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デコちゃんの、ド~ンとやってみよう!


 そして朝が来た。

 朝風呂、銭湯という習慣になれていないデコだが、マミの案内でどうにかミッションをクリア。軽い朝食を摂る。

 食休みをとって、それでもまだ夜の明けていない。

「よし、行くか」

 肩に鉄砲、腰には装弾。背中に猟具を背負い、溜め池へと出撃だ。

 外に出ると、町はまだ眠っている。しかし冒険者や猟師たちは、すでに動き出していた。

 まずはギルドに立ち寄る。デコの冒険者登録と、チーム登録を済ませるためだ。

 登録を済ませたら、東へ。

 ここ数日、溜め池の町側……つまり西側をメインに猟をしていたので、東へ深く入ってみることにする。他の鉄砲猟師たちもカモを撃っているのだ。そろそろ西側は獲物が少なくなってくる。

 到着してみると、やはり西側はカモが三割程度に減っていた。

「さて、ライゾウ。お前ならどうする? ここでまだカモを求めるか、場所を移すか?」

 茂みの中、ライゾウに解答を求めてみた。この中では、俺の次にキャリアがあるからだ。

「ここは少し休ませた方がいいんじゃないかな? よそにもカモは着いているはずだよ?」

 ライゾウは木の枝をひろって、地面に図を描く。ひょうたんのように、大小の丸がクビレをはさんでふたつ。それが溜め池の略図だ。

「今までは小さな池で猟をしてたから、今度はこのクビレ……岬のむこうまで足を伸ばしたらどうかな? きっと着いてると思うよ」

 俺と同じ意見だ。

「二人とも、これから少し歩くぞ」

「おぉ、ついに新たな猟場ですねぇ」

「御一緒します、おねえさま」

 娘二人仲が良いのは微笑ましいが、デコは俺と同伴になる。残念だな、デコ。

 とはいえ、道中は四人組。先頭はライゾウ、後にマミ、デコ。最後は俺の順番。池の南側を回って歩く。アップダウンのある所では、ライゾウが二人の娘に手を貸した。

 まずは待ちのポイントに到着。池から少し離れた場所に着く。ライゾウたちは俺たちから見て、右から左にカモを飛ばしてくれる。

「ちょうどあそこの立木、あの辺りで五〇メートルです」

 マミが教えてくれた。カモは上空を飛ぶから、それより手前のものを撃つことになる。

「言っている意味がわかるな、デコ?」

「心配いらないわ」

「それじゃオイラたちは、勢子(追い立て役)の位置に着くね」

「発砲は日の出あとだぞ」

「わかってる」

 ライゾウとマミは、池から離れるようにして茂みへと消えた。

 視界を右から左にカモが飛ぶ。つまり池から南側の茂みへと飛ぶ。マミの言っていた立木は、ちょうど水際に生えていた。これなら回収が楽になる。入水する必要がなくなるのだ。

「デコ」

「デコって呼ぶな」

「だったら反応すんな」

「……………………」

 デコは憮然とした。

「お前の鉄砲は、射程がどのくらいだ?」

「四〇じゃ近いわね。四五メートルくらいよ」

「俺のは五〇メートル。獲物が被らなくていいな。ライゾウと組むと、どうしても同じ獲物をねらってしまう」

「なによそれ! あたしがおねえさまと組めないってこと?」

「……言われてみれば、そうか? まあ、そうならないようにローテーションを考慮しよう」

「なによ、えらく親切じゃない」

「仕事は楽しくやる主義でね。それにマミとお前は、組む機会が少ないからな」

「?」

 ふむ、理解してないようだな。

 仕方ない、冒険者に女性が少ない理由を説明してやるか。

 ……………………。

「という理由で、お前はマミと組む機会が少ない」

「おのれ、生理があったか……」

「里に近いカモ撃ちなら問題無いかもしれない。だが無理してることに変わりは無いし、里に近い場所へオオカミやクマを引き付ける可能性もある。やはり期間中は、女性には休んでもらいたい」

 デコは唇を噛む。

「……気合いでどうにかならないかしら」

「気合いでオオカミは避けてくれないぞ」

「当たり前じゃない、なに言ってんの? あたしが言ってんのは、気合いで生理周期を合わせられないか、ってこと!」

「……それもかなりどうかと思うぞ」

 夜が明けてきた。びっしりと空を埋め尽くした雲が低い。風はわずか、しかし冷たい。

 かすかに、遠い山並みの端から、太陽が昇った。

「……来るぞ」

 低く声をかける。デコとともに、折った鉄砲に弾を込め組み直す。銃口は上向き。待機姿勢をとる。

 カモが飛んだ。立木にさしかかったものを墜とす。そして弾を込め、図上の迷っているカモを撃つ。次の弾込めで、ライゾウたちに追われたカモが、大量に迫ってきた。

 カモ祭りだ!

