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イントロダクション

剣と魔法の支配する世界で、魔物やモンスターがいたりして。そんな世界で鉄砲という武器が最下層だったら、それってどうでしょう?


本編にはあり得ない性能の銃あるいは弾が出てくるかと思います。それでいいのかよ、というツッコミも入れたくなるかもしれませんが、それらの感情はそっと胸にしまっておいてください。


 剣も魔法もある世界、ファンベルク王国。

 だけど剣士になったり魔導師になれたりってのは、ほんのひと握りの人間だけだ。

 一〇歳の適性検査で、結構な人数が「魔法の適性が無い」って宣告される。

 学校の授業に剣が取り入れられるのも、このころで、やっぱりかなりの人数が「剣士に向いていない」と言われる。

 だけど、どっちにも適性が無いって言われるのは珍しい。まあ、そんな奴でも一生懸命勉強して、文官になるって手もあるさ。

 だけどそれさえダメな奴がいる。

 ズバリ言うと、俺がそうだ。

 俺みたいな奴は親の手伝いで仕事を覚え、一人前になって独立するしかない。

 俺、もう四〇歳。いろいろあって嫁は無し。それでも手に職があるんで、それなりに楽しくやっている。

 これは社会的地位も嫁もなく、天下国家の話なんて関係無し。気楽に過ごす俺の物語。


 季節は秋のはじまり。時刻は夕暮れ時。俺は一日の仕事を終え、本日の収穫を肩から提げて街に帰ってきた。夕飯の買い物だろうね、通りは人でにぎわっている。

 石造り、レンガ建て、木造の店が建ち並ぶ繁華街。俺は人混みをかき分けるみたいにして、ギルドまで一直線。本日の収穫、毒消しの魔法がかけられた袋がえらく邪魔くさい。ぶつかったおばちゃんに頭を下げ、不快感を顔にあらわした兄さんに謝り、ようやく木造二階建ての前にたどり着いた。

「なんとも酷いねぇ、この時間帯は」

 冒険者ギルドの入り口で、荷物を背負い直す。

 と、入り口の前でたむろしてた連中が、俺に目を向けていた。

 どう見ても冒険者。どう見ても「一般社会」から落伍した人々。安物の防具に安物の剣。古びたローブに朽ちかけた魔法道具(マジックアイテム)

 そう、魔法や剣士の適性があっても一流になれなかった連中。軍隊に馴染めなかったり、最初から規則を守れなかったり。あるいはお城で召し抱えてもらえるだけの、努力を積まなかった者の成れの果て。

 冒険者さまたちである。別名、収入不安定者。あるいはカタギから外れてしまった人々。もしくは、気の毒な方々。……って、俺もそうなんだけどね。

 俺はボロ布まがいのマントから腕を出して、ツバの広い帽子をちょいと持ち上げる。

「どうも、お疲れさん」

「あ、あぁ……お疲れ」

 五人いたけど、パーティーを組んでいるんだろうね。リーダー格も三十路突入くらいの、若いチームだ。俺に声をかけられたのが意外そうだ。ちょっと目を丸くしている。

「おやっさん、魔法使いかい?」

 一番若そうなのが、気さくに声をかけてきた。

「いや、魔法はからきしさ」

「じゃあ何だい、その長いのは?」

 魔法袋と一緒に背負った、俺の荷物を指さす。

「これか? これは鉄砲っていうんだ。はじめて見たかな?」

「へぇ……」

 若者の目が明らかに、俺を蔑む色に変わる。気にしちゃいないけど、リーダー格の男が若者をたしなめてくれた。

 そして、「済まないな、お兄さん。ウチの若いのが失礼で」と、頭をさげてくれた。

「いや、気にしなくていいよ。俺たちは剣士みたいに勇敢な接近戦もしなけりゃ、魔法使いみたいな努力もしない。遠く離れた場所から引き金を引くだけの、ロクデナシだからね」

 別に自分をさげすんで言ってる訳じゃない。鉄砲使いの身分は、いま言った理由で低いものにされている。俺に嫁が来ないのは、この職種のせいと言っていい。決して見てくれが悪いわけじゃない。わけじゃないと、俺は信じてる。

 まあ、魔法使いや剣士を目指したガキの頃は、そんな親父の仕事が嫌いだったけどさ。でも今は違う。俺が飯を食うための大切な仕事だ。他人になんと言われても気にはならない。

「その様子だと、収穫があったようだね、お兄さん」

 俺なんかに気を使ってくれてるんだな。リーダーは愛想笑いを浮かべている。

 だが、その姿勢は正しい。一度冒険に出たら最後、どんな危険が待っているかわからない。いざという時、誰が自分たちを助けてくれるかわからないのだ。

 どんな相手にも頭をさげておく。それが長生きの秘訣というものだ。

 ということで、俺も愛想よくしないとね。

「あぁ、ポイズンラビットが二羽もね。しばらく遊んでいられるよ」

 ポイズンラビット。つまり毒ウサギ。かなりの猛毒で、毒消し袋に入れてないと街中に持ち込み禁止という、劇薬そのものだ。

 これにはリーダーも青くなってドン引きだ。俺としては笑いをこらえるのが大変。

 なにしろ猛毒だから、剣士じゃ太刀打ちできない。魔法使いなんか闘いたくても、ラビットと出会うことすらできない。なかなか厄介な相手だ。

 探索の魔法があるって?

