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魔法少女☾りこ  作者: 李音
SCENE2 変わってゆく世界
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変わってゆく世界3

 わたしが家に帰った時、家中が大騒ぎになていた。くるみがわたしがいないのに気づいてしまったらしい。わたしが玄関から入ると、お母さんは怒っているのか悲しんでいるのか良く分からないような凄い顔をしていた。

「りこ!!! どうしてそんな酷い怪我をしているの!!? 今まで何をしていたの!!?」

 わたしはお母さんの声を聞いて、生き残ることが出来た喜びを感じた。それから、安心して気が遠くなった。

「りこ!!?」

 お母さんが何度もわたしの名前を呼んでいるのが聞こえたけれど、その声はどんどん遠くなっていった。


 わたしが気づいたのは、病院のベッドの上だった。すぐ近くにお母さんとくるみがいて、わたしを心配そうに見守っている。

「お母さん、くるみ……」

「気が付いたのね、良かったわ。あなたが倒れた時はどうなってしまうかと思ったのだけれど、たいした傷ではないそうよ。ただ、酷く疲労しているってお医者様が言っていたわ」

「まったくもう、お姉ちゃんったら、あんまり心配させないでよね! あんな夜中に傷だらけになって帰って来るなんて、何やってたのよ?」

くるみがわたしに何があったのか聞いてきたけれど、わたしは何も言わない。言えるわけない。わたしが下を向いて黙っていると、くるみが何か言おうとした。けれど、お母さんがそれを止めて言った。

「お姉ちゃんは疲れているのよ、しばらく一人にしておいてあげましょう」お母さんには、わたしの気持ちが分かっていた。いつもそうだ。お母さんはわたしの考えていることを知っていて、いつも先回りしてわたしの望みを叶えてくれる。「それじゃあ、りこ、しばらくしたらまた来るから、ゆっくりお休みなさい」

 お母さんは、何も聞かずにくるみを連れて出て行ってくれた。今はそれがとても助かる。

 それからわたしは、窓が開いているのに気づいて、そこからずっと千切れ雲が流れるブルーハワイみたいな色の空を見ていた。そうしていると、わたしが殺した化物の事を思い出した。あれは、向日葵ちゃんだったんだ。ずっと必死で逃げていたから、そんな事も忘れていた。たとえ人殺しの化物になっていたとしても、わたしは親友をこの手で殺した。それを知ると心がとっても痛くなった。

「……友達が友達を殺して、その友達をわたしが殺した…………」

 その時、強い風が吹いてきて、わたしの恐ろしい言葉をどこかへ運んでいってしまった。


 次の日からわたしは何もなかったみたいに、学校に登校した。怪我はかすり傷だけで、本当に大したことなかった。

 登校の時には、近所の大人がついてきて、何人かで集まって登校するんだけれど、その日わたしは一人で登校した。誰とも話しをしたくなかったし、その方が楽だった。皆で集まって登校すると、そこには向日葵ちゃんと百合ちゃんがいないから、悲しくなって泣いてしまいそうだから。くるみがいたら、わたしについてきたと思うけれど、今日は風邪で学校を休んでいる。

 学校に入って、職員室の前を通りかかった。職員室には液晶テレビがある。わたしは小学校に入ってから職員室のテレビが付いているのを見たことがない。けれどこの日、初めて職員室の液晶テレビが付いるのを見た。先生たちが黙って画面を見ていた。先生たちは本当に怖いくらいに静かにテレビを見ていて、わたしが入ってきても誰も気づかなかった。

『化物だ! あれは化物だよっ!! でかい口をした犬みたいな奴に人が食われているのを見たんだ!!』

『化物とはどのような姿をしているのでしょうか?』

『説明なんかできない! とにかく化物だ!!』

 テレビの中で冷静なリポーターと、すごく怖そうな顔をしてインタビューに答えている男の人の差が凄くて何だかおかしかった。ニュースでは、関東を中心に連続殺人事件がおきていて、事件の周辺には化物の目撃情報が相次いでいると言っていた。日本中で何だか恐ろしい事が起こっているみたい。この化物たちと戦って倒すのが、きっとわたしの使命なんだと思う。神様はその為に、わたしに魔法をくれたのに違いないんだ。だけど、今のままじゃ駄目だと思う。もっともっと強くならなきゃ、あの化物を倒せない。アニメの魔法少女みたいに、変身して強くなれればいいのに。


