金剛山
凍った星の下、胸の中に溜め込んだ煙を大きく吐いた。
見慣れたあの山が、潤色に見える。
午前2時、僕の知っている町は息を消した。
ふと、僕のiphoneの音だけが響き、リュウガと懐かしい名前を映した。
「起きてる?いつもの場所で会おう。」
僕は、指先に挟んだ小さな明かりを放りバイクに跨った。
場膚場膚場膚場符
バイクの吐く息が、今日は特段陽気に聞こえる。
リュウガと会うのは、中学以来だ。
あの頃は、学校や休みの日だけじゃなく、家に帰ってもオンラインゲームを通していつも一緒だった。
2人で馬鹿をしては、顔がつかれるくらい笑って、その度怒られもしたけど、毎日が本当に楽しかった。
ゲームで知り合った東京の大学生とも2人で遊んだりもした。何も怖いものなんてなかったんだ。
中学を卒業すると、僕は地元千早赤阪村の高校に進み、リュウガは就職、そして大阪市に引っ越した。
僕達は、進む道が少し違うような、そんなことを変化とさえ思わなかった。
ただそれは少し違った。
遊ぼうにも車でさえ1時間かかる。
ゲームをしようにも僕らの時間はなかなか合わなかった。
生きる場所も時間も変わって、僕らは少しずつ疎遠になってしまった。
赤信号が僕の顔を照らす。
この道の先にいる君に今の僕はどう映るんだろうか。
10分ほどバイクを走らせ、いつもの場所に着いた。
そこには、1台の車と指先に小さな火をともした、スーツ姿がいた。
僕は、胸が重くなるような息苦しさを抱えたまま声をかけた。
「わり!待たせた!」
「きっも!死ねよ!」
間髪入れず笑顔で返ってくるその声に、子供のように声を出して笑ってしまった。
リュウガだ。あの頃のままのリュウガだ。
まるで昨日会ったばかりのような、そんな気がした。
それからあいつの車で、あの頃みたいに笑い明かした。
他人が聞いたらくだらないような話だ。
僕だってきっと、目を覚ます頃には忘れてしまうだろう。
ただただ楽しかったその空気に僕の虚無感は、溶けてなくなっていた。
「またな!」
そういって僕たちは、別れた。
上着の上から染み入る冷気が僕の一番外側を突く。
目に入る日差しが心地よく感じられた。
通りを歩く人影が少しずつ数を増している。
顔をあげると、見慣れたあの山がやわらかな白色になっていた。
僕は小さく一息ついた。
場膚場膚場膚場膚場符
「働こう。」
場膚場膚場膚場符
読んでいただきありがとうございます。
バイクの音とオチで少し遊び心出してみました。
すみません。ふざけました。
ただ、それ以外は本気で書きました。
あなたの中に少しでも何か残ってくれてたらうれしいです。