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酔っぱらい・ブギ


 モツは旨かった。

 酒も飲んでしまえば、そう苦いものではなかった。

 そんなことで夜。

 俺はベッドに腰掛けて、新しい鉄砲に結ばれたリボンをほどいていた。

 まずは外観の眺める。黒い銃身に木製部分はクルミ材だろうか。さきほども言った通り、筒が横に二本並んだ水平二連というスタイル。

 撃鉄を半分だけ起こして待機姿勢に。それからレバーを操作して鉄砲をくの字に折ってみる。空っぽな銃身の内腔が現れた。ここに装弾を突っ込み、撃針で雷管をぶっ叩くらしい。

 内腔の薬室側と銃口側を、指で触れて比較する。銃口側がやや狭いか?

 そうなるとこの鉄砲はマスターきららの発明銃身、長距離用の一丁ということになる。

 くの字に折れた鉄砲を伸ばして、レバー操作でロックをかけた。そのまま挙銃して肩につける。木製のストックに頬を乗せた。

 眼球の真っ正面に、イボのような照星がある。

 思わず舌打ちした。

 この頬を乗せた位置から眼球までの高さは、鉄砲にとって生命線とも言うべきものなのだ。それがドンピシャ、俺に合っているということは……。

「マスター・きらら、最初から俺に売りつけるつもりだったんじゃねーかよ」

 だったらもっと値切ってやりゃあよかった。いくら今日は羽振りが良いからといって、小金貨三枚は普通に痛い出費だ。

 もういい、さっさと寝てしまおう。猟師というのは、朝が早い職業なのだ。

 鉄砲を片付け、ベッドにもぐり込む。舌打ちしながら眠りに落ちた。


 翌朝、といってもまだ未明。星明かりをたよりに部屋を出る。

 野生動物やモンスターは夜行性が多い。夜目の効かない人間としては日の出と同時に、寝床へ帰りそびれた奴をねらうのがセオリーだ。

 装弾は大物用から小物用まで、腰の革袋に入れてある。鉄砲は布ケースで覆って肩から提げた。布ケースは塵埃、あるいは露から鉄砲を守るために使っている。

 仕事から帰って、鉄砲の掃除は手間がかからない方がいい。それに銃身に異物が侵入するのも、ケースは防いでくれる。

 町を出る前に冒険者ギルドに立ち寄る。夜間や早朝に活動する冒険者のために、この町のギルドは二四時間営業しているのだ。

 明かりをたよりに屋内へ入る。すると俺と同じような早朝組が五〜六人、受け付けをしていた。

 俺は掲示板で仕事漁り。昨日確認したときはロクな仕事がなかったが、状況が変わっていることを期待しての行動だ。

 しかし、掲示板は昨日のまま。かわりばえのないシケた仕事ばかりだった。

「鉄砲屋さん」

 受付の窓口から声がかかった。若い職員が俺の方を見ている。最近入ったやつだろう。見覚えが無い。

「その様子じゃ、大物ねらいみたいだね」

「あぁ、なにかと物入りなんでね」

「ちょっと待っててな、いい仕事がないか捜してみるから」

 若い職員は台帳を開いた。なかなか仕事熱心な男だ。もしかしたら人気のないこの時間帯に女の子を連れ込みたくて、冒険者たちを追い払いたいだけかもしれない。このスケベが。遊んでばかりいないで身を固めろ。俺も他人のことは言えないが。

「あったあった……これなんかどうだい? デアボムースの駆除。小金貨六枚の大物だ」

「う〜〜ん……俺の鉄砲は、そこまで長距離仕様じゃないからなぁ」

 デアボムースはヘラ鹿をさらに巨大化させた魔物だ。いや、ヘラ鹿に似ているけど魔物なんだからまったくの別物。こいつが幅を効かせると野生動物が人里に追いやられ、結果的に農作物に被害が出るという困り者だ。

 通常コイツをしとめるにはマスケット銃で隊列を組み、一斉に撃ちかけないといけない。

 マスケットは散弾よりも射程距離があるけど、命中精度は話にならない。だから隊列行列を組んでかからないとならない。で、高価な鉄砲をそれだけ揃えるとなると? ハイ、その通り。国や貴族のお仕事ということになる。とてもじゃないけど、俺みたいな下級猟師単身の手に負える仕事じゃない。

「じゃあこれは? ゴブリン小隊の駆除。五匹ほどの小隊が悪さしてるらしいよ?」

「ほう? どれどれ……」

 ラビットやムースから、いきなりゴブリンときた。ファンタジー度数もハネ上がりというものだ。

 詳細を確認してみる。

 依頼が出たのは昨日の夕方。つまりまだ掲示板に張り出されていないものだ。依頼主は町の領主さま。つまり報酬の値切りピン跳ねは存在しない硬い仕事だ。

 ゴブリンの特徴に目を通す。数は五匹〜六匹。武器は棍棒、イボつき棍棒を持った個体がリーダーらしい。戦闘方法は、一人に対して群がるように襲いかかってくるという、原始的かつ頭の悪い戦法のようだ。

