外野の要求
ちょっと短め更新です
ハトのラウンドを三回こなして、猟果はバッチリ。そこでランチタイムに入る。
ポーターは安全な場所で火をおこし、大きめの石を充分に焼いた。火を消すと厚いムシロを敷き、その上に羽根をむしって下拵えしたハト、コジュケイを並べる。その上から土をかぶせ、鳥のローストに取りかかっていた。
食前酒の意味もふくめたワインが、俺たちにも振る舞われた。一杯だけいただく。
「マミ、飲み過ぎるなよ?」
「わかってますよ、親分」
「お前は飲み出したら、いくとこまでいくからなぁ」
「心配いりませんって……ごきゅごきゅ」
「待て! なんだ、今の危険な音はっ!」
「いやいや親分、良いワインは、こう……グッといかないと美味しくないんですよぉ」
「お前あやまれ、全国のワイン党のみなさんに謝れ!」
「かぁ〜〜っ! 空きっ腹に効きますねぇ〜〜っ!」
「世界中のワイン党のみなさん、誠に申し訳ありません。本来ワインは、こういった飲み方をするものではないと、お断りを入れさせていただきます」
とりあえずポーターには、マミがこれ以上飲みたがっても、絶対に酒を与えないように釘を刺しておく。そんな殺生なとマミはゴネたが、シェルパがお流れを頂戴する、御相伴に預かるなど、異例中の異例である。
……まあ中には性悪なシェルパもいて、客と同じものを飲み食いさせないと、良い猟場を教えないという輩もいる。そんな連中は客の奥方や娘などに色目を使うなどして、鉄砲猟師の評判を地の底まで落としてくれたりする。
別に俺は鉄砲猟師の地位向上など訴えたりしないが、世間の評判は良いに越したことはない。そのような破廉恥な行動をとらぬよう、心がけてはいる。
さて、飲んべえに釘を刺したところで、若い二人はどうなっているやら……。
簡易テーブルで親同伴、上品なランチと洒落込んでいる。食事の席で、互いに言葉を交わすことはないが、固さはとれている。今じゃ互いをチラチラと盗み見て、目が合っては真っ赤になってうつむくという、実に清々しい姿を見せてくれた。
「う〜〜む……ラウロ君、なかなか積極的には出てくれませんねぇ……」
「おや、マミ先生はラウロ君に不満ですかな?」
「えぇ、やはりここは男の子が会話をリードして、楽しい雰囲気を作らないと……」
「いやいやマミ、男の子が食事時にペラペラくっちゃべるのは、どうかと思うぞ」
それに、いかに本音はお見合いとはいえ、狩猟は狩猟。鉄砲を携えているのだ。あまりに浮わついた気分はシェルパとして大変に困る。
「親分は乙女心がわかっていませんねぇ」
やれやれといった具合に、マミは首を横に振る。
「女の子にとって、恋は大冒険なのです。頼もしい男の子がリードしてくれないと、達成できない困難なんですから」
「だったらしなけりゃいいだろ、そんな大冒け……」
む〜〜……という視線を感じる。もちろん発信源はマミだ。
「そういうことを言ってはいけません」
ダメなんだそうだ。例えスジが通っていても。
「いいですか、親分。大冒険に出ないなんてことができたら、女の子は苦労なんてしません! ですから、そういうことを言ってはいけません!」
こらえ性のない生き物だ、女の子とやらは。と思ったが、口には出さないでおこう。マミの目は、反撃の体制が充分に整っているようだったからだ。
「わかったわかった。ここは俺が訂正しよう、悪かった」
「……ホントにそう思ってます?」
「もちろんだとも、もう少し女の子の視点に立って、物事を考えよう」
「それなら結構です」
ようやくマミの顔が明るくなった。
「ときにマミ先生、お前さんならどんな会話でリードしてもらいたい?」
「そうですねぇ……例えば……」
瞳に星をきらめかせ、うっとりと虚空を見詰めたマミは、指先を組んだ。
「……例えば……」
「例えば?」
「……思いつきません。……そんな経験、ありませんでした」
花の乙女よ、情けなや。
「お前、田舎で格好いい男の子とか、仲良かったのとか、いなかったのかよ……いや、やっぱりいい。田舎の話はしなくていい……」
これは俺が悪かった。
飢えと寒さで弟を亡くしているマミだ。とてもじゃないが、そんな余裕は無かったのだろう。
「まあ、マミはこれから恋を経験していけば良いさ」
「……大きなこと言って、スンマセンでした」
ラウロ君とエルダさんもそうだが、マミのこともなんとかしてやらなければ。年齢だけ見れば十六歳、ファンベルクの国では嫁に行ってもおかしくない年頃だ。
……ライゾウとデコもいるが……あいつらはまだ早いか。
いやいや、正しい知識や順番を教えてやらないと。男で身を持ち崩した女、女で駄目になった男は、これまでも数多く見ている。……もっともこの二人にアドバイスなんぞしようものなら、「ダンナの嫁が先だよ」とか、「どの口が言ってんの、あんた」などと散々な言われ方するのは確定だけど。
「だけどカムイさん、若いお二人、これからどう接近させるつもり?」
「おぉう! マスター、あんたのことを忘れてたよ」
「なんの話?」
「いや、なんでもありません」
正しい性教育、そして異性を賄ってやる。これは齢十三のマスターきららとて例外ではないはずだ。しかしそれなのに、まったく頭から抜け落ちていた。
マスターきららは鉄砲に嫁いだ娘。
勝手にそんな風に決めつけていたからだ。
そしてもちろん、そんなことは口が裂けても言えない。
「で、どうするの?」
「ん〜〜……俺としてはもう、これ以上することが無いかなって思ってる。あとは二人のペースで親睦を深めていけば、それでいいんじゃないかと……」
「ぬるい! 手ぬるいわ、独りカムイ! 滅多に逢えない二人なんだから、ここいらで決定打を浴びせなきゃ!」
よくいるよな、自分のことは棚にあげて、他人の色恋には熱心な奴。と思ったが、そんな素振りはまったく見せないようにする。
「ではマスター、今日中に二人をどこまで進展させれば、気が済むんですか?」
「可能ならばチュウ、最低でも二人の心に残るような、そう! なにか特別な日にしなくちゃ!」
決して離れることができなくなる、契りのように思い出となる一日。そんな無茶振りを、十三歳処女は要求してきた。
「ではマスター、あなたには何か妙案でも?」
「なんで私がそんなこと考えなきゃいけないの? それはカムイさんのお仕事でしょ?」
「だったら人の仕事に口出すなや」
「いい歳ぶっコイた独身がだらしない仕事してんだから、口のひとつもはさみたくなるじゃない!」
まったくこの娘は……。無責任にもほどがある。
とはいえ心の中で半分くらいは、「やはりぬるいだろうか」とも思う。
俺の目から見れば、草食動物のように穏やかな二人。そっとしてあげたい気分なのだが。