 百合ちゃんと向日葵ちゃんが居なくなってから受ける初めての授業、わたしは普通だった。自分でも怖くなるくらい、何も感じない。色々なことがありすぎて、悲しみとか苦しみとかが麻痺しちゃったのかもしれない。クラスの皆の方が、わたしよりもずっと暗い顔をしている。そして皆が、わたしに気を使っているのも分かる。話したこともない人がいきなり挨拶してきたり、親しい友達は逆にわたしと話すのを避けていたり、きっと親友を二人同時に無くしたわたしに、何を話せばいいのか分からないんだと思う。わたしはそんなクラスメイトなんか気にしないで、先生の話も聞かないでずっと考え事をしていた。

 向日葵ちゃんは、どうしてあんな化物になってしまったんだろう……? 悪い魔女に呪いでもかけられたのかもしれない。職員室のテレビのニュースで言っていた化物も、人間が変わっているのかな? とにかく、向日葵ちゃんを化物にした何かがいるはずなんだ。そいつを倒さないと戦いは終わらない。


 お昼の給食は殆ど食べなかった、食べる気が起きなかった。それからも考え事をしていると、いつの間にか五時間目の国語の授業になっていた。担任の小泉先生は女の先生で、とっても優しい人だから、わたしの事をずっと気にしているみたいだった。わたしは気づいていたけれど、それどころじゃない。これからわたしは魔法少女としてどうしたらいいのか、そればっかり考えていた。

「小林君、どうしたの? 具合悪いのかしら?」

 先生の声で、わたしはようやく気づいた。クラスメイトの小林君が、何だかおかしい。机に突っ伏して、獣みたいに唸ってる。その普通じゃない小林君の様子は、化物になった時の向日葵ちゃんとすごく似ていた。わたしは思わず立ち上がって、近くの机で唸ってる小林君を見つめた。立った時に椅子が倒れて、みんながわたしを見る。わたしは小林君だけを見ている。

「うぐ、ぐあ、あがあぁーーーーっ!!?」

「小林君、どうしたの!? 苦しいの!? 先生と一緒に早く保健室に行きましょう!!」

「ち、違う、駄目、離れて!! 先生、小林君から離れてっ!!」わたしはとても怖くなって、声が震えていた。先生はそんなわたしを、眉毛を寄せて見ている。「先生、逃げて!! 小林君が化物になる!!!」

 わたしは必死に教えようとしたけれど、先生はまるで馬鹿でも見るような目をしている。クラスメイトも同じだった。誰もわたしの言うことなんて信じてくれない。

「ウガアアァァァーーーーーーッ!!?」

 小林君が机に両手を付いて、ライオンの十倍くらい凄い声を出して顔を上げた。小林君の顔が化物に変わっていく。向日葵ちゃんのときとは少し違っている。顎と口が前に突き出して、人の歯が抜けて、その後から鋭い牙が沢山生えてくる。その顔は犬や狼に少しだけ似てるけれど、それよりももっともっと恐ろしい姿をしている。体も大きくなって、服とズボンが張り裂けた。先生は変わり果てた小林君の前で、口を開けたまま呆然としていた。わたしは、もうどうしたらいいのか分からない。

「グルアァーーーーッ!!」

 化物になった小林君は、先生の腕を持って噛み付いた。

「キャぁーーーーっ!!? い、痛い、やめてぇーーーーっ!!!」

 先生が泣きながらお願いしても、小林君はやめてなんてくれない。小林君の牙が先生の腕に食い込んでいく。そして、先生の腕は食いちぎられてしまった。先生は口では言えないくらい凄い悲鳴をあげながら倒れた。その時に、先生の腕がなくなったところから凄い量の血が飛び散って、クラスメイトの上に血が雨みたいに降ってきた。それから教室はとてつもない騒ぎになった。その中で化物になった小林君は、先生から取った腕をバリバリと旨い棒みたいに食べていた。クラスの何人かはすぐに教室から逃げたけれど、殆どは泣いたり震えたりしながら教室に残っている。みんな怖すぎて、どうしていいのか分からないみたいだった。

