駆除活動開始
問題というのは、実に簡単なものだった。
「我々チームしおからは四人、オークの群れは三〇近く。これでは勝負になりません」
「カムイさん、あたは三〇近いオークを相手に、正面から向かうつもりなんですか?」
もちろんそんなつもりは無い。
しかしだ。
「それなら剣士や魔導師を投入してはどうですか? デカい音を出す鉄砲よりも、はるかに隠密性が高い。うまくやれば漸減邀撃どころか、オーク全滅までねらえますよ?」
「ギルドとしては剣士や魔導師よりも、鉄砲使いを投入したいという考えです」
そうだろう、その通りだ。俺にもわかる。
剣士や魔導師を育成するには、時間と金がかかる。そして時間と金をかけた結果が、城にもあがれない冒険者くずれなんてのはザラだ。そう簡単に才能ある者は見つからないし、そう簡単に才能が花開くことも無い。
剣士、魔導師魔法使いの類は、国やギルドにとって正に虎の子なのだ。
そんな貴重品を、決戦前の露払いに使う訳が無い。
「……カムイさん、引き受けてはもらえませんか?」
ワイは明らかに、「断らせはしないぞ」という目をしている。
もちろん俺もギルドの一員。断ることはできない。
「……わかりました、引き受けましょう」
「それは助かりました、私も顔が立つというものです」
「ただし、条件がある」
「報酬面ですか?」
「いや、報酬は規定通りで良い」
下手にふっかけて、ハードルを高くされてはかなわない。それに、「金さえ払えばどんなクズ仕事でも引き受けてくれる」という印象を、与えたくない。こちらの権利を主張するということは、必ず義務の支払い額が高くなるものだ。
だから俺の条件は、ごく簡単なもの。
「我々チームしおからは、現在戦力激減中だ。すぐには仕事に取り掛かれない。その間はギルドの戦力で持ちこたえてもらいたい」
「いつから仕事に取り掛かっていただけますか?」
少ない知識を集める。なにしろ問題は、マミとフランカの体調だ。ズバリこの日、とは言えない。
「……最低でも五日、長ければ……十日になるかもしれない」
「……長いですね。ま、よろしいでしょう、善処します」
ワイは契約書を出した。そこには通常の駆除と同じく、殺したオークの片手もしくは尻尾を、駆除の証拠として持ち帰ること、と記されていた。ということで、当然のように報告義務も存在している。
報酬は、オーク一頭につき小金貨三枚。つまり日本円換算で三〇万円。なのだが、これは肉を綺麗に持ち帰った場合の話。片手や尻尾しか持ち帰れなかった場合は、小金貨一枚にまで値下がりする。まあ、この辺りは相場の通り。
契約書の内容を確認して、俺はチーム名と自分の名を記入した。
「それでは可能なかぎり、早急に対応してください。成功と猟果を期待してますよ」
「わかった、準備だけならすぐに取り掛かる」
ワイは出て行った。
入れ替わりに、厨房からライゾウが出て来た。
「ゼンゲンヨウゲキだって?」
「ああ、本隊との決戦前に、できるだけオークの数を減らしておけとさ」
「だけどオークたち、日に日に数を増やしてるんだろ?」
「まさにいたちごっこって奴だな」
「どうするんだい、ダンナ?」
ライゾウは不安げな顔を浮かべた。とりあえず、と俺は答える。
「これ以上オークに増えられてはかなわん。明日から数減らしに出かけないとな」
工房をのぞき込む。マスターきららは、一心不乱にヤスリを動かしていた。
「マスター、ちょっといいかな?」
「なぁに?」
「俺たちの鉄砲でも使える、大物用の弾が欲しいんだけど」
「何発持っていく?」
……どのくらい必要になるだろうか。
「とりあえず、俺六発にライゾウ六発。合計十二発で」
