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当然顔を出すエルダさん

短め更新になります


 一斉に皿が舞った。

 皿を目で追いかける。同時に右手はデコの立てた鉄砲を掴んだ。肩に当てる頬を乗せる。そのまま体ごと鉄砲を振って、一番早い皿をねらう。

 ショット!

 天に昇る皿が割れる。次の皿の軌道は、すでに予測済みだ。銃口を下げることなく引き金を引っ張る。

 弾の尽きた鉄砲に用は無い。が、投げ捨てたりしない。そのまま体から垂直に落とす。

 目は皿を追いかけ、右手はマミの立てた鉄砲を掴む。まだ八枚の皿は、天を目指して昇っている。

 先行する皿はどれだこれだっ!

 すでに鉄砲はかまえている。今度は先行二番手から一番手の順番。パンパンッとリズミカルに割った。

 三丁目からは余裕がある。天を目指して昇っていても、頂点に達すれば皿は一瞬止まるのだ。そこをショット! 二枚続けて砕いた。

 ここからは落下移動だ。先行して落ちてくる皿を、順番に撃つだけだ。

 最後の二枚は、人の頭の上くらいの位置で割る。

 こんなことはしたことがないが、無事に十枚の皿を空中ですべて割った。

 ……………………。

 黒色火薬の燃焼した匂いが、辺りに立ち込めている。俺は責任を果たした充実感で、煙の匂いを楽しんだ。

 マヌエル氏の庭園は銃声があふれ返っていたが、今は静寂に包まれている。辺りをチラリと確認すれば、マスターきらら以外の人間はすべて、口をポカンと開けていた。

「……すごい」

 デコの声が最初だった。それはそうだろう。こいつは俺の技量も知らずに、勝負を挑んできたのだから。

「……ちょっと茶色。アンタはこれできるの?」

「できる訳無いべよ。ダンナだから出来んだよ」

「……なにをどうすれば、そんなマネできるのよ?」

 おーおー、愕然としとるね、若者よ。

 それじゃオジサンから、鉄砲のコツってのを授けてやろうか。

「デコ、どうすればこんなマネできるか、知りたいだろ?」

 フランキの娘はうなずいた。ライゾウもうなずいた。マミの肩で、妖精リンダもうなずいた。

 俺はコツを一言で伝える。

「練習に次ぐ練習。それ以外に、上達の道は無い」

「……クッ!」

 デコが背を向けた。

 マミが心配そうに駆け寄った。

「ごめんなさい、おねえさま!」

 決然とした声に、マミは足を止める。

「今はあたしの顔、見られたくないの! ごめんなさい、おねえさま!」

 あ、どうしよう?

 困っているマミの肩を、マスターきららがポンと叩く。そして訳知り顔で首を横に振った。

 フランカ・フランキは俺たちに背を向けたまま、芝生に膝を着く。噛み殺した嗚咽が聞こえてきた。そして小さな拳で、青々とした芝を叩く。

 俺としては罰が悪い。所在なげに、マヌエル氏を見た。

「うらやましいですな」

 マヌエル氏は俺に向かって言う。

「カムイさん、あなたを乗り越えようとする若者が、ここにいますよ」

「……そうですね、俺も自分をオッサンなんて言って、老け込む訳にはいかないようです」

「いや、素晴らしい腕前でした」

「まだまだ未熟です」

 師匠である親父なら、もっと滑らかな射撃を披露しただろう。

 しかしマヌエル氏はかぶりを振る。

「誰と比べた未熟かは知りませんが、カムイさん。あなたの射撃は確実に、人の心を揺さぶったんですよ? もっと大威張りで胸を張りなさい」

 そうか、人を励ますのには、そんな言い方があったのか。

 薄ぼんやりと、そんなことを考えていた。

 どうぞ、とマヌエル氏は俺をうながした。傷心のデコに、何か言ってやれということらしい。

 んなこと言われても、なにをどう言えば良いものやら。

「……なあ、デコ」

「……なによ」

 ぐずぐずとした鼻声だ。

「熟練というのは、ざっとこんなもんだ」

「自慢したいの? サイテーね」

「自慢できるくらいに努力を重ねると、これくらい人格がゆがむ。……よかったな、最初から性格のゆがんだお前は、才能があるぞ」

「うるさいわね! そのうちアンタなんか追い抜いてやるんだからっ!」

「そうだ、その意気だ。そうでなくては、デコは始まらん」

「どこまでも憎まれ口しか叩かない男ね! そんなんだから、お嫁さんが来ないのよっ!」

「なぁデコ、今度は俺が膝を着いていいか?」

 うん、最後の一言は傷ついちゃったなぁ、オジサン……。

 嘆きの表情を浮かべていると、周りは爆笑。俺はこんなに傷ついてるってのに。

「さあさあ、演芸の寄席はここまでにして、マミちゃんの鉄砲を御披露目しましょ」

 マスターきららがポンポンと手を打った。

「お待ちくださーーい!」

 なんだ、今度は?

 うら若き乙女の声か?

 いや、もちろんその声には、聞き覚えがあったんだけどな。

 馬を駆って、エルダさん。パカラッパカラッとやってくる。乗馬服のような、カッキリとした服ではない。チェックのシャツにデニムのパンツ。ブーツだけは丈の長い、乗馬物。ハニーブロンドを風にのせて、俺たち目指して駆けてきた。

 馬を止めるや、ヒラリと鞍から降りる。キジ撃ち以前の憂いに沈む乙女、という印象からはほど遠い。

「お久しぶりです、カムイさん、マミさん、マスターきらら」

 まずは俺たちにおじぎ。ようこそ当家へ、なんて育ちのよさがにじみ出ている。どこかのエセお嬢さまとは大違いだ。

 そのエルダさんがマヌエル氏に詰め寄る。

「お父さま、カムイさんたちがいらっしゃるのに、どうして私に黙ってましたの!」

「……だってお前、今回はマスターきららからのお願いで……」

「今だってそうよ! 何発も鉄砲を撃って。カムイさんに腕前を披露していただいたのでしょ? 私も拝見したかったのに!」

 いかな豪商とはいえ、愛娘に詰め寄られてはたじたじだ。救いを求める視線をさ迷わせている。

 仕方ない、助け船を出してやるか。

「エルダさん、実はこれからがメインイベントでしてね。俺の連射なんぞ、前座に過ぎません」

「あら、そうなんですか?」

 俺は、マスターきららが世紀の発明をしたことを告げる。

 そしてその発明は、マミ専用の鉄砲だと教えた。

「まあ……マミさん専用の鉄砲ですか?」

 さっきまでの憤怒もどこへやら。お嬢さまは瞳を輝かせている。

「マスターきららが申すには、人類にとってオーバースペック。マミにしか扱えない鉄砲だそうです」

「なんて素晴らしい! その鉄砲が、そうですのね?」

 口径四一〇番、銃身長二二インチ。元折れ式単発鉄砲、きらら・スラッグ・スペッシャル。

 いよいよその性能が披露される。


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