「みんな、早く逃げて!!」

 わたしが叫ぶと、金縛りが解けたみたいに、みんな一斉に教室から逃げ出した。でも教室の端っこの方に、どうしてか残っているクラスメイトがいる。

「よしえちゃん、何してるの!! 早く逃げようよ!!」

「うぐ、ぐげえぇーーーーっ!!?」

「よ、よしえちゃん!!?」

 クラスメイトのよしえちゃんが、親友のなっちゃんの前で化物に変わろうとしていた。わたしはなっちゃんの手を無理やり引っ張った。

「なっちゃん! よしえちゃんも化物になるよ! 早く逃げるんだよ!」

 なっちゃんは、すぐによしえちゃんから顔を背けて、わたしと一緒に走り出した。でも、教室を出る時に、わたしを呼ぶ声があった。

「まって、お願い助けて……」

 先生が血塗れで床に倒れていた。わたしはなっちゃんに先に逃げるように言ってから、先生を助けようとした。けれど、遅かった。先生の腕を食べ終わった中村君が、椅子や机を吹き飛ばしながら犬みたいな格好で走ってきて、先生のお腹に噛み付いて、先生を口だけで高く持ち上げてしまった。

「ギイャアァーーーーーッ!!!」

 先生は、聞いてるわたしも痛みを感じてしまいそうな叫び声をあげながら、血の泡を吹いていた。そこに化物になったよしえちゃんも近づいてくる。わたしは食べられようとする先生を見ないようにして、走って教室から離れた。教室の方から物凄い先生の叫び声が聞こえたけれど、わたしは耳をふさいで出来るだけそれを聞かないようにした。


 学校の校庭に出ると、わたしは信じられないものを見た。化物が何匹もいて、逃げ惑う人間を次々に襲っていた。

「化物が、沢山……。何で、何でこんな事になってるの? あれ、みんな人間がなったの?」向日葵ちゃんも、あとさっきもクラスメイトが二人も化物になるのを見ている。人間が、次々に化物になって人間を襲っているんだ。こんな映画の中みたいな事が現実に起こってる。もっと楽しい事だったら良かったのに、現実になんて絶対になっちゃいけないこんな怖いことが、目の前で起こってる。「いくら魔法が使えても、こんなの無理だよ……」

 わたしは、自分の力の無さに泣きたくなった。化け物は校庭に5、6匹いる。一匹倒すのにも死ぬような思いをしたし、どうやって倒したのかも殆ど覚えてない。あの時はきっと運が良かったんだ。そんなんじゃ、学校に出てきた化物達を倒すことなんてとても無理だ。

 わたしは逃げないで昇降口にずっと立っていた。そうすると、すぐ目の前で化物に、わたしよりもずっと年下の女の子が追いかけられていた。女の子は泣いて助けを求めている。わたしが助けなきゃと思って走り出した時、スコップを持った男の先生が走ってきて、化物の頭を叩いた。

「うおぉっ!! この化物が!!」

 化け物は女の子を追うのを止めて、先生の方に振り向いた。そのおかげで女の子は無事に逃げられたけれど、代わりに先生が襲われた。

「ウシャーーーッ!!!」

 化け物は手の長い爪を先生の胸に突き刺した。

「ぐはあぁぁっ!!?」

 先生は血を吐いている。わたしは先生から目が離せなかった。怖いのに、見てしまう。それはまるで、映画でもみているみたいな不思議な感覚、体もふわふわ浮いているみたいに感じる。これが現実だなんて、どうしても信じられない。

 化け物は、もう片方の手で先生の足を持って、骨付きのもも肉でも食べるみたいに、先生のお腹の横の方にかぶりついていた。その時に先生があげた悲鳴は、人間とは思えないようなすごい声だ。それは痛みだけで作った声だ。化け物は先生のお腹を引き千切った。その瞬間に先生がだした悲鳴で、わたしは全身が震えてその場に座り込む。それでもわたしはまだ食べられてしまった先生を見ていた。破れたお腹から、長くて気持ちの悪い内臓が飛び出して垂れ下がっていた。先生は目を開けたまま舌を出して、動かなくなっていた。わたしはただぼうっとして、食べられる先生を見ていた。座っていると、昇降口のタイルの冷たさを肌に感じる。やっぱりこれは現実なんだ。現実だったら、逃げなきゃ化物に食べられる。

「助けてーっ!!!」

 誰かが助けを求めている。それも、聞いたことがある声だ。だからわたしは、先生から目を背けて立ち上がる。声のした方を見ると、さっき一緒に逃げたなっちゃんが化物に追いかけられていた。

「助けなきゃ」

 わたしは本当に怖くて、足もまだ震えている。でも、全員は無理でも一人くらいは助けたい。わたしは魔法少女なんだ。魔法で誰かの為に戦う、それがわたしが魔法少女になってやりたかった事なんだから。

