一緒に暮らそう
褐色スレンダー、ライゾウによる全裸スイミングでカモを回収して、今日一日を終えた。
猟果は三人で四羽。月が昇る頃には町に帰ることができた。カモを提げてギルドに入る。
「……………………」
「……………………」
あまりお行儀のよろしくない連中が、俺たちに蔑みの眼差しをくれる。
チームなんだろうね、それも新鋭のパリパリ。ニキビ跡も真新しい、ティーンエイジャー……若造どもの集まりだ。剣士戦士が二人ずつ、そこに魔導師(笑)がくっついている。
おぅ、あまり馬鹿には出来ないな。奴らのテーブルにはウイスキーのボトルと、小さなショットグラスが置いてある。しかも灰皿でくすぶってるのは、葉巻ですよ奥さん! 葉巻!
「何か用かな、坊やたち?」
俺が声をかけても、彼らは顔を見合わせてニヤニヤするばかり。若いマミとライゾウは、すでに不快を顔に出していた。
その中のリーダーらしいのが、「いや、別に」と言って床にツバの吐く。とても行儀が悪い。誰が床の掃除をすると思っているのだろうか?
「……楽でいいやね、離れた場所から指一本。……ズドーン! それでオーライ」
若造たちはいやらしい笑い声をあげた。
ライゾウが怒気を発した。それを片手で抑える。すでに、ギルドの中にいた古参の冒険者たちが、動き出していた。
モヒカン頭の褐色の巨漢、戦斧使いのリキ。歴戦の古強者、刺青腕が目立つホーリー。ボロをまとっているが、宮廷魔導師にもひけをとらない業師、リリック。
その他、冒険者の仁義というのを心得た連中が、それとなくなんとなく、若造連中を取り囲んでいた。
あぁ、ポイズンラビットを仕止めた日に会った、あのパーティーもこちらを見ているね。うん、古参に混ざって動き出すってことはしてないけど、冒険者が冒険者をクサすとどういうことになるか、それを若手に教え込むみたいにこっちを見ている。
そして若造パーティー、気づいた時にはもう遅かった。すっかり周りを取り囲まれている。
「……話がある。表に出な」
リキが低い声で言った。
「な、なんだよ……あんたたちには関係ないだろ? おい、ちょ……」
静かに、抵抗すらさせず、若造どもは連れ去られた。
いかに社会的身分が低い相手でも、冒険者というものは助け合いの精神を忘れてはならない。彼らはそのことを、肉体で思い知ることになるだろう。
まして近いうちに、大規模な討伐作戦があるのだ。この町のギルドが編成する部隊が、足並みを揃えなくてはならない時期。大切な時期なのだ。
「すまねぇな、カムイ。まだまだあんなのがいるもんだ」
古参の冒険者、トベイの親父さんが言う。
「かまいませんよ、いつものことです」
「そちらのお若い二人もな、俺から詫びを入れる。……すまなかった」
不快を顔に出してしまったライゾウとマミは恐縮する。
「まったく、何もわかっちゃいない連中だ。冒険に出たら最後、どんな危険に襲われるかわからん。誰が助けてくれるか知れん。……それに何より猟師ってのは、俺たちに肉を運んでくれるのにな」
トベイの親父さんは、ライゾウたちに片目をつぶってみせた。
鉄砲猟師の身分など、まだまだ低いものだ。しかし魔法の才能が無くとも剣の技量が無くとも、鉄砲は誰でも当てることができる。才能や努力を開花させることは素晴らしいことだ。だが鉄砲というのは、力や才能の無い者たちにも生きる術を与えてくれる。
簡単に言うと鉄砲がなければ俺なんて、この年まで生きていられたかどうか、あやしいものである。
まあ、イヤなことは早く忘れるに限る。
「ゴブリン討伐の話がどこまで進展したか、情報を仕入れて行こう」
「そうですねぇ、もしかしたらチームしおからが、大活躍するポジションに配置されるかもしれませんしねぇ♪」
「何しろオイラたちは、五〇メートル射程を二丁四門。しかも装填速度がバカっ早いからな!」
よしよし、二人とも機嫌を直したようだな。ならば早速、受付で聞いてくれよう。
「……………………」
受付の前に立つと、例の三十路手前のお姉ちゃんが、口をポカンと開けて俺を見ていた。
「……どうかした?」
「い、いえ。独り者で有名なカムイさんが、パーティーに参加してるだなんて、ちょっと意外だったから……」
後ろを振り返ってみる。ライゾウとマミがいる。なるほど確かに、この数日で俺には仲間ができた。これまでの経歴からすると、意外と感じるのも道理だ。
「まあね、なんだか縁ができちゃってね」
それはそれとして。
