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愛のメモリー


 午後、いよいよ本命のキジだ。

 飯のあとの昼寝もして、再起動にはもってこいなコンディション。メンバーたちの表情も明るくなっている。

「それじゃあキジも若い人たちから撃つんで、二人は俺の後ろに並んでもらえるかな?」

 親たちの見守る中、二人は少し照れくさそうにして、俺の後ろに並んだ。

「じゃあ出発しようか」

 先頭は犬係、続いて俺。そして年頃の少年少女。俺の目に狂いがなければ、二人の距離は急接近とはいかないものの、かなり近づいている気がするんだけど。

 気がするんだけど……。

「……………………」

「……………………」

 二人の間に会話がないのも、また事実。

 そんなことを考えていると、犬の様子が変わった。しきりと辺りの匂いを嗅ぎまわっている。

 キジか?

 左手に草の生い茂った、ボサだらけのフィールド。

 俺は身を低くする。後ろの二人もそうした。

「俺の後ろに……密着して隠れて」

 本当はそんな必要など無いのだが、こちらがそういった機会を作ってやらないと、この二人は寄り添うことすら無い。

 だけどお互いに好き同士ってのはわかる。チラッと振り返れば、可愛らしく肩を寄せ合っているじゃないか。

 後方に目をやれば、弾込めが始まっていた。マスターきららとあちらの鉄砲職人が、筒の中で弾と火薬を押し固めている。

 犬がキジの匂いを嗅ぎとったようだ。尻尾がコジュケイの時のように、ピリピリと小刻みに震えている。

 マミが鉄砲を運んできた。俺も自分の鉄砲に装填する。それから、耳栓。

「それじゃあお互いに間隔を開いて、射撃位置に着こうか」

 身を低く保ったまま、三人思い思いの位置に移動、ゆっくりと立ち上がる。

 エルダさんにうなずいた。彼女も俺にうなずく。

「行けっ、ゴーッ!」

 彼女の号令で、犬たちが突入。ボサを水に例えれば、犬たちは深くもぐって泳ぎ回る。

 待つことしばし。まずは雌の飛び立ち(フラッシュ)。エルダさん、これには筒を向けない。落ち着いている証拠だ。そしてラウロ君、エルダさんには目もくれず、ボサの海に目を向けていた。こちらも集中している。

 そしてついに、雄のフラッシュ!

 素早くかまえたエルダさん、身体でキジを追いかけるように鉄砲を振り……ワン! ツー! と弾幕をかける。散弾の展開(パターン)の中へ、ダイレクトにキジが飛び込んだ。

 やった、撃墜だ!

 そして次のフラッシュは雌、さらに雌。

 もう犬たちも、追いかけるキジがいなくなったか?

 と思ったところで、雄が出た。ラウロ君の番だ!

 こちらもサッと鉄砲をかまえる。筒先でキジを追いかけ、とらえ、追い越したところで……ワンツー! こちらはテンポの早い射撃。一発目は尾羽根を散らし、二発目で撃墜。

 おっと、また雄が出た。

 二人にはもう、弾が無い。そして何より、距離が遠いだろう。

「親分、四二メートル!」

 マミが教えてくれた。

 俺もかまえに入って、キジを十分に飛ばして……。

「距離、四八メートル!」

 ワンパンチ!

 美しい放物線を描いて、キジは落下した。

 すみやかに鉄砲を折り、残った弾を抜く。たまに撃ちもらしや予想外のフラッシュに、シェルパが腕前を見せることもある。ということで、俺のパフォーマンスは終了。

 犬係が回収を命じて、三羽の獲物が集められる。そうしたら例によって、犬撫で大会の開幕だ。みんなで労をねぎらってやる。

 見たら一匹の犬を、ラウロ君とエルダさんが二人がかりで撫でていた。犬もどちらになつけば良いのか、戸惑っているくらいだ。

「さあ、ポーターにキジを渡して、お父さんたちのラウンドに移るよ」

 はい、と返事する二人。しかしここで俺は、奇妙な気配を感じた。ちょうど、マミが魔法を使う時のような、あの感覚だ。

 もっと撫でてくれ、かまってくれとせがむ犬たちを引き連れて、二人は荷馬車へ歩いてゆく。その後ろ姿を見送っていたのだが……。

「あ」

 エルダさんが、何かにつまずいた。よろよろと、身体を傾ける。

 それを受け止めたのは、ラウロ君。自然と抱き合うような形になった。

 爽やかな眼差しと、清らかな瞳がぶつかり合った。

「……大丈夫?」

「は、はい……ありがとうございます……」

 ちょっと、離れ難い雰囲気なんだろうね。

 そして俺たちも少しの間、目をそらしてあげる。

「……………………」

「こら、マミ。見ないでやれよ」

「ハッ! ……そ、そうでした!」

 マミも慌ててそっぽを向く。

「……で、先ほどから俺は、奇妙な気配を感じているんだが」

「そうなんですか、親分?」

「いるんだろ? 妖精リンダ」

 問いかけると、ワンピースの手のひらサイズが、「にゃはは、バレちった?」と、姿を現した。

 スイッと飛んで、マミの肩に止まる。

「お前のいたずらだろ、エルダさんがコケたの?」

「あ、やっぱりわかる? だってあの二人、くっつきたがってるのに、なかなかくっつかないんだもん! 素直じゃないよね?」

「人間がお前のようにみんな素直なら、この国は人間であふれ返るだろうな」

「あーーっ! カムイも素直じゃないんだ。ホントは助かった、って思ってるクセに!」

「いや、俺は素直に礼を言うぞ。でかしたリンダ、あとでマミから金平糖をもらうと良い」

「ホント? やったーーっ!」

 ところでこの妖精、今日はオークの偵察に行ってたはずだが?