 わたしはなっちゃんと化物を追いかけて、校庭の真ん中の方まで走った。そして、化物に向かって手の平を向ける。

「当たって!」

 わたしの手から出た光線は、まっすぐに化物の背中に当たった。

「グアアァッ!!」

 わたしの魔法で化物の背中に穴が開いて、そこから血が噴出した。わたしは自分の魔法の威力にびっくりして、少し怖くなる。化け物はこっちに振り向いて、口から血を垂らしながらにらんでくる。それだけじゃない、校庭にいた化物たちが、一斉にわたしの事を見た。街中でスーパーアイドルに気づいたファンみたいに、すごい敏感な反応。

「な、なんで? どうしてみんなこっち見るの……?」

 お願いだから、それだけは止めてほしい。わたしが心の底から思った事が、当たり前のように始まってしまう。化物たちが、みんなわたしに向かって走り出す、雄叫びをあげながら、凄い速さで。

「や、やだやだ! こっちこないで!」どっちを見ても、化物がいる。円が小さくなっていくみたいに、わたしの周りに化物達がせまってくる。「いやーーーっ、助けて!! 死にたくないよう!!」

 わたしは死ぬ、ここで死ぬ、頭の中が滅茶苦茶でそれしか考えられない。けれどわたしは、食べられる寸前に空を飛べることを思い出して、何も考えずに真上に飛んだ。そうしたら、わたしの靴の下で何匹もの化物同士が物凄い勢いでぶつかって、バラバラに倒れた。中には腕とか首が変な方向に曲がっちゃってるのもいる。化物達は目を回しているみたいで、倒れたまま唸っている。わたしは空へ飛んで逃げた。学校がどうなってしまうのか気になるけれど、どうにもならない。だからわたしは、みんなの無事を祈りながら、家に向かった。妹とお父さんとお母さんが気になる。


 わたしは化物が空を飛んで襲ってきたのを思い出して、すぐに道路に下りて、そこから走った。そうすると、すぐそこで今まで見たこと無いような事が起こっていた。いつもは車なんて少ししか走っていない四車線の道路が、車でいっぱいになっていた。その辺でクラクションの音がいっぱい鳴っていて、車に乗っている人たちの顔が凄く怖い。

「なにこれ……?」

 何でこんな事になっているのか、全然意味が分からない。でも、ぎゅうぎゅうになった車の列の中に立つ黒くて恐ろしい奴がいて、この渋滞の意味が分かった。みんな逃げようとしているんだ。だけど、こんなじゃ逃げられない、歩いた方が早いよ。

「うああぁぁっ、助けてくれぇっ!!!」

 わたしは悲鳴にびっくりして見ると、沢山の車の中を歩いてきた化物が、車のガラスを割って手を突っ込んで、大根でも引っこ抜くみたいに人間を引っ張り出している。それから大きな口を開いてその人の頭からかぶりつこうとしたところで、わたしは目をそらした。そうすると、すぐ近くにある車の中が見えた。恋人同士みたいで、心配そうな女の人の隣で、男の人がイライラしているみたいでハンドルを叩いている。そうしたら、女の人の方が急に震えて頭をすごく振ったりし始めた。男の人の方が女の人を押さえつけて落ち着かせようとしているけれど、女の人の体と口が急に大きくなって、驚いている男の人の首と胸の辺りに噛み付いた。そのまま化物になった女の人は物凄い勢いで首を振って、そのたびに男の人のがガラスやハンドルに叩きつけられて、物凄い量の血が飛び散って、すぐに車の中が真っ赤になっちゃった。その後ろの車に乗っていた人は、慌てて車から飛び出して、悲鳴をあげながら逃げた。

「わ、わたしも逃げなきゃ……」このままじゃ化物に食べられちゃう。わたしは震える足で歩き出した。そうしたら今度は、すぐ近くの細い道から、猛スピードの車がやってきて、大通りの車にぶつかって爆発した。これはもう、わたしが知っている世界じゃない。「何なのこれ! おかしいよ! こんなの絶対おかしいよ! 夢なら早く覚めてよっ!!」

 わたしは滅茶苦茶になりながら、何もかも見ないようにして、家に向かって走った。ふと目を上げたその時に、世界が元に戻っている事を少しだけ期待していた。けれど、本当はそんな事期待しても無駄だって分かってた。


変わってゆく世界……終わり


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