前線突破
下山途中で状況は変貌。ごちゃごちゃと混乱していたオークたちが、まとまり始めたというのだ。
動きがおさまってきたなら、またもやマミのスナイプ。これは当然のこと。しかしどちらを狙うか? 改めて新しいリーダー格を探してスナイプするか? オークたちの突入に備えて、下……つまり俺たちに近い奴から狙うか?
ともかく、マミには狙撃の準備を命じる。
「どれを狙いますか、親分?」
「俺も迷ってるのさ。下から攻め上げるか、上から攻め落とすか……」
「当然リーダー狙いじゃない? また混乱させてやれば良いのよ」
無責任にデコが言う。
「だけどここでオークに突撃されたら、けっこう収集がつかなくなるぜ」
ちょっとは頭を使って、ライゾウが言う。
「ここで逃げられて、本隊に合流されるのも厄介よ?」
「迷わせるなよ、お前ら」
つい本音をもらしてしまう。
「カムイ、時間が無いぞ。……決断しろ」
無茶言うねぇ、うちの年寄りは。
「よし、まずは当初の予定通り、漸減邀撃の漸減邀撃をする。マミ、下の方にいる雑魚オークを始末しろ」
「わかりました! ライゾウ君、お願いします」
遠い的はライゾウに見てもらい、魔法を飛ばして正解な位置を捕らえる。
その上での、マミの一発。
「当たった!」
「よし、もう一頭倒したら、前進を再開する」
「はい!」
マミは鉄砲を折って脱包。再装填してかまえる。
さらなる一頭。マミは正確にオークの頭を射抜いていた。
「……カムイ……大当たりだ」
ナバホが指を差す。一部のオークが逃げ出している。それも、明後日の方角だ。
「ナバホ、オークの数はわかるか?」
「…………今いるのは……二八頭。四頭ばかり逃げて……三頭は死んでる」
「オークの様子は?」
「……隊を組んでるのか? まとまり出したな……」
全員に下山を命じる。谷合にある河原のフィールドは、先に制圧しておきたい。
斜面を下り切ったところで、マミに発砲を命じた。足止め目的だ。何しろオークたちも、後れ馳せながら下山をしていたからだ。
オークたちは犠牲を出しながらも、下山をやめようとはしない。勇敢なことだが、俺たちはすでに河原の制圧を始めていた。
最前線にはマズルロード隊が広く展開。その隙間を埋めるように、しおからチームが配置した。隊列は半円型、オークたちを包み込む形だ。人数が少なくとも、こちらは飛び道具。先に手を出せるので、包囲戦が可能だ。
しおからチームは左から、俺、デコ、マミ、ライゾウの順。マミにはデコとタイミングを合わせるため、距離五〇からの発砲を命じた。
オークたちは山を降り切る。こちらを見て、数の有利を悟ったようだ。
ピギーッと高い鳴き声。突撃してくる。
娘二人がかまえた。
「フランカさん、倒れたオークが五〇メートルラインです!」
「わかったわ、おねえさま!」
まずはマミの発砲。続いてデコの一射目。これは轟音だ。そしてふっ飛び方も派手だ。
一瞬のためらいが、オークの中に見られる。そこへデコの容赦ない二発目。
「ライゾウ、撃て!」
俺もかまえる。この隙を逃すな。というか確実に数を減らすのだ。
逃げ惑い、お互いに衝突して、オークは混乱に陥った。脱包即射撃。次々とオークを天に還す。
「撃ち方やめ!」
生き残り、逃げたオークもいたが、射撃をやめさせる。逃げた先は本隊とは違う方角。もう人間の脅威にはならない、と踏んだからだ。奴らはこの恐怖を経験して、二度と巨大な群れは作るまい。
ライゾウとヤコボに駆除の証、尻尾の回収をさせる。
しかし、マミがふらふらと歩み出た。
一頭のオークに触れて、何か唱えている。祈りの言葉のようだ。
あなたの死は私たちを生存させてくれる。これこそは尊き犠牲であり天に召される最高の資格である。とかなんとか。
生きるためには人間でも食べる。
そんな信念の持ち主と思っていたが、やはり娘というやつだ。
死者への弔いを馬鹿にしている訳ではない。ちょっと意外だっただけだ。マミを「命に対する敬意の無い輩」とが、思っていた訳ではない。むしろ生きる命の尊さを身をもって体験していると思っている。だから命を失ったオークを解体して、みんなで分け合って食べるとか、そのような行為に出ると考えていたのだ。