 弾込めが追いつかない。どんどん撃ってどんどん墜とす。

 俺だけで八羽。回収後に数えたら、デコが六羽。ライゾウたちも四羽墜としていた。

 辺りは白い煙が立ち込めている。すべて鉄砲から吐き出された、黒色火薬の煙だ。

「よし、回収するぞ」

「……………………え?」

「回収だっての!」

「なに言ってんのよっ、聞こえないわよ!」

 おぉ、デコ。耳鳴りにやられたようだな。なにを隠そう、俺の耳もやられているのだ。デコの声が遠い。

 自分の手のひらに文字を書き、デコに読ませる。

「あぁ、回収ね。わかったわ」

 丁寧に丁寧に、カモの落ちた辺りを探し回り、すべて回収することができた。

「ダンナ! 回収できたかい!」

 マミとライゾウも帰ってきた。

 が。

「ちょっとあんたっ! おねえさまの前で、なんて格好してんのよっ!」

 手首に巻き手甲、足首には巻き脚半。

「なんだよデコ、いきなり怒ること無いだろ?」

「怒るわよっ! っていうかイイから服着なさいっ!」

 入水回収したのだろう、ライゾウは赤いふんどし一本に素足だった。

「仕方ないなぁ……マミ姉、ズボンちょうだい」

「振り向くんじゃないわよっ! おしり丸出しじゃないっ!」

「六尺ふんどしってのはそーゆーモンなんだよ」

「あんた今までおねえさまにお尻みせて歩いてた訳っ?」

 ライゾウは「何が悪い?」という顔をした。

 マミも「どこか不都合でも?」という顔だ。

「フランカさん?」

「おねえさま……」

「可愛らしいお尻でしたよ?」

「そーゆー話じゃなくなって!」

 ライゾウのケツの話題が、いつまで経っても終わりゃしない。これではカモの腸抜きが始まらないではないか。

 仕方ない、ここはリーダーの俺が話題をシメてやるか。

「はいはい、デコがライゾウのケツに興味があるのはわかったから、腸抜きにかかるぞ」

「興味なんかないわよっ!」

「私は弟を思い出しましたよ。……飢えと寒さで死んじゃいましたけどね」

「さあさあみんな! 張り切って腸を抜こうじゃないか!」

 俺の号令で、三人はそれぞれカモを手にした。

 あぶないあぶない、危うく場がどんよりと沈むところだった。

 尻の羽根をむしり、ナイフを入れるまでは分業制。そこから小枝を突っ込み、中身を引きずり出すのは全員で取り組んだ。

「しかしデコよ」

「なによ」

 すっかりデコの呼び名が定着したようだ。

「どうせならお前の鉄砲、大物ねらいにしてみないか?」

「なによ、あたしの鉄砲がカモに向かないっての?」

 有り体に言うなら、そういうことになる。

 なにしろ銃身が三二インチ。鉄砲を振り回すカモやキジ猟には向いてない。障害物のある場所では、取り回しに不自由する。

 理由はそれだけではない。やはり小柄なデコでは、この鉄砲との組み合わせは重すぎる。静かにねらう静的射撃、つまりシカねらいがベストではないか、と考えたのだ。

 マミはマミで、「おぉ!」と口を丸く開いている。

「大物ねらいですか、フランカさん! 私は大物猟には、まだ参加してないんですよ!」

「え? そうなの、おねえさま?」

 それに関しては、以前も言った通り。今でこそコイツらとつるんでいるが、基本的に俺は単独猟師。共なし犬なしでやってきた。だから大物をしとめても一人では担いで帰って来られない。

 だから小物専門でやっている。小物専門なものだから、大物ねらいのマスケットは持ってない。持つつもりもなかった。

 ……つもりはなかった。そう、今までは……。

 だが今は、マスケットの精度をはるかに凌駕する、デコ式鉄砲「スラッグも撃てるよ」がある。俺とライゾウで獲物を担いで来るならば、大物も不可能ではなくなってくる。

 夏の駆除だけで、一頭あたり小金貨一枚(日本円で十万円相当)。いやいや、精度の高いデコ鉄砲。(ネック)一発で肉まで卸せば、小金貨三枚はイケる。

 はっきり言って、かなりボロい儲けになるのだ。

「どうだ、デコ。マミに大物猟を味わわせてみないか?」

 猟師にとって、大物というのはやはり魅力がある。なにしろこのメンバーの中で、もっとも猟歴のある俺でさえ、不覚にも胸踊るものがあるのだから。

 デコの瞳が夢見るようにキラキラと輝いている。腸抜きの手際のよさを見て、確信を得ていたのだが……やはりコイツも猟師なのだ。

「ど、どうしましょう、おねえさま」

 とりあえず決断はしかねているようだ。マミにすがりつく。

「どうしましょうと言われても、フランカさん? 気持ちはすっかり動いてますよね? キラキラな瞳が、すべてを物語っていますよ?」

 マミはニコニコと笑っていた。


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