鉄砲が当たらない理由
短め更新です
カモをギルドに納めたら、すぐに山へ。
「お前と出くわす前に決めてたことだ」
「それはかまわないけど、どういうことなのよ?」
デコは文句をたれる。
「実はこの町を囲む山に、ゴブリンの群れが集結している。数は一五〇から二〇〇」
「一五〇から二〇〇? なによそれっ、異常事態じゃないっ!」
そう、ゴブリンがそれだけの数で集まるのは、異常なことなのだ。
ゴブリンは通常、一〇から二〇匹程度の群れを形成している。一夫多妻のハーレムだったり、複数のファミリーの集合だったりと、あまり規則性の無い群れの作り方である。
それが一〇倍の数である。デコの言う通り異常事態なのだ。
「それに対応するべく、ギルドで討伐隊を出すことになっていて、俺たちチームしおからも募集に応じている」
「ふむふむ」
「一応領主さまの偵察隊や、ギルドの偵察隊も山に入ってるんだが、まだ数は把握した程度でしかない。群れのいる場所、縄張りの範囲、そして連中が何のために集まっているのか? その辺りがまるでわかっていない」
「だから独自に調査するのね?」
「その通り」
さすが広いデコを所持しているだけのことはある。飲み込みがはやい。
「危険は無いのかしら?」
「少なくともギルドでは、立ち入り禁止令は出していない。全て自己責任ということになる」
「なるほどね、わかったわ」
キアッパのギルドに加盟した以上、こちらの山にも慣れておきたい。デコはそう言って意欲を見せた。
そして、以前マミとゴブリン討伐に入った北の山へ。まずは最初の山。それからゴブリンを撃った二番目の山。
足跡や藪をくぐった跡。糞や食料を採取した痕跡を探す。
……が。
「無いなぁ、ダンナ」
「うむ、この山までは進んで来ていないらしい」
痕跡の捜索は主に俺とライゾウで行う。その合間に、マミとデコに痕跡捜索の技術を伝えた。
二人ともあまり山にはなれていない。だからごくごく初歩的に、「足跡や痕跡は、どこかに必ずある。という目で観察してみろ」とだけ言っておく。
例えそれが、葉っぱに落ちた鳥の糞程度であっても、その頭上には鳥がいたという証拠になる。枝があるならば、鳥が止まっていたと考えられる。枝が無ければそこが鳥の通り道だ。
痕跡捜索の技術を、「山を読む」というのだが、基本や基礎はこのように「見逃さない」ことに尽きる。
で、二番目の山を読んだところで、タイムアップ。日が傾いてきた。
「一日棒に振っちゃいましたねぇ」
「それは違うな、マミ。ゴブリンはここまで縄張りを広げていない、ということがわかったんだ。それだけでも収穫さ」
「ずいぶん消極的な収穫ね」
デコには空振りにしか思えないのか、露骨に不満顔だ。
「消極的でもかまわない。山は俺たち猟師だけが使っている訳じゃない。木こりに薬草採取、冒険者ビギナーもいる。彼らが安全に活動できるとわかったんだ」
「ふ〜〜ん……まあ、それなら立派な収穫かしら」
「とかいいながら、みんなが安全ってわかった途端、ホッとした顔すんだから。素直じゃねぇよなぁデコは」
「茶色、うるさい」
明日も朝からカモを撃ち、残った時間で山を見に行くことにする。
次の目標は三の山だ。少しずつ山が深くなり、大物の気配も濃くなってくる。
「ということでデコ、お前はゴブリンよりも、シカやイノシシの痕跡を気にしておけ」
「わかったわ。大物デビューの準備ね」
マミにはマッピングを命じた。いざというとき、距離を知っているのといないのとでは、結果がまったく違ってくるものだ。
鉄砲の弾というのはまっすぐ飛ぶ訳ではない。マスケットのようなへっぽこという意味ではなく、山なりに飛ぶという意味だ。
銃口を離れた弾は失速を始める。徐々に勢いを失い、落下を始める。結果的に筒先で的を狙っても、狙った場所より下の方に当たる。
だから照門照星を調整して、わずかに上を向けて撃つようになっている。弾を山なりに放るのだ。
ところがこの照門照星。一〇〇メートルで当たるように調整したら、六〇メートルや一五〇メートルではハズレてしまうのだ。当たり前だよな、一〇〇メートルで当たるようにしてんだから、他の距離では当たらない。
だからマミの測距魔法というのが必要になってくる。正解な距離を測ってもらわないと、鉄砲なんて絶対に当たらない。
精度の低いマスケットしか無いのなら、鉄砲は数であり誰かの弾が当たるだろう、の精神でかまわない。しかし俺たちは違う。
マスター・フランキの鉄砲がある。マスターきららの弾がある。そしてマミがいてくれる。
ハズす訳にはいかないのだ。
そして明後日は、俺とマミとでシェルパのお仕事。マヌエル氏とエルダさんが、アダム氏とラウロ君を招くお手伝いが待っている。
「なによ、その仕事?」
「簡単に言うと、お見合いだな。親同士で子供たちを見合せたら、娘さんの方がゾッコンでね」
「それがシェルパと何の関係があるのよ?」
「男の子の方が狩猟を趣味にしていてな、娘さんの方が『まあ、私も狩猟が趣味ですの』なんて話を合わせたもんだから、さあ大変」
「その女、鉄砲を持ったことすらなかったのね……」
「あぁ、その通り。だがキジ撃ち案内の試験じゃ、かなりサマになってたぜ」
「練習したのね」
ほほう、才能や生まれに頼り切ってると思ったけど、デコにも他人の努力がわかるのか。感心感心。
「ということで、若い二人の楽しい時間を演出するため、出撃してくる」
「なるほどね。頑張ってくださいね、おねえさま!」
デコのやつ、マミの手を取って励ましてやがる。
「あの、フランカさん。普通はこういう時、親分の手を取って励ますんじゃないかな?」
「おねえさま、事は色恋の話です。アレは戦力になりません!」
アレ言うな、デコ。
こらマミ、お前も「それもそうですねぇ」とかぬかして、諦め顔するんじゃねぇっ!
「ダンナ、マミ姉に不満があるみたいだね」
「あぁ、ものすごく不満だな」
「でもそれは、ダンナの独り身が悪いよ。嫁さんの一人も囲ってりゃ、不満ももっともだって言ってやれんだけどね」
言うじゃない、君ぃ……。
まあ、俺の株ダダ下がりだが一日が終わる。みんなで風呂屋に行き、洗濯を済ませた。
食事はライゾウが作ってくれた。決して豪華な食事ではないが、昨日の夜がデコの歓迎会で肉だったのだ。少し胃袋を休めた方が良い。
マスターきららは、作業用エプロンについた木屑を払い落としながら、食卓についた。食事が済んだら、また作業に取りかかるという。
木製部品を削っていたのか? だとすれば、マミのための一丁かもしれない。昨晩もらしていた、人類にはオーバースペックな一丁。
もしそうだとしたら、猟師としてその性能を聞いてみたくなる。
が、それは公開できる段階になれば、マスター自ら話してくれるだろう。今は彼女の集中力を途切らせないことだ。
明日朝のカモ撃ちの準備を済ませて、その夜はおとなしく就寝。みんな疲れていたのだろう、マスターきららを残してそれぞれ部屋へ帰ってゆく。
翌朝のカモは、俺とライゾウのタッグ。デコはマミと勢子に入った。
いつものようにバシバシと落とし、ギルドで換金したら、乾パンを買い込んで、いざ三番目の山へ!