作業を中断して、マスターきららは店舗に戻る。カウンターの背後の棚から、大物用散弾……バックショット弾重量二八グラムを取り出した。
「女の子二人がお休みの間、毎日出かけるの?」
「あぁ、オークの増加は待ったナシだからね」
「それなら錬金術師にも発注しておくわ。いざというとき、弾が無いと困るでしょ?」
「お願いします」
気をつけてね、とマスターは言った。
「チームしおからは、全員が揃ってこそ、本領を発揮するんだから。こんなところで無理しちゃダメよ?」
「心掛けよう」
そして翌朝。天候は小雨。
鉄砲をケースに入れ、ロープとナイフも準備して、俺とライゾウは店を出た。
早朝に小雨。町に人通りは無い。冒険者たちも、今日は出歩かない者が多いだろう。しかし俺たち鉄砲猟師には、良い天候であったりする。風のついた小雨は、カモを岸辺に近づける。そして逃げるにしても、あまり遠くには逃げられない。
そしてオーク退治で言うならば、俺たちの足音や匂いを消してくれる。まさに小雨さまさまだ。
一の山を越える。
まさかそんなことは無いだろうとは思いつつ、それでもゴブリンやオークの痕跡を探しながら歩いた。
山の変化というならば、シカやイノシシの痕跡が増えたように感じる。これは山奥にいた大物が、オークやゴブリンに追われて人里に近づいたのではないか、と考えたりする。まあ、冬を控えたこの季節。越冬のため食料に貪欲になって人里に近づくのは、毎年のことなのだが。
沢に下りる。水かさが増していたが。倒木を橋がわりにすれば問題はなかった。
そして二の山。小雨が降っているということで、すでにずぶ濡れだとお思いだろうが、そのようなことは無い。俺たちのマントと帽子は油を染み込ませたもので、オイルド・マントとかオイルド・ハットとか呼ばれている。簡単に言うと、水弾きがとても良いのだ。
だから猟服のポケットに入れた紙巻きの装弾も、まったく無傷で乾いた状態を保っていた。
二の山の探索は、少し古いゴブリンの足跡が、少しばかり残っているだけ。おそらく雨の影響で、動きが不活発なのだろう。
三の山に登頂。妖精リンダを捕まえた山だ。この辺りは、ゴブリンの痕跡が多い。やはりオークからの避難場所なだけはある。
できるだけゴブリンの痕跡が無い場所を選んで山を降りた。ゴブリンを刺激したくないからだ。もっともワイに言った通り、オークを見つけたら馬鹿デカい鉄砲音を立てるのだが。
沢を越えて、いよいよオークたちの縄張りに足を踏み入れる。四の山だ。
俺たちが登る南側斜面には、オークの足跡が数多く確認できた。しかし、どれもこれも雨水がたまっている。つまり、雨が降る前につけられた足跡、ということだ。深夜から降りだした雨。つまり昨夜は餌探し途中で引き上げたということか?
ならば空腹で眠りが浅いかもしれない。さて、どんなものか。
ライゾウとともに尾根に立つ。前に来た通り、そこはまさにオークの住処。笹も草も縦横無尽に踏み倒されている。
栗の木が倒されている。トチの木が折られている。北の斜面などは被害甚大。、荒れ放題に荒れていた。
「……ダンナ」
「あぁ、なんとしても、オークを討ち取らないとならんな」
山が死ねば、オークの数は自然と減る。そのように考える者もいよう。しかし、ある意味その考えは、間違いだ。
山が死ねばオークは、死んだ山を見棄てて別の山に移る。座して死を待つようなことは無い。そして次から次へと山を荒らして回り、最初の山が回復した頃に舞い戻って来るのだ。
登頂地点はこの山の西側。記憶している限り、この山の棚をのぞき込んで回る。
足跡の違いから、この北側斜面には四頭のオークが棲みついていると思われた。雄一頭、雌三頭の群れと推察する。
だとすれば、同じ棚で寝ているはずなのだが。




