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引き金を引く資格


 これまでの戦闘。絶望的なオークの数。疲弊して帰ってくる俺たち。

 マミも不安定になるのだろう。

「ごめんなさい! 私、なんの役にも立てなくて!」

 顔を覆って泣き出してしまった。

 鉄砲を手にする覚悟はできている。その能力が戦力として十分すぎるほどだ。だからこそ、出猟できないもどかしさがあるに違いない。

 というか、役に立つ立たないという点においては、「すでに十分役に立ってるのに、まだ他人から必要とされてないとか思ってんのか?」と、出会った頃のマミを思い出してしまう。

「そんなこと無いぞ、マミ姉」

 意外なことに、泣き出したマミに手を差し伸べたのは、ライゾウだった。

「確かにオーク退治は危険だよ。まだまだうんざりするくらいに、オークは残っている。だけどマミ姉? 帰って来たときにマミ姉がいてくれたら、また明日も頑張ろうって気になるぞ。そういう人がいてくれるのは、すごい嬉しい。だからマミ姉が役に立たないなんて、ンなことはないぞ」

 ライゾウは小柄だ。同世代の女の子くらいしか、背丈がない。だからマミを見上げている。ちょっとだけ上にある頭を、子供でもあやすように撫でていた。

「あとちょっとだろ、マミ姉の復帰まで? また一緒に猟に出ような。マミ姉の鉄砲、頼りにしてるぜ」

「ううう……ライゾウ君、ありがとー……」

 おぉ、マミがライゾウに抱きついて、ぴーぴー泣いている。

 ボインのおねーちゃんに抱きつかれたせいか、ライゾウは硬直してるけどな。

「よしライゾウ、マミを部屋まで送ってやれ。落ち着くまでそばにいてやるんだ」

 ギギギ……と、錆びた鉄砲の関節みたいな動きで、ライゾウはこっちを向いた。「お、おう」という返事も、かなりぎこちない。どこかギクシャクした動きのまま、ライゾウはマミをエスコートした。

「妖精はいるのか?」

「どこかで寝てんじゃないの?」

 マミをライゾウに取られたせいか、デコは少し機嫌が悪い。

「あれこそ少し、偵察の役に立ってもらいたいんだがな。……デコ、お前の体調はどうだ?」

「もう少し待ってちょうだい。女の子って大変なのよ」

「あぁ、苦労がしのばれる」

 しかし、この場にいるはずの重要人物が、一人いない。

「マスターきららは?」

「工房にこもりっ放しよ。あんたたちの弾を拵えてるみたい」

「錬金術師に外注したんじゃないのか?」

「オークの数が半端ないって聞いてからよ。外注だけじゃ間に合わないみたい」

「そうか」

 最大の懸念というならば、弾切れだ。これは性能の良すぎる鉄砲を作った、マスターきららが悪い。彼女にしか修理ができない鉄砲、いまだ理論が普及していない鉄砲を作ったもんだから、ケアの部分がすべて彼女に跳ね返ってくる。

