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シエルパの下見

ちょっと短め投稿です


 で?

 翌朝は大猟。デコイ近辺にたんまりとカモが着いていたのと、パニックを起こしたカモたちがいつまでも俺たちの頭上を飛び回っていたのとで、一二羽という記録的な猟果をあげることができた。

「だがしかし」

「なんですか、親分?」

「寒くないのか、お前」

「はぁ、それはまあ少しは寒いですけど……」


 なんだそれは?

 俺は昨日死にそうな目に逢ったんだぞ?

 どういう不公平だよ、それ?

「……………………」

 俺が不満を抱いていると、マミの方も不満そう。糸目のタレ目はいつもの通りだけど、少し眉をひそめている。

「どうした、マミ?」

「親分、もしかして『俺だけ寒い目に逢って不公平だ!』とか思ってませんか?」

「実はものすごく思ってる」

「何を隠そうこのマミさんも、親分には不満を持っているのです」

 ほほう、師に不満とはマミ。昨日の今日でそなたも偉くなったものよのう。

 とか余裕ブッこいてたら、マミが俺の脇腹を触り出した。

「なんですか親分! この体脂肪の少なさはっ! これでも成人男性ですか、情けないっ! 私の体脂肪をくっつけてやりたいくらいですっ!」

「何を言ってんの、アンタっ! 全然太ってないじゃないかっ!」

「いーーえ、太ってますっ! 私なんてあちこちムチムチのパッツンパッツンなんですからっ! 嗚呼憎らしい、このお腹っ! 親分なんて中年太りしてしまえっ!」

「アホかーーっ!」

 ……乳の育ちが良くとも、くびれをキープできていても、女の子という生き物には悩み事があるものらしい。

 それはわかる。それはわかるのだがマミ。

 俺に当たるのはやめてくれ。ものすごく迷惑だ。

 バストやヒップが色っぽいとほめてもダメ。

 くびれているじゃないかと言ってもダメ。

 体脂肪の少ない野生肉を食べて、毎日歩き回っているから痩せている。そう言ってなんとか許してもらえた。

「……本当ですか?」

「本当だ。俺が痩せてるのなんて、他に理由が見つからん」

「……猟師やってたら、やせますか?」

「痩せる痩せる、どんどんやせる。もうこれ以上無いってくらいやせるから」

「わかりました、親分を許してあげましょう」

「ありがとうございます」

 というか、俺。許されなきゃならないこと、何かしたっけ?


 ギルドにカモを納め、マスターきららに朝食を。

 それからの予定はというと?

「昼間はキジを見ておくか」

「見るだけですか?」

「そ、見るだけ」

 シェルパの仕事のために、猟場の下見をしておきたい。俺の提案にマミも乗ってくれた。

 場所は南の畑作地帯。

 キジは意外と人間のそばに住んでいて、農家の庭を駆けていったりすることもある。

 だが、使うモノが鉄砲。庭先でぶっ放す訳にはいかない。そこであらかじめ猟場を下見しておき、きっちり安全に弾を抜かせてやりたいからだ。

 キジ撃ちの流れは簡単に説明すると……。

?犬と散歩。

?藪や茂みに隠れたキジを、犬が発見。

?鉄砲に弾を込める。

?犬の突入、キジが飛ぶ。

?そこを撃つ。

 キジも案外、藪の奥深くにはいない。サッと飛び込んだら、すぐそこにいるものだ。だから鉄砲も、近距離用のものを使ったりする。

 近距離といっても、俺の鉄砲と比べた話じゃない。平均よりも近距離という意味だ。

 そんな近距離鉄砲、逆に作るのが難しいのではないか?

 いや、意外と簡単なのだ。銃身が短ければいいだけのこと。逆に言うと飛距離を稼ぐために、槍のような三二インチ銃身を使う猟師もいる。

 だがそんな長得物、森や山の中では小回りが効かない。二六インチの新型鉄砲。マスターきららの発明がどれほど偉大か、御理解いただけただろうか?

 まさかとは思うが、一応猟具を背負ってゆく。そんなに山奥、そんなに危険な場所に立ち入るつもりは無いが、それでも万が一ということはある。

 マミと二人で農村部に入り、畑で働く人たちを眺めて歩く。

「……もうじき刈り取りの季節ですねぇ」

「あぁ、麦畑に銃口は向けられないな」

「この辺りはクマやオオカミは出ないんですか?」

「肉食系の獣は出ないな。その代わり……」

 畑と山の境目を指差す。

 そこには古い板塀が朽ちていた。

「シカやイノシシが多くてね。夏の間にずいぶん撃ったさ」

「でも親分以外の鉄砲猟師さんって、ほとんど見ませんけど。あのカモ撃ちさんくらいですか……」

「この辺りは俺のような鉄砲猟師は少ないけど、みんな罠をやってるのさ」

「罠?」

「そう、罠」

 ちょうど良く林の中に、看板がブラ下がっていた。

「なんて書いてあるか、読めるか?」

「えとえと……罠! 注意! ……ですか?」

「一応、罠を仕掛けた場所には看板を掛けておくのが決まりだ。あーゆーところにお客さんを案内すると、猟師の名折れだからな。ただし、中には看板なんか知らねーや、って輩もいる。そこは気をつけないとな」

「気をつけてたら、罠にかからなくなるんですか?」

「マミが罠をやるとしたら、どこに仕掛ける?」

 唇に指先を当てて、マミは「んとんと」と考える。

「やっぱり、シカに食べられたくない物のそばですかねぇ」

「残念、そういう場所に罠は無い」

 農家さんに断りを入れて、あぜ道を通らせてもらう。ここいらでシカやイノシシを撃ったということで、すでに顔見知りなのだ。オーナーさんは快く承諾してくれた。

 森のそばまで来る

 ……ちなみに、森と林の区別はどのようにつけるか、御存知だろうか?

 密生する樹木の丈が、規定より高いのが森。低いのが林である。

 で、高い樹木の密生する森のそばに来た。

「見ろ」

 薄暗い森の中、草木や笹の葉を踏みつけた跡がある。

「これが動物の通り道だ。罠はこういった場所に仕掛ける」

 動物が獣道を作るには、作るだけの理由がある。動物が通らない場所には、通らないだけの理由がある。

「一番わかりやすいのは、通りやすさかな?」

「ふむふむ」

「例えばイノシシなんかは身を隠しながら移動するための藪、あるいは茂みが欲しいだろう」

 さらにシカ、とくに角の立派な雄はなら、低い枝の無い場所を好むという。

「何故ですか?」

「角が枝に引っ掛かって動けなくなるからさ」

「おぉ、なるほど。では親分、女の子というのはどこを通りますか?」

「なぬ?」

 なにを言ってんのかね? と思ったが、マミの指差す先……畑と森の狭間には、白いワンピースの娘さんが立っていた。


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