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崩壊


 三の山、尾根に登る。そこから見下ろす北斜面の棚に、オークの姿は無かった。

「まずは三の山、奪還成功だなダンナ」

「なによ、昨日まで攻められてなかった場所を、取り返しただけじゃない」

 デコは憮然としている。

「本当に……面倒くさいからさっさと出て来てくれないかしら、そのキングオークとかいうの」

「まあまあ、最後に大物が出て来る方が、よりドラマチックってものだよ」

 チャンピオン・ベルナルドが、デコをなだめる。

「……おい……カムイ」

 ナバホが指を差す。次なる目標、四の山……ではない。その方角の空だ。

「……何か飛んでるな。ナバホ、わかるか?」

「……カガリビ鳥。……数は二〇」

 カガリビ鳥というのも、モンスターの一種だ。全体が真っ黒なくせに、トサカと羽の先端は血のように赤い。屍肉を食らう、人を襲う。空を飛ぶ、毒液を吐くということで、冒険者たちからは厄介な存在。高ランクなモンスターとして認定されている。

 しかし、我々鉄砲猟師からすれば、絶好の標的だ。なにしろ報酬は良いし、向こうから射程に飛び込んで来てくれるし、飛ぶ鳥は散弾の得意分野だしと、良いことずくめだ。

「……カムイさん、あれ撃ってもかまわないか?」

 マタゾウが懇願の眼差しを向けてくる。なにしろ先ほどのオークとの衝突、マズルロード隊は一発も撃っていないのだ。

 四の山の状況は気になるところだが、あんなオイシイ標的、みすみす逃す手は無い。

「そうだな、まずは山を降りて俺たちの存在をアピールしよう。その上でマズルロード隊が、カガリビ鳥を撃墜するというプランで」

「……決まりだな」

「しおからチームはマズルロード隊の護衛がメイン。オークたちによる突然の襲撃、それとカガリビ鳥による危機的状況にそなえることにしよう」

 ただし、マミとライゾウだけは四の山に専念。その動向を注意深く監視するように命じた。


 斜面から山裾、山裾から谷間へ。そしてその河原で、マズルロード隊は展開。俺たちしおからチームはその背後。マミとライゾウはセンター、俺がレフト、デコがライトに布陣する。

 鳥類は総じて視力に優れているが、カガリビ鳥もまた然り。俺たちが河原に布陣した時には、すでに旋回運動に入り、誰を狙うか決めている最中だった。

 カガリビ鳥の群れの中から、旋回をやめて外れる者が出た。

「来るぞ!」

 長老の声が鋭い。しかしまだ構えない。ギリギリまで視界を広く保つためだ。

 一羽、二羽三羽。バラバラと急降下してくる。端でみていると、その加速の凄さがよくわかる。

 ベルナルドが構えた。続いて息子。轟音とともに銃口から伸びる、黒色火薬の白煙。

 そして命を失い墜落するカガリビ鳥たち。

 だが、必死のダイブは続く。マタゾウが撃つ、ナバホが撃つ。そしてマタゾウという具合に、カガリビ鳥はその勢力を失っていった。

 最後は長老。そして二丁目の鉄砲を取り出したベルナルド。ヤコボは空いた父の鉄砲に、弾を詰めている。

「フランカ、射撃用意っ!」

 俺も構える。そうでなくては、カガリビ鳥の数に圧倒されそうだったからだ。

 しかしカガリビ鳥も半分に減っていた。俺たちを「餌にするには手強い相手」と見たか、東の空へと姿を消した。

「……うむ、マズルロード隊は再装填(リロード)するかの」

 安全を確認して、長老が言った。

 十二羽のカガリビ鳥が落ちていた。ライゾウが回収する。これに関しては、マズルロード隊のボーナスだ。駆除代金が出たら、報酬に上乗せすると約束した。

 カガリビ鳥は巨鳥だ。人間の子供くらいのサイズがある。すべてを回収するのは不可能なので、ライゾウは頭だけ落として、荷物袋に入れる。

 しかしライゾウ、幼少から親であるマタゾウに、猟師心得を仕込まれただけはある。カガリビ鳥を回収していても、山から目を離さない。

 重たくなった袋を背負い、ライゾウが戻ってくる。

「……ダンナ、オークどもが身をひそめてるぜ」


 正直言って意外も意外な言葉だった。よもやオークにゲリラ戦をする頭があったとは。猪突猛進、勇猛果敢。とにかく力まかせに突っ込んでくるのが、オークの戦法だと思っていたのだが。身をひそめて戦うなど、多少なりとも知恵がなければ出来ない芸当だ。