 そんなものに引っ掛かるようじゃ、ポイズンラビットも生きてはいけないさ。ポイズンラビットもちゃんと、アンチ魔法を心得ている。アンチ魔法を心得ていない個体でも、探索魔法や人間の気配を察して、さっさと逃げ出してくれやがる。

 だから山を熟知し、ラビットの生態を熟知し、なおかつ気配を完全に消せる鉄砲撃ちでなきゃ、こいつらは倒せない。

 ポイズンラビットは、冒険者たちにとって天敵とも言える存在なんだ。

「じゃあ失礼するよ。明日も早いからね」

 そう言い残して、俺は建物の中に入る。ドアを開けるときにチラッと見たけど、勇敢な冒険者たちは口をポカンと開けたままだった。

 この町は比較的小さな田舎町だ。冒険者同士面識がある。

 だけど彼らは俺を知らなかったようだし、俺も彼らを知らない。おそらく他所から来た出張組なんだろう。

 まあ、俺には関係が無い。

 建物に入ると、すぐに広いロビー。一日の仕事を終えて、報酬を受けとる冒険者たちがごった返してる。だけどそのにぎやかな連中が、俺を見るなりミュートした。身分の賎しい鉄砲使いが、毒消し袋をかついでいるんだ。そりゃ目を見張るだろう。

 だけど蔑みの視線やミュートなんぞには目もくれず、まずは検体場へ足を向ける。それも一般向けじゃなく、ドクロの立て札が立てられた窓口だ。

 でも、対応してくれる人間はいない。無人だ。

 まあ、それもいつものこと。毒系モンスターを狩るやつなんて、この町でも数が少ない。係員も手が足りずに不在、なんてのはいつものことだ。

 備え付けのベルを三回鳴らす。しばらく待って、ようやく毒使いのジイさんがあらわれた。

「よ」

「お」

 軽い挨拶を交わして、早速荷物を袋ごと渡す。

 ジイさんは毒消し魔法をかけた手袋をはめて、まずは袋に手を突っ込む。それからブツブツと呪文を唱え、コーティングの魔法をかけてからラビットを取り出した。

 青いウサギが二羽。ゴロンゴロンとカウンターに転がり出る。コーティングをかけているから、毒の影響は無い。

 ジイさんは秤でウサギの目方を計り、傷の具合を見て、それから受け取りにサインしてくれた。

 小金貨二枚、日本円で二〇万円の額がついた。

「稼いだのぅ。今夜は飲むのかい?」

 ジイさんの声はしゃがれている。

「いやぁ、しがない鉄砲撃ちなんでね。右から左さ」

「腕がいいんだ、嫁さんくらいもらったってバチは当たらんぞ?」

「考えておくよ」

 ポイズンラビットは高額で取り引きされる。なにしろ天然かつ魔力を含んだ毒だ。ついでにいえば、その毒から薬が作られるらしい。錬金術師なんかからすれば、喉から手が出るほどの代物なのだ。それが一羽小金貨一枚とは、足元を見てるのか見てないのか。

 しかし俺のような身分からすれば、ボロい話には違いない。軽い足取りで支払い窓口に向かう。

 相手をしてくれるのは、いつものお姉ちゃん。ツンと澄ましているが、嫁に行き遅れているのは有名な話だ。

 そんな気取り屋のお姉ちゃん(三十路手前)も、金貨二枚の報酬には少し驚いたようだ。珍しく「おめでとうございます」なんて言ってくれる。

 報酬を受け取ったら、あとは部屋に帰るだけ。いい年した独り者は、遊びに行くのもおっくうだ。

 と、その前に。

 掲示板を確認しておこうか。どんな仕事が入っているか? パーティーメンバーの募集はないか? チェックしておいて損は無いからね。

 ……………………。

 損でした。

 大した仕事は入っていない。山菜採りに薬草摘み。その他マジックアイテムの収集と、時間ばかりかかって実入りの少ない仕事ばかりだ。こういう仕事は初心者のためにとっておいてやるのが人の道。ベテランはとっとと帰ることにしよう。

 と思ったら。

 変な貼り紙があった。

 相方募集の貼り紙である。

 魔法が使えるらしいけど、その魔法ってのが「当方、距離が計れます」と来た。

「……土木仕事に就いた方がいいだろうに」

 思わず独り言をもらす。

 だが、そうはいかないんだろうね。なにしろ募集かけてるのは、女の子みたいだから。

「土木仕事は男の職場だからねぇ」

 仕方のない話だ。

 もっとも冒険者なんて仕事も、女性には向かないんだけどね。

 彼女もきっと俺たちのような境遇なのだろう。

 せっかく魔法の資質があったってのに、そいつが測量魔法。なんとか自分の資質を活かそうとしても、男の世界に女はいらんと門前払い。

 切ないものを見た気分になっちまった。やっぱり今夜は、少しだけ飲もう。


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