調査のために派遣したフランキ領の兵隊たちは、もちろん日帰りだそうだ。だからといって手ぶらではない。ちゃんと調査報告を持って帰っているらしい。
らしいというのは、彼らは帰還と同時にまず領主フランキ候に報告を上げるからだ。まあ、フランキ候の兵隊なんだから、当たり前と言えば当たり前。
しかし収集した情報をフランキ候が精査してギルドに流すのなら、それは問題がある。
まあ、ギルドの冒険者たちを駒扱いして、最終的に損をするのはフランキ候なのだが。
そりゃそうだ。清い川に魚は住めない。俺たちのようなドブ人間がいないと、清らかな世界は維持できないのだ。モンスターだのゴブリンだのと言った汚れ仕事は、俺たちが掃除しなくちゃならないからね。
「そんな状況ではありますが、カムイさん」
「ほい」
「兵隊さんたちが情報を、ちょっぴりリークしてくれましたよ?」
「それはどんな?」
「ゴブリンの数は一五〇から二〇〇。一見、目撃情報から新しい情報が入っていないように見えますが、正確な情報が入ったことは行幸です」
「ギルマスはこのことは?」
「もちろん存じ上げています。そして現在は、募集に応じた者たちをどのように、どこへ配置するかで思案中です」
俺たちが仕事をしやすいか否か、すべてはギルマス一人の采配にかかっているのだ。うん、その言い方は間違っているか。ギルドマスターにはギルドマスターの副官なり補佐なり、参謀なりがきちんとついていて、チーム・ギルマスが存在している。この辺りは心配ないはずだ。
「だけど……」
「どうしました、カムイさん?」
「一回こっきりの偵察で、作戦なんか立てて大丈夫なのかね? もっとしっかり観察して、ゴブリンたちの目的を理解して、それから作戦を立てた方が効率がいいと思うけどね」
「その点は心配いりません。作戦はあくまで現段階のもの、決定稿ではありません。……それに」
受付さんは、笑顔を崩さない。
「我々ギルドでも、偵察は出しています」
なるほどね、あまりフランキ候を信用していないのか? はたまた、情報のすり合わせをしたいのか? どっちにしても自分のところの人間を出すのは、当然のことか。
「ゴブリンたちはどの辺りを根城にしてますかね?」
「さて、そこまでは。これだけの数ですし、もしかしたら少し奥の方かもしれませんね」
「つまり、現状ではまだほとんど何も知らされていない、ってことですね?」
「お恥ずかしながら」
「いや、数は掴んでいるって分かっただけでも収穫です。ありがとう」
俺たちはギルドを後にした。
「結局、何もわかんなかったね、ダンナ」
「あぁ、そうだな」
「私は不安ですねぇ、これから先どんな作戦に放り込まれるか、わからないんですから」
「そうか、マミは不安か……」
実はこっそり、胸の中で、あるアイデアが浮かんでいた。
「明日の朝のカモが終わったら、俺たちも行ってみるか?」
「どこにだい?」
「美味しいものを食べにですか?」
何をボケたことを……。
「偵察にだよ、独自にな」
ライゾウはキラリと目を輝かせた。
マミは相変わらず、いつものタレ目で糸目だ。
「……あの、いいんですか、親分? まだ調査中なんですよね?」
「北の山に立ち入り禁止は出ていない。問題は無いさ、出ているのは注意勧告だけだ」
「面白そうだな、ダンナ。マミ姉も行ってみようぜ」
「う〜〜ん……そうですねぇ、おとがめ無しなら行っちゃいましょうか!」
満場一致、明日はカモの後に山行き決定。
「だとしたら親分、ギルドにカモを卸したら、そのまま山に行きますか?」
「うん、その方が面倒が無くていいな」
俺が言うとマミは、細い目をさらに細めて「ん〜〜……」と考え込んだ。
「そのように効率を突き詰めていきますと、これから先さらに考慮しなくてはならない項目が出て来ますねぇ……」
おい、あまり難しい言葉使うな。ちょっと口調がたどたどしかったぞ。
「ライゾウ君!」
「は、はい! なんだよマミ姉?」
「ライゾウ君も、マスターきららのところで寝起きするのが良いと、マミは思います!」
「へ? オイラも鉄砲屋さんに部屋借りるの?」
「いやですか?」
「い、いや……そんなこたぁ無ぇけど……照れるなぁ」
何を照れてるものやら。しかし……。
「マミにしちゃ上出来な提案だ。どうだライゾウ、お前もマスターきららの店に住むか?」
「あぁ、願ったりだ!」
「よし、それじゃあ早速交渉だ!」
「おーー!」
間抜けな声でマミが拳を突き上げた時だ。
「待ちなさい、独りカムイ!」
娘の声が鋭くかかった。