「だってアイツら、寝てばっかでつまんないんだもん!」

「なるほど、それでボス豚はわかったのか?」

「もちろん! 一番涼しいところで、大の字になって寝くたれてたよ」

 ふむ、それがボスか。……わかりやすい。

「他に特徴はあったか?」

「一番デッカイ! 他の豚がこんなのだったら、ボスはこ〜〜んなに! デッカかったよ! それに、色もコゲ茶色。すごい黒っぽかった!」

 デッカくて黒っぽいのがド真ん中にいる。オークのボスに関しては、充分すぎる情報だ。

「……あの〜〜親分? 大切なお話の最中というのは、わかってるんですが……」

「どうした、マミ?」

「そろそろマヌエルさんが不機嫌になってるみたいなんですけど……」

 うん、マヌエル氏はイラついたように、眉間のシワを深くしている。アダム氏は困ったような苦笑いを浮かべていた。

 相思相愛の若い二人は、まだお互いに見つめ合っていたのだ。

「あれま、若いってのはいいモンだねぇ」

「いや親分、なんとかしてくださいよ!」

「……あんまり野暮なことはしたくないんだけどね」

 仕方ない、ちょっと足をすすめて、咳払いをしてやる。

 ハッと我に返った二人は、慌てて身を離した。どちらも耳まで真っ赤にして、あらぬ方角に目をやっていた。

「……あ、どうしました、カムイさん?」

「いや、危ない目に逢ったレディを咄嗟に救うとは、なかなか出来ないと思ってね」

「そうそう、紳士の鑑ですよ!」

 マスターきららが後に続いてくれた。

「エルダさん、足を挫いたとかありませんか?」

 これも、マスターきららの言葉。

「はい、特には……」

「エルダさん? 足を挫いたとか、あ・り・ま・せ・ん・か?」

 えらい迫力で聞き直した。

「は、はぁ……少しは……」

「まあ大変! 歩けなくなったりしたらどうしましょ? さささエルダさん、馬車に乗ってください!」

 チビのクセして、エルダさんを荷馬車に押し上げる。

「さ、ラウロ君も! リタイアしたエルダさんの話し相手になってあげてくださいね! ってかとっとと乗りやがれです。そしてエルダさんが不安そうですから、手のひとつも握ってやれですわ! それじゃ、御免あそばせ!」

 荷馬車の上のポーターまで、力ずくで引きずりおろしてしまった。

「さあさあ、今度はお父さんたちの出番ですよ! はりきっていきましょーーっ!」

 ……なぁ、マスターきらら。あんた鉄砲に関しては尊敬するに足る人物だけど、それ以外のことにはケッコー雑なのな。

 とはいえ、いつまでたっても煮え切らない少年と少女。これくらいの御膳立ては必要なのかもしれない。お互いを見つめる眼差しは、遠慮がちな思いやりに満ちていて、かなり甘酸っぱいものだった。

 もっとわかりやすく言うと、俺もマヌエル氏もアダム氏も、いまにも転がりまくりそうになっていた。

 この甘い空気を振り切って、俺をふくめた親父三人は狩猟三昧。当たろうとハズレようと、徹底的に弾を抜きまくった。

 その割りに、猟果はキジ三羽。やはり心乱れたまま鉄砲を握っても、良い結果には結びつかない。

 それでもマヌエル氏とアダム氏は、子供たちの急接近に肯定的だったようで、ギルド庁舎前で別れるときには満面の笑みをたたえていた。

 もちろん、若い二人も。

 夕日に向かって去ってゆく彼らを見送り、俺も充実感に胸一杯。満ち足りた気分であった。

 ……マミが袖を引いてきた。

「どうした?」

 マミの顔を見て、思わず目を見開いた。顔が真っ青になっている。それだけではない、顔中脂汗を浮かべながら腹を押さえていた。

「どうした、マミ!」

 肩を掴んだ。

 途端にマスターきららの蹴りを食らう。マスターはマミを引っ張って行って、二人でなにやらボソボソ話しをしていた。

「帰るわよ、カムイさん」

 マミに肩を貸して、マスターきららは言う。

「すみません、親分……」

「いいから、喋らなくていいから」

 マスターきららとマミが先を行く。俺は荷物を集めて後に続いた。

 なんとなく察する。

 どうやら、生理のはじまりらしい。


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