガヤガヤにぎやかに。おかげで気配を察したオークたちは、そそくさと逃亡。まったく出会いが無いという有り様だった。

「おいおい、オークの群れなんて本当にいるのか?」

 いるとも。お前の足元にフレッシュな足跡が見えないか?

「二〜三頭のオークを見て、駆除が必要とか話がふくらんだんじゃないのか?」

 あちこちに残る痕跡から、オークが二〜三頭しかいないと見るなら、お前の目は節穴だ。

「なんでも数日かけて鉄砲屋がかなりの数、駆除に入ったらしいけどよ。やめて欲しいよな、尻拭いなんてよ」

 おめでたい奴もいたもんだ。何を隠そう俺たちは、お前らの尻拭いのためにいるのだ。それもわからんのか、愚か者どもめ。

「やあ、ウェーブの髪がキレイなお嬢さん。駆除が終わったらどっか遊びにいかない?」

「うちの主力にチョッカイかけるの、やめてもらえませんかね?」

 一事が万事、この調子。経験が浅く無駄に若いものだから、馬鹿な上に活動的という手に負えない厄介さだった。

 終いには……。

 オークのいなくなった山、一番最初に乗り込んできたのは、御存知カガリビ鳥である。

「おい! カガリビ鳥だぞ!」

「高レベルモンスターじゃんか! 魔法使い、魔法打て魔法!」

 何を考えているものやら。というかお前ら、カガリビ鳥のレベルの高さに目がくらんで、一般冒険者との相性を考えてないだろ?

 案の定、魔法使いは呪文の詠唱に手間取り、火球や氷槍が間に合った者がいても、素早いカガリビ鳥の動きについていけてない。それらしい攻撃をした者もいたが、悲しいかな射程は一〇メートルほど。まったく届いていなかった。

「アルゲリョがやられたっ!」

「毒が回ってるぞ! メディック! メディーーック!」

 一人傷つき、二人倒れ、三人が戦闘不能という惨状。

 俺はおうかがいを立ててみる。

「あの、勇敢で女の子を口説く余裕のある冒険者さま方。少しお手伝いしましょうか?」

「なんとかできるのかっ! はやく! はやくなんとかしてくれっ!」

 泣きと詫びの声をたっぷり聞いたところで、俺たちは鉄砲をかまえる。カガリビ鳥の動きにあわせて、身体ごと鉄砲を振り……動く標的を叩き落とす。

 特にチャンピオン、ベルナルドの動きがキレていた。右に左に、鉄砲を替えてまたもやワンツー・パンチだ。

 黒と赤に染められた空が、みるみる晴れ渡ってゆく。未熟な冒険者たちは死を覚悟していたはずだが、不吉な影は彼らが嘲笑っていた俺たち、鉄砲猟師によって拭い去られることになったのだ。

 屈辱感が漂った。歯をくいしばっている。恥ずかしさに耐えかねて、顔を上げられない者もいた。まあ、若いんだ。己の愚かさをたんまりと味わうがヨロシイ。

 しかし、バカ中のバカはいる。

「おい、鉄砲屋!」

「へい、なんでがしょ?」

 いま時そんな返事があるか、という答え方をしたのは、小僧どもを馬鹿にし切っていたからだ。

「よくも俺たちの獲物を横取りしやがったな! これから俺たちのパーティーが、魔法攻撃をきっかけに突破口を開こうとしてたのに!」

「そりゃ失礼。ですが口先だけでは信用されません。どうですか、俺と魔法攻撃の勝負をして、生き残った方が正しいってことで……」

 装填完了。くの字に折っていた鉄砲を、真っ直ぐに伸ばした。

「……それで恨みっこ無し。決着としませんか?」

 ライゾウも弾を込めた。デコも鉄砲を伸ばしている。マミはタレ目のくせに、妙な迫力を出していた。

「ギルドで私闘は禁じられてますが、なに構いません。ここにいる者しか……現場を見てないんですから……」

 要するに、この場にいる者すべて葬れば、証人はいなくなる。その意味合いが伝わったのだろう。ガキはすっかり小さくなってしまった。


 なお後日談になるが、この馬鹿パーティーは翌日、町を出たらしい。

 そりゃそうだ。馬鹿による愚かな一言が、その場の若い冒険者たちすべての命を、危機に陥れたのだから。


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