試験前夜祭
マタゾウへの挨拶は終わった。店に帰るとする。これで手続きさえ済ませれば、ライゾウはチームしおからの一員だ。
そうなると、少しだけ困ったことがある。
明日はマヌエル氏のシェルパ試験だ。マミと二人で挑むつもりだったが、ライゾウはどうするべきか?
あの野生児では、シェルパはつとまらないだろう。
「オイラは明日、カモをねらってみようと思ってんだ」
店にもどると、ライゾウは言った。
「まだまだ、ダンナと報酬山分けなんて身分じゃないからね」
「そうか? シェルパ代はなかなか高額なんだが……」
「ダンナと一緒に行動した時だけ、山分けさせてもらうよ」
すまんなと頭をさげると、いいよいいよと手を振ってくれた。
「で、弾の入れ換えはスムーズにできるようになったか?」
「だいぶんね。でも本番になったら、どうかなぁ?」
「落ち着いてやれば大丈夫さ」
今度はマミに目をやる。
挙銃練習の繰り返し……というか、構えた位置から控えに移行していた。
「マミ、俺が出かけた時とは動きが違うな」
「はい、マスターきららが途中から練習内容を変更してくれましたぁ」
「ふむ」
実は構えた位置から控えに移行するこの動き。俺のオリジナルの練習方法だった。若い頃に出会った剣士の稽古方法をいただいたものである。
たしか、ジゲン流とか言ったか。斬った体勢から構えに戻すスピードを速くする。そのこと「溜め」の筋力を鍛えるとかなんとか。もちろんその時の剣の軌跡は、斬るためのコースを正確になぞるとかなぞらないとか……。
「なんでマスターきららが、この練習方法を知っているんだ?」
「ということは親分、これはとても効果的な練習方法なんですね?」
チッ、知られたか。
「そうなのかい、ダンナ?」
ライゾウまで鉄砲を組んで、早速頬付けから控えの姿勢取ってるし。
「仕方ない、同じチームだし白状するか。これは以前、剣士から聞いた稽古方法をアレンジしたものなんだ。だからその効果を理論立てて説明はできない。そこはカンベンしてくれ」
「あら、そうだったの?」
マスターきららが工房から現れた。
「……マスター。あんた俺の練習、のぞいたな?」
「あら、きららちゃん知らな〜〜い。私、鉄砲を作るのは知ってても、撃つ練習なんてわからないも〜〜ん」
しれっと嘘をコキやがる。この娘、七年前の散弾試合で大人を押し退けて、優勝かっさらった過去があるのだ。もちろん幼女の身分でだ。
まあそれ以降は、撃つよりも製作一本槍。大会に出てくることはなかったがな。
「だけどマスターを名乗るからには、日々鉄砲のことを考えて、ありとあらゆる可能性に挑戦している訳だから、どこかで技術が交差している可能性はありますね」
マミもライゾウも、感心したようにうなずいている。
騙されるな、二人とも。目の前にいる目隠れ娘は商人だ。嘘くらいは平気でつくぞ。
だが。
俺の秘密練習を公開したりして、マスターきららがマミに入れ込んでいると見るのは、早計だろうか?
宿をすぐに与えてくれたのは、距離魔法を使えると知ってからだった。猟師になることをすすめたのも、マスターきららではなかったか?
