増えるオーク
翌日、俺とライゾウ二人だけで山に入る。
目標は四の山奪還。……とはいえ、どれだけのオークが山を占領しているかわからない。二人ぽっちで奪還は不可能だろう。故に当初の目的。漸減邀撃に専念する。
三の山を下り、沢から四の山南斜面を見上げた。時刻は昼前、モンスターにとっては真夜中である。
ライゾウが俺の袖を引いた。指を差している。山の中腹あたり、オークが単独でうろうろしていた。
「見張りか? だとしたら、他にもいるかもしれん。気を付けろ」
小声で話すと、ライゾウは無言でうなずいた。
予想は的中、他にもオークはいた。最初のものと合わせて、合計三頭。それがしきりと鼻を鳴らしている。
午前中の風は吹き上げの風。もしかしたら、俺たちの臭いを嗅ぎとられたかもしれない。ライゾウに弾の装填を命じる。
一頭のオークが高く吠えた。他の二頭も反応する。俺たち目指して、オークたちは山を降りてきた。
二丁四門、まず俺の鉄砲が火を吹いた。オークは胸を押さえて転がり落ちる。残りは二頭。十分に豚の化け物を引き付けて、それから発射。今度は頭をブッ飛ばす。残りの一頭は斜面を駆け上がり、文字通りの遁走だ。
「よし、尻尾を切り取るか」
尻尾の回収はライゾウにまかせ、俺は弾を交換する。
「あいつらダンナの言う通り、見張りだったのかな?」
「かもしれないな。もしかしたら今頃、仲間を呼びに行ってるかもしれんぞ?」
山の頂き、尾根を見張る。なにやら草むらや笹藪が、不自然にゆらめいている。
「来るかもしれないぞ、ライゾウ」
「こっちも回収完了。いつでも来いだ」
鉄砲を抱えて、控えの態勢をとる。
「後退しよう。山から目を離すな」
ジリジリと後ろにさがる。不自然にゆれていた草から、オークが顔を出した。四頭、五頭……まだ出てくる。
一〇頭を数えたところで、川を渡った。そいつらがまたいらないことに、俺たち目指してまたまた斜面を降りてくるじゃないか。それも勇ましい鳴き声を立てて、蛮刀をふりかざし。
沢は平面。おおむねの距離ならば、猟師である俺にも測れる。
「ライゾウ、撃ち方用意」
二人で鉄砲を肩につける。
「あのデカい岩で、距離五〇だ」
おらおらという勢いで、オークの群れが駆けてきた。デカい岩にたどり着くところで、ライゾウの発砲。一頭が転がる。次の一頭は、腹に命中。オークは激痛に跳ね上がり、腹を押さえて悲鳴をあげる。
オークたちの動きが止まった。まさに狙い撃ち、俺は頭部を吹き飛ばす。残りは五〜六頭いたが、一斉に背中を向けた。走り出す。
その脊髄を砕くライゾウの一発! さらに一発!
負けの目が出たモンスターは、悲しいくらいに弱気だ。負け犬ならぬ負け豚の悲鳴をあげながら、狂ったように逃げまどう。
その背中を俺も撃つ、ライゾウもまた撃った。
……生き残ったオークは二頭。それは射程を逃れ、尾根の向こうへ姿を消した。
二人で弾を入れ換える。尻尾の回収はライゾウにまかせて、俺は周囲の警戒につとめた。
回収した尻尾は十二本。大漁と言える成果だった。しかし、俺の気分は暗澹としたものだ。
第一回漸減邀撃作戦は、北側斜面に四頭だけ。それがあっという間に、これだけオークが揃ってしまった。
「……なぁ、ダンナ」
「どうした?」
ライゾウの表情も浮かない。
「前回はこんなにオークはいなかったはずなのに……。全体でどれだけいるんだろうな、こいつら……」
そして俺の憂鬱を代弁してくれる。
「さあな……考えるだけで憂鬱になれるくらいには、数が揃ってるだろうよ」
それだけは、間違いない。現に俺たちはこのように、憂鬱な気分にされているのだ。
もしかしたら一時的に世界中のオークが、ファンベルク王国の四の山に集まっているのではないだろうか? ……まさか、そんな馬鹿な。いやしかし……。
もしもそのようなことになっていたならば、王国から何かの知らせがあるはずだ。世界中のオークが集まっているのなら、ここで殺しすぎれば世界からオークが姿を消してしまう。そうなると世界のバランスが崩れ、人間もただでは済まなくなる。
そうならないためにも、賢者とかなんとか言う連中が日々研究し、税金でまかなわれた高い給料を受け取っているのだ。
とはいえ、尻尾が十二本。オークの群れにしては、数が多すぎだ。もしかしてこの四の山。この山の向こうで、何かが起こっているというのか?
まあ、いずれにせよ。
「何がどうあったところで、俺たちには、駆除しかできることは無いんだけどな」
生きているものを殺しておきながら、なんという言い種だとお怒りの方もいよう。しかし職業猟師は殺し屋ではない。ごく当たり前な人間なのだ。割り切らなければ心がもたない。どこかで必ず破綻する。
獲物は食べ物。動く食べ物、空飛ぶ食べ物と唱えながら、引き金をしぼる猟師もいるという。
命を奪う猟師という職業は、かくも過酷な職業なのだ。
「まあ、いろんな憂いは飲んで忘れよう。俺たちは明日も駆除なんだ」
大変な仕事ならば、全力で心と体のケアをしよう。湯に浸かって一杯やって、歌って踊ってフィーバーしなくては。
「ということで」
「何が『ということ』なんだよ、ダンナ?」
「うむ、猟師という仕事は大変だ。心も体もヘトヘトになる。……だから猟のあとは、ケアが大切なのだ」
「飲みに行くのかい、ダンナ?」
「いや、せっかくマミもデコも休みなのだ。……ここはひとつ男同士。……買いに行くか」
ライゾウは目をパチクリ。俺の言っていることが、理解できない様子だ。
「ライゾウ、お前……女はまだか?」
「女の何がまだなんだ?」
「……………………」
ふむ、どうやらまだらしい。というより、大人の世界をまったく理解していないようだ。
もしかすると、性知識も無いかもしれん。
そんなのにいきなり「青い体験」をさせても、精力善用には繋がらないだろう。
「よし、今日のところは美人でボインのねーちゃんが、キワドイ衣装で踊ってくれる店に行くか!」
「ダンナ、まだ山ン中だぜ? もうそんなこと考えてんのかよ?」
「馬鹿、お前。マミやデコが復帰して、チームメイトに日頃の労苦をねぎらうと言ってみろ。女どころじゃねぇ、甘味だ服だアクセサリーだと、買い物の荷物持ちやらなにやら、あれこれコキ使われて終わりだぞ」
「それは、ちょっとなぁ……」
「だからだよ、ライゾウ! 命の洗濯は、今しか無いんだ!」
日はまだ高く、俺たちは未だ山ン中。
しかし俺は男らしく、TPOもわきまえず、自由を主張してみたりする。
「あ、もちろんこの話は、マスターきららふくめ、ウチの女性陣には内緒な」