 被害者が出ている。

 山菜採りや魔法素材の採取をしている者たちが襲われていた。死者一名、負傷者五名。

 小柄ですばしっこく力が強いので、依頼を受けた者は心してかかるように、とのお達しがある。報酬は、一匹に対して大銀貨五枚(日本円換算五万円)。つまり五匹とも倒せば、小金貨二枚に大銀貨五枚で日本円換算二五万円になる。

 ふむ、悪くない。

多少すばしっこいだろうが、こちらは動く獲物をとらえるための鉄砲。散弾式鉄砲を使っている。とらえられないことは無い。

「よし、引き受けるか」

「悪いね、兄さん。本当はもっとボロい稼ぎしたかったんだよね?」

「いやいや、山仕事は生還してナンボ。きっちり稼げる仕事が一番さ」

 迷わず彼が提示した依頼書にサイン。これでこの仕事は、俺のものとなった。

「じゃあ早速行ってくるかな」

「あぁ、お兄さん。ヤカンにコーヒーが入ってるから、飲んでいくといいよ」

「ありがとな、でも俺はコーヒーには妥協できないタチなんだ」

 礼を言って外に出る。

 ギルド支給のコーヒーは、身体を温めるために砂糖とミルクがたっぷり入っている。俺はコーヒーはブラックと決めているのだ。これは譲れない。

 少し空が白んできたが、まだ星が残っている。とりあえず山へ急ぐことにした。

 我らが大家さんマスターきららが言うには、この鉄砲でムースやボア、ゴールデン・ベアといった大物を倒す弾も撃てるらしい。

 しかし今回の獲物はゴブリン。人間の子供をマッチョにした程度のサイズ。それほど重たくない弾……はっきり言うと軽くて安い弾でも、十分にイケると踏んでいる。

 ここで確実にひと稼ぎして、大きく稼ぐのは次回にと方針を決めた。そうだ、焦らなくとも、太い仕事は必ず巡ってくる。

 そんなことで、いざ山へ。俺はギルドをあとにした。

 が!

 星明かりの下、ふらふらと酔っぱらいの女が歩いてきた。

 まだ若い。十六は越えて成人しているだろうが、それでも若い。

 白いマントに清潔であっただろうブラウス。乗馬用のゆったりしたパンツに、頑丈そうな革長靴。ブーツの上部からはハイソックスがのぞいていたりして。

 うん、冒険者だな。見ればわかる。とはいえ、あまりキャリアを積んでいない初心者。というか、いわゆるランクやレベルの低い雑魚、というやつだろう。

 ま、俺も職種の上でいくと、雑魚も雑魚なんだけどね。

 とにかくこれから仕事だってのに、酔っぱらいの相手はしてられない。できるだけ道の端っこに寄って、絡まれないようにしないと……。って、こっち来やがった!

 さらに俺は道の端に寄る。しかし酔っぱらいは追尾の魔法でも使ってるのか、こっちを見てもいないのに近づいて来る。

 世の中は、起きてほしくない出来事ほど確実に起こってしまうものだと、誰かが言ってた。

 そしてそんな必要ない法則が、いま正に俺をさいなんでいる。

 離れろ酔っぱらい、酒の匂いを俺に移すんじゃねぇ! 山ん中にゃ人間の能力が及ばないほど、嗅覚の発達した動物もいるんだぞ!

 だが俺の願いは空振りに終わった。

「お兄さ〜〜ん、飲んでますか〜〜?」

 ……最悪だ。酔っぱらいに捕まってしまった。これから命のやりとりがかかった、仕事に出かけるってのに。

「あれ〜〜? 飲んでませんね〜〜。ダメですよ〜〜、夜は飲まないと〜〜?」

 しかもこの女、俺の苦手なユルい話し方しやがる。

「夜は何故、飲むんでしょ〜〜ね〜〜? それは、夜だからで〜〜す!」

 知ってる。

 この手の飲んべえが夜は飲む時間だとか言いつつ、昼間も飲んでいることを俺は知っている。

「よ、ゴキゲンだね、お姉ちゃん」

「は〜〜い! マミはゴキゲンですよ〜〜……ホントはツラすぎる現実に、しおれていますけど……」

 やべぇ、ゴキゲンとか言っておきながらしおれる酔っぱらいに、ロクな奴はいない!

 とにかく早急に、可及的速やかに、この酔っぱらいから逃げ出さなければ!

「あのね、君はゴキゲンでもオジサンはこれから仕事なの。だから君の相手はしてられないの。ごめんなさいね」

 って、首に腕を回してくるなっ! すり寄るなっ! 化粧臭さは無いが女の匂いが移るっ!

 ……って、なんか乳臭いぞコイツ。ということは、まだ男を知らないのか? って、そうじゃないからな、俺。仕事に女の匂いは必要ないんだ! さっさと離れろ、この酔っぱらい!

 と思ったが……もうダメだ……。

 この女、ほっぺたにキスまでして来やがった。全身グリグリ押しつけて、匂いまでべったりつけてくれるし。これではもう、朝イチの仕事はパーだ。

 押し退けても離れない酔っぱらいを引きずって、俺は部屋に帰ることにした。


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