表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/95

THE ボウズ


 夕方猟といっても、日没寸前に現場入りする訳じゃない。今回はデコイを使うのだ。仕込みのために少し早く到着する必要がある。

 まずポイントは、他の猟師が着かない場所。つまり、あまりカモが寄らない場所をチョイス。遠浅で実をつける木の枝がせりだしていないところ。

 遠浅だと獣にねらわれる可能性があるし、枝がせりだしていないと餌が期待できない。

 だからあまりカモは着かない。

「おぉ、見事にカモがいませんねぇ」

 現場入りして第一声、マミは目を丸くした。今朝は水面を埋め尽くしていたカモが、一羽もいないのだ。

「みんなお出かけ中なのさ。こんな活発な時間帯にねらっても、まず落とすことはできないよ」

 弾の届かない高い場所を飛んでくれるからね、と付け加える。

「留守のウチに、デコイを仕掛けてしまおう」

 水辺から少し離れた場所に腰をおろした。

 デコイの底に紐を通して、重りに結束する。風や波に流されぬようにだ。それを一〇ほど用意する。

「この場所から四〇メートルくらいの場所に仕掛けてくれ」

「わかりましたぁ、親分!」

 マミは猟服を脱ぎ始めた。

 で、現れた水着は御期待どおり。半袖腿丈のワンピース、横に縞々の囚人服な水着である。

 うん、君ならばそのチョイスだろう、マミ。まったく期待を裏切らない娘だ……。

 日光で水温が上がっているとはいえ、すでに秋。それでも髪を結んで、マミは溜め池へと突入する。大量のデコイを引きずって。

 ポイントに到着したら紐の長さを調整して、あまり流されないようにする。だからといって短すぎるのもダメだ。波が出たとき、デコイが不自然に沈んでしまう。

 マミは脚の付け根まで水につかり、ときにはしゃがみこんで作業した。

 俺はその間、岩場にたき火を準備してやった。射撃ポイントから離れた場所だ。その位置ならば人がいてもたき火があっても、カモは油断するだろう。

 マミが戻ってきた。色気のない水着だったが、今は若々しい肌にぴったりと貼りついている。

 つまり豊満な胸や魅惑の腰。さらには胸や腰を強調するくびれが、俺の心に直撃した。

 ……最近、御無沙汰だからな。

 いやいや、俺もまだ若いってことか……。

 自分に言い訳をしながら心を静める。紳士的にマミをたき火に案内してやった。

 つーかこの女、自分の暴力的な肉体に気づいてねーのか? あきらかに「?」を頭の上に浮かべてやがるぞ。

 タオルで水気をぬぐい、毛布を羽織り、マミはたき火のそばに腰かけた。

「これからカモが帰ってくるまで、しばらく待機だ」

「わかりましたぁ」

「俺が合図するまで、たき火にあたっててくれ」

「いいんですか?」

「今回は獲物を、一羽一羽回収することになる。できるだけ身体を暖めて、体力の消耗を防ぐんだ」

「はぁい」

 ということで、俺は射撃ポイントへ。四方を見回しながら、時々カモ笛を吹く。

 一羽一羽回収するのには、理由がある。死骸の浮かんだ場所に、カモは着かないからだ。

 人間だってそう。死体の転がった場所には寄りつかない。当たり前の話だ。

 そんな理由で、デコイはあまり本職の猟師には好かれない。いちいち入水する労力の割に、実入りが少ないからだ。こうしたカモ撃ちの方法は、どちらかというと金持ちや貴族が好むという。金持ちや貴族は、射獲した獲物を犬に取って来させるからだ。

 もちろん俺に犬は無い。そんなもの飼っている余裕は無い。

 だからといって俺の場合は、出猟しない訳にはいかないのだ。とにかく稼げ、鉄砲代金のために。とにかく稼げ、マミを食わせるために……だからね。

 マミに合図する。はるかかなたにカモの飛影を見つけたからだ。

 身を低くして、毛布のミノムシは俺の横に並ぶ。

 デコイを指差した。

「獲物がデコイに近づいて、五〇メートルの距離に入ったら撃つ」

「コクコク」

 またカモ笛を吹く。カモは溜め池の上を一周二周。かなり離れた場所に着水。ほぼ池の中央に降りた。

 周囲をうかがっている。もしかしたら、一度ねらわれたことのある個体かもしれない。

 またカモ笛。少しずつ獲物は、デコイに寄ってくる。

 マミも食い入るようにカモを見詰めている。が、距離測定の魔法は放っていない。充分という時に、確認のために放つつもりらしい。

 が、飛ばれた。

 こちらの視線を感じとられたらしい。

 が、失敗なんて日常茶飯事。次の獲物のために気持ちを切り替える。

「あぅ……逃げられちゃいました」

「そんなこともあるさ。野生動物なんてみんな、身を守る術を心がけてンだから」

「まだ距離測定魔法も、使ってなかったのに……」

「なんの、まだまだチャンスはあるさ」

 カモ笛を取り出す。

 どこか俺たちの見えない場所に、カモは着いているかもしれないと信じて鳴き声を真似する。

 だが、この夕方で猟果はゼロ。弾をしまい込んで鉄砲をケースにしまい、太陽が山に隠れて帰路をたどり出した途端、カモは群れで帰ってきた。

 空を埋め尽くす勢いで、どこに撃っても当たるだろうという密度で、奴らは押し寄せてきた。

 マミの猟欲が戻る。魔法の準備をしていた。

 しかし俺は、マミの肩を叩く。

「帰ろう、また明日があるんだから」

 そうだ。猟師なんだからこんなこともある。焦って鉄砲を引きずり出して事故を起こすよりも、今日は笑って帰ろう。

「あのカモたちは、明日の楽しみだ。今夜は明日の稼ぎを夢枕。きっと大金稼ぐ夢が見れるぞ」

 俺の笑い声をかき消すように、溜め池のカモたちはギャーギャーと叫んでいた。

「デコイは仕込んだままだ。明日はあのポイントが間違いない」

 そういうと、ようやくマミにも笑顔が戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