戦闘開始
短め更新です。
「それじゃカムイさん、行くかい」
マタゾウが言う。
「あぁ、おしゃべりはここまでだな」
山の中での会話は、鉄砲撃ちには御法度とされていた。昔からの仕来たりだ。無言となって鉄砲を背負い直す。
一団となって町を出る。
そうだ。俺たちは今、この町を守る一団なのだ。漸減邀撃という作戦内容ではあるが、主力はやはり剣士や魔法使いではなく、俺たち鉄砲隊である。剣士さまや魔法使いさまが安全に「冒険」できるよう、徹底的に露払いしておかなければならない。作戦全体の成否は、この鉄砲隊にかかっているのだ。
一の山へ入る前に、マズルロード組が火薬と弾を詰める。俺とライゾウは装填が速いから、まだ鉄砲を折ったまま。マタゾウとナバホが先頭。ベルナルド、ヤコボの親子、そして長老の組が真ん中。後衛は俺とライゾウだ。
まだ日も昇り切ってないうちに、一の山を越える。さらに進撃。二の山の尾根で日が出てきた。三の山は慎重に、ゴブリンの生き残りと出くわしたくないからだ。そんなところで弾を浪費したくないし、大きな音を立ててオークを警戒させたくない。そして何より、今回の駆除対象はオークなのだ。ゴブリンではない。
太陽が朝の冷気を追い払い、一日の活動を開始した。夜行性モンスターにとっては、眠気がさす時間帯だ。
俺たちは三の山と四の山の狭間、谷あいに降りていた。昨日ライゾウとともに、十二頭のオークを駆除したポイントである。
川を渡る前に、俺とライゾウは装填した。先頭の二人が川を渡るのを、援護するためだ。
次は三人。先の二人と俺たちで、周囲に警戒の目を走らせる。そして俺とライゾウ。
川を渡り切るまで、マタゾウとナバホは膝撃ちの姿勢。ベルナルド、ヤコボ、長老は立射の姿勢で待っていた。お互いの発射煙が相手の視界をふさがない工夫だ。
一度岩の影で、声を使わぬミーティング。
山のふもとまで近づくと、斜面を登る風で俺たちの体臭が運ばれ、見張りオークが動き出す。それを迎撃するのが、序盤の作戦だ。
出来れば一人二発を撃ってから、次の射手に引き継ぎたい。そうでなければ、二人で一頭を撃つような状況が発生し、非常に効率が悪い。そして中途半端に弾を一発分残した射手が、複数発生するのを防止するためだ。五人が五人とも弾をリロードしていたら、その五人を俺とライゾウの二人だけで守らなければならない。それもまた効率が悪い。
ということで、最初の射手はチャンピオンのベルナルド。続いてマタゾウ。ここで確実にオークの数を減らしたい。
三番手はヤコボ。そのあとのナバホには、ヤコボが取りこぼししたときに、フォローを期待する。
長老を最後に持ってきたのは、最後まで状況を観察し的確な対応をしてもらいたいからだ。
俺とライゾウは控え。緊急事態に備える。とてもではないが、マズルロード隊では対応できない数のオークが現れた場合。遠距離への射撃が必要になった場合。そして撤退の際のシンガリ。つまり一番危険なポジションを担当するのだ。というか、そんな事態は御免願いたい。
四の山、南斜面を見上げる。すでにオークがうろうろしているのが見えた。
よし、行くか。俺はうなずく。二名、三名、二名の三列で進む。歩きながら俺は、斜面の監視を続けた。
現在俺の目に入っているオークは二頭。臭いに気づいて動きがあれば、もっと視認できるかもしれない。
ふもとへ接近した。風も出る。俺はマントとツバ広の帽子で、ばさばさと体を煽った。正直我ながら汗臭い。
目には見えないが俺の体臭は、風に運ばれて斜面を登っているはずだ。
目に入っているオークが、鼻を地べたに着ける。ブヒブヒと鼻を鳴らしていた。俺の体臭を嗅ぎ取ったか。
オークは頭を上げる。そして一鳴き。
斜面のオークたちが動き出した。数は四頭。
「引き付けろ」
小声で命じた。まずはナバホが構える。オークたちが見る見る距離を詰めてきた。
まだ撃たない。ナバホは最高の距離で、この大物たちをしとめるつもりのようだ。
そして先頭のオークに一発。体ごと鉄砲を左に振る。次のオークも引き付けて、見事なベッドショットを決める。
残り二頭は足を止めた。警戒している。マタゾウもかまえていた鉄砲を、一度おろした。射程外だからだ。
銃声は尾根のむこうに届いただろうか? 届いてるだろうな。その証拠に長老は、尾根の方角を見上げている。
「……カムイ、来るぞ」
長老の一言。俺はベルナルドとヤコボの親子に声をかけた。ライゾウには、マタゾウの撃ちもらしに対応するよう命じる。
見張りオーク二頭は動かない。つまりこれは……。
来た!
尾根の笹をゆらして、増援のオークが群れで現れた。