そしていま、本人は猟師になることを決心しているだろうが、鉄砲猟師になるとは言ってない。それなのにマスケット銃をあたえて、挙銃練習をさせている。
もちろん顧客を増やすのは商人の理なのだけど、う〜〜む……。
「ところでダンナ、そろそろギルドに行ってみないかい?」
日は力を失い、早くも夕暮れの気配を漂わせていた。
「そうだな、そろそろ出かけてみるか」
ライゾウから鉄砲を受け取り、部屋に戻り収納する。マスターきららもライゾウの鉄砲の調整を再開した。
では、三人そろってギルドに出発だ。
ギルドには、まだ御触れの説明を受けていない者、討伐の参加手続きをしている者たちが残っていた。
「先にライゾウのチーム登録を済ませるか」
受付で簡単な書類に記入。チームしおからは三名となった。
「チームしおからは明日、マヌエル氏のシェルパ試験を受けますが、ライゾウさんはカモ猟の仕事を入れてますね?」
「あぁ、話し合い済みだよ。オイラ一人でカモ撃ち、ダンナたちは試験。報酬は別個で」
「わかりました、そのように手配しておきます。で、カムイさん」
「はいよ」
「マヌエル氏は明日一〇時、ギルド前でお待ちです。遅れないようにしてください」
明日一〇時か。……朝カモが狙えるかもしれないな。いや、あまり欲は出さない方がいいかもしれない。明日は明日で集中するべきだ。
それよりも今は……。
「すみません、ゴブリン討伐の説明はどこできけますか?」
「三番の窓口で担当してますので、そちらで並んでください」
受付の指示にしたがって、待ち合いのソファに腰掛ける。この頃には、すでに冒険者たちの数も減っていた。
待つことしばし。俺たちの順番になった。
一番最初に言われたのは、フランキ領内の軍隊が出てきて、ゴブリンの動向を調査中だということだった。そのままゴブリン討伐に入ってくれたら良いものだが、それは越権行為なんだそうで。モンスターや野生動物はギルドの管理。軍隊は人間相手という線引きがあるという。
簡単に言うと山や森、あるいは盗賊などという危険因子はギルドにとって、現金そのものなのだ。軍隊ごときに討伐されては困る、ということだろう。
討伐開始は調査結果が出て、国から助成金を引き出してからということになる。現在ギルドが行っているのは人員の確保。それ後で作戦を立てて、人事を割り振りする。
まだ決定が出ていないので、報酬をあてにし過ぎないようにと釘を刺された。
どのような得物かと訊かれたので、チームしおからは鉄砲猟師だと答えた。
鉄砲猟師は魔法使いたちと共に最前線で、序盤の火力攻撃を担当することが多い。そのような配置で良いかと訊かれる。
装填速度が早く、飛距離もあるので、別の用いられ方を希望すると伝えた。
具体的には、序盤の一撃を食らわした魔法使いや鉄砲使いが撤退してくる時、しんがりをつとめることができる。あるいは中盤、左右に展開しようとする敵の出鼻を挫く。さらには背後に回り込み強襲、などの例を挙げた。
「考慮しておきましょう。ですが、今の段階はあくまで敵の動向調査ですので、御希望に添えるかどうかは未定です」
「わかりました、参加となれば指示に従いますので、よろしくお願いします」
それと。
「メンバーには女性が入っていますので、急なキャンセルもあり得ます」
カムイが言うと、受付の係員は書類に目を落とした。
「……距離目の魔法使いですか。鉄砲猟師に距離目使いは、絶対に必要なのですか?」
「今回のような大規模作戦では、鉄砲隊にとって極めて重要な役割を果たします。というか、いないと話になりません」
「……わかりました。他に質問はありますか?」
無いと答えると係員は、「志願を感謝します。連絡はのちほど」と説明を終えた。
さあ、あとはマヌエル氏のシェルパ試験に専念だ。ライゾウはライゾウで、カモ撃ちがある。
「ということで親分。ライゾウさんの歓迎会などいかがですか?」
「うむ、それは名案だな」
「え? いいのかい、オイラなんかで……」
「かまわないさ、マミの時にも肉と酒でもてなしたんだ」
そうだ。正確には、マミが初陣を果たした夜。あの夜は理不尽な説教を、女性陣二人から食らったのだ。しかし、今度は違う。
男は二人。そう簡単に好き放題させたりはしない。リベンジの果たすなら、今夜しか無い。
……………………。
「チームしおからの戦力が増大しまひたよィヤッフ〜〜っ!」
「私も新型鉄砲が売れてィヤッフ〜〜っ!」
開幕早々、嫁入り前の娘二人は崖を転げ落ちるような速度で、泥酔者と化してしまった。
「飲んれましゅか〜〜ライゾウしゃん!」
「今夜はお客しゃんのための夜なのよーーっ!」
しまった。今夜は説教酒じゃないようだ。ひたすら酒をすすめる、タチの悪いからみ酒になっている。
「いや待てマミ、ライゾウは明日早いから……」
「あしゃが早くとも、飲むときは飲む! しょれが男の生きる道!」
「よく言った! マミしゃん男前っ!」
「ほれほれ、お肉が焼けてまふよ〜〜っ!」
ゴツゴツ焼いては、ライゾウの皿に盛りつける。
そしてライゾウは……。
「美人の酌だと酒がすすむな〜〜ウイッ」
すでに顔を真っ赤にして酔っぱらっていた。
……ダメだコリャ。
明日はゆっくり朝寝を決め込もうと思っていたのに、ライゾウを起こすために早起きしなけりゃならない。
さらば、優雅な朝寝よ。やはり猟師は、早起きと縁が切れないようだ。




