かくれんぼ
皆で登った山の上。
そこから見下ろす景色に僕は家族と笑う。
彼女も僕と、僕も彼女と一緒に笑った。
下山する方法を探す中、家族が死んだ。
憧憬を抱いて愛を囁く蛇に殺された。
家族の死に慟哭する僕の傍らで、皆がかくれんぼを始める。
僕の手が届かない所で、僕の知らない内に隠れていた。
見付けた僕の目の前で、世界を二つに割られて死ぬ者。
探す僕の心身を、極寒の雪に生き埋めにする者。
探す僕を切り刻んで、焼き殺す者。
探す僕を言葉で殺す者。
探す僕の頭の中に、スタンガンを突っ込んで殺す者。
探す僕を見透かし、殺す事にひたすら徹する者。
探す僕を殴り殺す者。
隠れなかったのは、君だけ。
かくれんぼを否定した君は、微笑みと共に隠される。
やがて僕は不条理に捕まり、終わらぬ理不尽と共に笑う。
笑う僕は、嗤う僕と嗤う蛇の笑声で、光を消す。
光を失う僕が目覚めしは、神の御前。
古巣に帰りし僕を待つのは、二本の老木。
駆け寄る僕を、老木は否定する。
縋り付く僕と、老木の繋がりは隠された。
外れた僕は、かつての光を追いかける。
追い縋る僕は、世界に拒絶された。
蜘蛛の巣に絡まる蝶々を、優しく解き放ってあげた。
帰参せし僕は、蝶々に食まれる老木を見た。
気付けば僕も、蝶々の腹の中。
蛇がいた。
蛇が囁いた。
だから僕は、蛇を呑み込んだ。
白銀は僕の心を映し出す。
白銀に映り込みし僕の心は、下面だけ。
上面は全て、蛇に食い荒らされる。
気付けば、気持ちよさそうに絶命している、僕の手の中の蝶々。
僕はそれを無感情に捨てて、輝く水晶を眺める。
乱れる光の奥に浮かぶ言葉は、過ぎ去りし過去。
過ぎ去りし過去は、もう戻れぬ光。
戻れぬ光は、理の外。
僕はその字で、無感動に震える。
眼球から零れ落ちる血涙を舐め、再び山を登ろう。
我、捨て去りしは、慈愛なり。
我、拾いしは、絶望なり。
不条理を押し付ける世界に、理不尽を押し返そう。
理不尽を振るう僕は、きっと君を見付けよう。
かくれんぼの続きは、きっと僕の勝ちだ。
だからお願い、次は僕を見付けて。
隠れていたのは――僕だった。