みんな瞑目している。ライゾウは手を合わせていた。俺も自分の信仰にのっとって、ライゾウと同様に手を合わせる。
そしてマミの言葉は、祈りから誓いの言葉へと変わる。
人は人、獣は獣、魔は魔。それぞれがあるべき場にあり、これを乱す者は神の御名を背に、断固として討ち払わん。なんとはなればそれぞれのあるべき所は、神の示した場である故に。
本当のことを言うと、俺やライゾウはマミたちと種族が違う。そのせいか、彼らの信仰する神のことが、あまり好きではない。俺からすれば、彼らの行為は神の御名を背にして、かなりのやりたい放題に見えるからだ。
だが今回は、彼らの神も悪くないかと思う。
これから死を送りつける。決して誉められるような行いではない。誰もが迷い、誰もがたじろぐような行いだ。
だが神の御名を背にしていれば、彼らは迷いなく断行できる。その行為の良し悪しを思うことなくではあるが。
それは愚者の振る舞いではないかと言う者もいよう。しかし我々人間がかつて、賢く振る舞えたことが、あっただろうか?
……とかなんとか言っていたのは、俺たちが信仰する神さまのことを、偉そうに語っていた神官である。俺が真剣にそんなことを考える訳が無い。
祈りは済んだ。
先ほども解説したように、彼らの眼差しには、あらためて信念が宿る。その信念が是であるか非であるか。それは彼らの判断するところでは無いらしい。
「マミ、妖精を出してくれ」
三の山の向こう側、北斜面に残存兵力は残っているのか? そこが知りたいところだ。
日の出。
不吉な闇が払われ、周囲がよく見渡せる時刻。ここからは、俺たち人間の時間だ。
ということで、妖精が帰ってきた。
「この山はオークがいないよ」
「よし! ありがとな、リンダ」
「どういたしまして」
妖精リンダはマミの髪の中へもぐりこんだ。
「まずは登頂、三の山を奪還する」
「しかしカムイさん、三の山に三〇頭もオークがおったなんて。こりゃどういうことかね?」
マタゾウが頭の上に「?」を浮かべていた。
「まず言えるのは、オークたちが前線を押し上げてきた。だから三の山が制圧された、と言える」
そして三〇頭のオークという数については。
「やはり戦力が増強されたと見るべきか?」
カモ撃ちの前チャンピオン、ベルナルドが口を開いた。
「俺もそう思う。だがそれも、キングが倒されれば自然消滅するだろうな」
安易な見立てではない。今回のオークの群れは、強大な力を持った個体のために発生したものだ。偶発的な自然現象に過ぎない。
「その個体を、誰かが故意に発生させたということは、考えられませんか?」
チャンピオンの倅、ヤコボだ。
「そんなことになったら、実に脅威だ。しかし誰かがキングを発生させたというのなら、メリットが無い。いたずらに自分たちの町を危機に陥れ、あとのことは我関せずというのでは、キングを生んだ意味が無いね」
「まるでガキのいたずらだな」
ライゾウは笑った。
「天才お子さま魔法使いが、無責任にキングを生んだなんてのはどうかしら?」
デコが続いた。
「フランカさん、そんな天才は町も国も放っておきませんよ? この場合は、山奥にキングを生み出すような、すごい魔力の木の実がなっていて……」
若い連中は元気だ。山登りが始まっているのに、無駄話で盛り上がっている。そしてその発想力の豊かさときたら、オッサンたる俺たちには真似ができない。
「ということで親分」
「どうした?」
「キングオークの正体は滅亡したグレマン王国の末代王で、亡き婚約者の幻を求め山に籠り二〇〇年。魔導師の呪いにより豚の姿に変えられたものの、神泉の桃を食べることで巨体となり、人間に復讐を誓ったという結論に落ち着きました」
「どこからツッコんだら良いのかわからん珍説は、発表しなくてよろしい」
若いということは、無駄なことにエネルギーを注ぐということと、同義語であるかもしれない。




