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ベテラン


 ポイントを移動して、まだまだコジュケイ。今度は大人たちのラウンドだ。

「さて、お若い二人が成果をあげたのですから、ベテランのお二方も奮起していただきたいものですね」

 マスターきららの一言に、マヌエル氏とアダム氏は思わず吹き出す。

「そうだな、私は犬を入れたら三羽落としてやろう!」

 アダム氏が宣言するが、無理だ。弾は二発しか入っていない。それがわかっているから、マミたちはクスクスと笑い出す。

「アダムさんが三羽落とすならねぇ、私は四羽落としてやろうじゃないか!」

 余計に無理だ。

「言ってくれるじゃないか、マヌエルさん。ならば私は一〇羽やってやるよ!」

「そこまでは私も張り合いたくないねぇ」

 子供たちの前だというのに、大人たちがふざけたことを言って笑っている。

 来客のアダム氏が先攻、企画者のマヌエル氏が後攻ということで。

 犬の突入。コジュケイのフラッシュ。まとまって五羽が飛んだ。

 アダム氏、発砲! ボサの小枝が吹っ飛んだ。

 続いてマヌエル氏! 弾は樹の枝をたたき折っただけ。つまりハズレ。二人ともハズレ。

 ……二人の鉄砲は、銃口から煙を上げていた。

 アダム氏は唇を舐めた。

 マヌエル氏も鼻の下をこすっている。

「……命冥利な鳥もいるもんだ」

「ぼやくなよ、今日は奴らのための一日なのさ」

 格好はつけているが、要はハズレである。俺も笑いをこらえて言う。

「こんなこともありますよ、だからハンティングは面白いんです」

 エルダさんとラウロ君も笑っていた。ただ、二人の間にはマミという壁があったが。

 それでも側にすら近寄れなかった、さっきまでの状況とは違う。彼らは彼らなりの速度で、ゆっくり接近しているようだ。

「次のハトのラウンドでは、少し時間をかけましょう。それからランチで、メインのキジを午後に取り組むということで」

「いいですな、それは」

「コジュケイの借りはハトで返すとするか」

 俺たちは林道に足を踏み入れる。秋の枯野から薄暗い林の中へ。太陽の光を遮られると、少し肌寒く感じる。

 あちこちで、御存知で〜で〜ぽっぽ〜の鳴き声がする。

 マミを呼ぶ。若い二人もついてきた。

 指をさして、高い枝までの距離を測らせる。六メートルと出た。

「ハトもどちらに飛ぶかわかりません。どう飛ばれても良いように、集中してください」

 エルダさんはうなずく。鉄砲が渡された。身を低くして、藪の陰に隠れる。

「一発撃ったら辺りのハトがみんな飛びますから、そいつらは……」

 ラウロ君を見た。彼は「まかせてください」とばかり、力強くうなずく。

 しばらく待った。ハトが枝の上に姿を現す。

「まだですよ……まだまだ……」

 ハトが身を投げた。そこから羽をはばたかせる。

「かまえて!」

 俺の声に、エルダさんは素早く反応した。いや、ハトが身を投げたらかまえると、最初から決めていたような滑らかさだった。

「よし、撃て!」

 銃声一発。ハトが墜落する。

「まだまだ、こっちです!」

 銃声に驚いたハトが、さらに飛んだ。そこにも射かける。残念、これはハズレだ。

「ラウロ君!」

 彼はすでにかまえていた。一発目は失中。しかし弾幕を張るような二発目が、ハトをとらえた。

 とにかくハトは数が多い。第二第三のチャンスがある。

 だから……。

「さあ、マヌエルさんとアダムさんも、急いで準備してください」

 言うまでもない。銃声に驚いたとはいえ、あまり離れていないハトがいる。そしてすぐに戻ってくる者もだ。

 そいつらをいただくためにも、まだ犬を回収には向かわせない。大人たちは子供たちとポジションを入れ換える。

 ハトが戻ってきた。遠くに行かなかった者も、のんびりと鳴き声をあげる。林道に、ハトたちの日常が戻ってきた。それはもう、充分すぎるほどに。

 アダム氏が、背後のマヌエル氏に目配せする。マヌエル氏はうなずいた。連携のとれた二人らしく、それは一瞬の会話だった。

「さあ行くぞ!」

 アダム氏が声をかけながら立ち上がる。ハトが飛んだ。一羽や二羽ではない。警戒していたハトたちが、すべて飛んだのだ。その尻めがけて一の矢を放つ。さらに二の矢。そして別方向のハトはマヌエル氏が射かけた。

 林道は轟音に包まれた。俺の目は四羽のハトが撃墜されたのを確認している。

 見事な腕前だ。そして二人の連携も、称賛に値する。これは昨日今日の仲でできるような連携ではない。

 うちのデコとライゾウも、これくらいの技量に育ってくれるだろうか?

 つい、うちの若い二人に思いを馳せてしまう。いかんいかん、変な期待は変な重圧にしかならない。

 だがしかし、俺の知る鉄砲猟師のチームというのは、こういうものであった。俺の親父、あるいは爺さまの代の猟師たちは、みんなこういう芸を持っていたものだ。

 それを現在、趣味の猟師たちから見せてもらえるとは、シェルパ冥利に尽きるというものだ。

「どうだ、ラウロ君! 俺の腕はなかなかのもんだろ?」

「すごいですね、アダムさん! 二羽とも落とすなんて」

「エルダさんも、ワシの腕前に感心してもいいんだぜ」

「素晴らしいわ、おじさま!」

 親父二人は、自分の子供の許嫁?に自慢する。おかげで二人は思春期の微妙な季節から解き放たれ、普通の子供に戻って大人たちを称賛していた。

 犬たちが、獲物をくわえて戻ってきた。大人も子供も、マミまで混ざって犬をたっぷり愛撫してやる。

「……いいもの見せてもらったわね、カムイさん」

 犬嫌いなマスターが、俺に寄り添う。

「あぁ、俺がガキの頃には、あんなのがあっちこっちにいたもんだ」

「マミちゃんは、どうなるかしら? カムイさんの右腕になれそう?」

 その質問には苦笑い。さっきも考えたように、変な期待は変な重圧にしかならない、と答えた。

「いいわね、その考え方。きっとマミちゃんもフランカさんも、ライゾウ君も、のびのびと育てた方がいいわよ」

 猟師とはこういうものだ。猟師というのは、こうあらねばならない。そういう伝統的なものや慣習も大切ではある。だが新しい時代には、新しい時代の狩猟の在り方というものがある。特に若い人たちには、新しい発想とトライ&エラーが必要なものだ。伝統や慣習は、若者が迷ったときに道しるべとして与えるだけでいい。マスターきららは、そう主張した。

 まるであんたの職人人生だね、マスターきらら。

 きっとその通りなのだろう。古臭い連中に自由な発想を押さえつけられ、鉄砲とはこうでなくてはならない。鉄砲とはこうあるべきだと言われ続けてきた、あんたの人生そのものなんだ。

 マミが犬を撫でながら、エルダさんとラウロ君に話しかけている。犬が間を取り持ったか、マミのゆるい雰囲気がそうしたか、ギクシャクしていた二人は自然と言葉を交わすようになっていた。

 おう、そうそう。今日の本命はおっさんたちやマスターきららじゃなかった。若い二人だ。


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