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「私の名前はサヤ。旅人です」


「俺の名前はモルゲイン。しがない木こりだ」


 お互いに自己紹介をして、お互いに相手の警戒心を解こうとする。サヤは苦笑いを浮かべながらやっぱり警戒しますよねとつぶやいた。それに対してお互い様だと返し食器を片付けるために立ち上がる。その時に机の上に出ていた彼女の左腕、壁に立てかけている大剣の方の腕がわずかに動いたのを見逃さなかった。どうやら警戒は少しも解けていないようだ。

 食器を洗いながらサヤのことを考える。服装、様子からして、どうやらまともな旅は出来ていないようで、むしろ様々な苦労が見て取れる。手に残っている切り傷や服の下に見える青い痣。荷物も持っていないようだ。それに、サヤの容姿はずば抜けている。少なくとも麓の街にはサヤほどに美しい人はいない。つまりそれは、女性の旅人にしかない苦労があるわけで……。

 思考が下卑た方に向いてきたので頭を振って仕切り直す。丁度食器も片付け終わったので台所にぶら下げていた干した果物を手に居間に戻る。 

 お腹が一杯になって落ち着いたのかサヤの雰囲気はだいぶ落ち着いたものになっていた。そして、その目は眠そうに幾度も瞬きを繰り返している。自分の椅子に座り直して干した果物を一切れサヤに渡す。サヤは小さく感謝の言葉を口にした。お互いに言葉がない静かな時間が流れる。色々と興味は尽きないし話しかけたいのだが、相手は女である。気が引ける。そのうちサヤの目がまた眠そうに瞬きを繰り返すようになる。言い出しづらいが、寝床まで案内しなければいけないか?

 それにしても、とサヤの傍らに置かれた剣を見る。天井の明かりを鈍く反射する大剣は、サヤが持つにはあまりに大きすぎる。そして食事中に見えたサヤの腕は、とてもではないが鍛えているようには見えない。彼女の武器ではないのだろうか?だとすればどこかの誰かのものなのだろうか?

 

「この剣が気になりますか?」


 不意に話しかけられて体がびくりとする。別になにもやましいことはしていないはずなのだが、女性からの詰問するような声には慣れない。ゆっくりと視線をサヤの方へ向けると、彼女は今まで眠たそうにしていたとは思えないほどにはっきりとした顔でこちらを見つめている。雰囲気も固く張った糸のような緊張感を纏っている。

 

「……ああ。君が持つにはあまりにも不釣り合いだと思ってな」

 

 できる限り動揺は隠したつもりだったが、声は少し震えてしまった。そんな様子を見てサヤは僅かに微笑する。

 

「別に気にしてはいませんよ。ただ、あんまりにも見つめていらっしゃったものですから」

 

「すまない」


「謝らないでください」


 そこでサヤは不意に俯いた。さらりと流れた髪が、テーブルに触れる。何が言いたいのか?訝しげに感じながら言葉を待つ。


「……試してみたくはありませんか?」


 一瞬わからず首を傾げ、すぐに理解する。


「その剣を持てるかどうかってことか?」


「はい」


「……明日にしておくよ。もう眠いだろう」


「……そうですね。今日はもう寝ましょうか」


「寝床を案内する。こっちだ」


 サヤは大剣を片手で持つと後をついてくる。その様子からは、重さを感じさせない。彼女は何者なのだろうか?疑問は絶えない。

 提供する部屋に向かう途中でトイレの場所やお風呂の場所を教える。サヤはお風呂の単語を聞いた途端、小躍りしそうなほどに喜んでいた。聞くともう一週間近くもお風呂に入っていないらしい。そんな臭いや清潔感の無さは感じさせないが……。まぁ女だし男とは違うのだろうと納得する。


「それじゃ、何かあったら下に降りてきてくれ」


「まだ寝られないのですか?」


「あぁ。そんなに遅くはならないんだがな」


「わかりました」


 最後に明日の朝は好きな時間に起きてくれと伝える。サヤは頷くと部屋に入った。ガチャリと内鍵がかけられる。それを見届け下に降り、秘蔵の酒を持ち出す。この辺りでは滅多に手に入らない酒である。余所者にくれてやるほど甘い考えは持ち合わせていないのだ。

 つまみの干した果物はさっき食べてしまったのでなにもないのが寂しいが、まぁ贅沢はいってられない。器に並々と注ぎこうしてお酒を飲めることに感謝しながら口をつける。一口飲む度に背筋がゾクリとする。その感覚を楽しみながら晩酌をしていると、再びコンコンと扉が叩かれた。明かりはまだつけたままである。仕方なしに扉を開く。

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