 別な言い方をすると、我々チームしおからは、マスターきららに依存しなければいけないのだ。

「こうなると、最新式の鉄砲も考え物よね」

「あぁ、良し悪しだな……。デコ、コーヒー飲むか?」

「いただくわ」

 キッチンに入り、湯をわかす。

「ねぇ、カムイ。大変なの? オークの駆除って」

 背後から声がした。

「あぁ、まあな。数が多いしプレッシャーが厳しい。なにしろ外したら、こっちの命が危ないからな」

「ん〜〜……早く復帰したいわね……」

「気持ちはわかるが、焦りなさんな。山は逃げたりしないさ。体調をベストに持っていくのが先決だ」

「そうは言ってもあせるわよ、おねえさまじゃないけど」

「お前も自分を役立たずとか、思ってるクチか?」

「なによそれ」

「マミのことさ……あれは出会った時、ベロンベロンに酔っ払っててな……」

 弟を失い、両親を亡くし、町で働き口を探しても門前払い。孤独と悲しみから酒に溺れていた。

「それがマミだったのさ」

「……知らなかったわ」

「マミはお前に話してなかったのか? ……じゃあ今の話は、内緒な」

 コーヒーが入った。デコは椅子を逆向きにして、馬乗りになっている。侯爵家の血筋を引く者の姿ではない。

「飲め」

「うん」

 それっきり、お互いに黙り込んだ。デコはマミのことを思っていたのかも知れない。俺は俺で、マミとデコが復帰したあとのプランを頭に思い描いていた。

「お前たちが復帰したら……」

「ん?」

「マミが鉄砲を持って、お前と一緒に復帰したら、って話さ」

「何かプランでもあるの?」

「今回のオーク駆除に関してだけどな」

 まずはマミの長射程に期待したい。ここで一発、あのキングオークを倒したいところだ。

「キングオークって……そんなのがいるの?」

「俺たちの見立てでは、奴がいるおかげでオークが集まっているようなんだ」

「じゃあ、おねえさまがその豚をやっつければ、駆除は終了ね?」

「そうあってもらいたいね」

「そういう台詞は、もっと期待を込めた顔で言うものよ」

「いや、オークたちも興奮しているだろうからな。解散には一晩くらいかかるだろうよ」

 大将をやられただけでは、群れは崩れないだろう。脱走、敵前逃亡の機会がなければ、そう簡単にはいかないものだ。

「そして解散のためには、決定的な敗北を与えるのがベネ、ってことね?」

「話が早い。突撃してくるオークは、俺たちチームしおからで迎撃。相手が山に逃げ込んだら、マズルロードの第二戦隊とともに、殲滅戦に移行する」

「今にして思うと、よくもあんな旧式で鉄砲隊なんて言えたもんだわ」

「しかし五人十二門の火力は伊達じゃない。殲滅戦ともなれば、かなり期待ができる」

 火力は数だ。一度に集中できる数が多ければ多いほど、その威力を発揮する。今回マミの鉄砲はずば抜けた性能だが、所詮一人の悲しさ。点の攻撃でしかない。

 しかし旧式とはいえ、五人横並びで一斉射撃をすると、線の攻撃ができる。突撃してくる敵を止める、ストッピング・パワーが期待できるのだ。そこへ俺たち、チームしおからの七門七発が火を吹けば、面に近い攻撃が可能になる。面の攻撃とは、線のストッピング・パワーから発展した、相手を後退させる力を出すことができるのだ。

「と、そんな決戦の前に、俺たちで敵の数を減らす、漸減邀撃が重要になってくる」

「この作戦そのものが漸減邀撃なのに、さらに漸減邀撃なの?」

 コーヒーをすすりながら、デコは笑った。

「その通り。そのためには、絶え間ない射撃。途切れない弾幕が必要だ。そこでお前とマミでコンビ、俺とライゾウでコンビを組んでみようと思う」

 誰かが撃っている間に再装填、再装填している間に撃つ。そうすれば弾幕が途切れることがない。たかだか七門とあなどるなかれ。途切れない弾幕というのは厄介なものなのだ。

 そこへ再装填の終わった旧式が火を吹けば、まさに敵は総崩れ。建て直しは絶望的になるだろう。

「ずいぶんと虫のいいプランね。ホントに大丈夫なの?」

 デコは楽しそうに、クスクスと笑う。

「できるかできないか、それは自分たち次第だな」

「無責任ね、隊長さん」

「幸いなのは、奴らが飛び道具を持ってないこと。そして数のおおむねが掴めたこと。それを活かすことができれば、無理は無いと思うぜ」

「だけど、実際の駆除射撃と的当ては別物よ。おねえさまに出来るかしら、モンスターとはいえ生き物を殺すことが……」

「さっき言ったろ? マミにはもう、身寄りが無い。生きていくには、食っていくには、もう道が無いんだ」

「切羽詰まってるのね、おねえさま……」

「だからマミは撃つだろうな。生き残るため、食べてゆくため、自分を掴むため、幸せになるため。引き金を引くには、充分すぎる理由だ」


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