「それならどうするか? そこが問題だな」

「問題なんか無いさ、ダンナ。……よ、デコ」

 ライゾウが藪を指差す。

「あの藪の真ん中。撃ってみな」

 かすかな気配、枝葉を透かして見える体。それらのヒントから、オークの急所を割り出したのだろう。

「仕方ないわね……」

 弾は二発。でこフランカが鉄砲をかまえ、引き金を引いた。

 ギャッという悲鳴をあげて、オークが跳び跳ねた。他の藪、ボサの陰にひそんでたオークたちも、あせったのか一斉に姿を現す。

 距離五〇と踏んだオークに、俺も腰だめで射かける。ライゾウも構えた。そして撃った。

「マミは尾根の上を見張ってろ! お前の鉄砲は長距離用だ!」

「はいっ!」

 南斜面にひそんでいたオークは、ざっと数えて四〇頭。それが混乱をしている。俺たちは次から次へと射殺してゆく。

 一部の勇敢なオークは突撃してきた。しかしそれらの無謀なモンスターは、マズルロード隊の餌食となる。

 このラウンドもいただいたな。

 そう思った時だ。

 天を裂くような怒りを込めて、ひときわ高い咆哮が響き渡った。

 デカイ。他の個体よりも明らかに立派な体格のオークが、狂ったように叫んでいた。しかも本隊だろう、七〜八〇頭引き連れている。

「マミ!」

「はいっ!」

 魔法の気配。距離を測った証拠だ。そしてかすかな金属音。そこからパンッという銃声。

 俺は弾を詰め替えている最中だった。キングに目をやる。左胸から血を流しているのが見えた。

 詰め替えが終わり、また射撃に移る。弾の詰め替えには、キングの様子を確認する。

 まだ立っていた。

 そりゃそうだ。四一〇番なんて小口径が心臓に当たったところで、野生動物だって生きている。

 マミより大きな口径、デコの二〇番や俺たちの十二番でも、イノシシやシカを止められないことがある。

 しかしマミはそんなことなど知らない。

「マミ! 頭を狙え!」

「わ、わかりました!」

 声が上ずってやがる。やっぱり、動揺してやがった。

「心配するな! イノシシやシカでも一発じゃ死なない! 巨体のオークだ、頭も三発くらい当てないと死なないかもしれんぞ!」

 笑いながら言ってやる。

「心配いりません! 私の測距は万全です!」

 宣言したマミはもう一発。

「すみません親分! 頭撃っても倒れません!」

「もう一発かましてやれ!」

「はいっ!」

 後に錬金術師に聞いたところによると、頭を撃たれても死なない場合があるらしい。本当のことを言うならば、猟師の間で言われているのは、一発でヤルには首しかないということだ。

 実際、キングを倒すためにあと二発の弾を必要とした。

 キングの死は、そのタフネスに似合わずあっという間であった。急所に入ったのだろう。膝が折れて地面に伏しただけだった。それで事切れたのだ。

「マミ! 次だっ!」

「はいっ!」

 再装填、マミはさらに撃つ! 普通サイズのオークが倒れた。大将が死に、もう一頭も倒れる。

 軍団を形成していた尾根のオークは、動かなくなった。

 これまで自分たちを率いていたボスが、いなくなってしまった。数の上では有利なのだが、ボスを失ってしまった。

 しかもあの人間ども、自分たちのことをねらっている。

 そう考えたのだろう。

 負け豚の悲鳴をあげて、一頭……また一頭。本隊が崩れ出した。それを見た前衛のオークたちも、次々と背中を向ける。

 オークの群れは総崩れとなった。


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