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赤い月  作者: 夕凪
序章
3/3

夕月紅

結局緊急会合では何も成果は得られなかった。


会合の中で家来の一人が提案した"末期養子"とは、武家の当主で嗣子のない者が事故・急病などで死に瀕した場合に、家の断絶を防ぐために緊急に縁組される養子のことである。これは一種の緊急避難措置であり、当主が危篤状態から回復した場合などにはその縁組を当主が取り消すことも可能であった。

しかし、夕月家には嗣子(嫡女)もいる上にそもそも当主が存命しているため制度が使用できないのである。無論当主の意向があれば養子の措置もとれるが、現在の状況下ではおそらくその望みは見込めないだろう。


__________________________________________________


当主夕月啾の「跡継ぎはいない」発言の翌日、紅は自室に籠り考え耽っていた。

順当にいけば跡継ぎは一人娘の自分であるはずだったが、父はそれを拒んだ。なぜだろうか。

真意がわからない。父の考えや心情が全く持って読めない。紅は混乱していた。

いつもそうだった、幾度となく悩み抜いたところで結局父の考えていることはよくわからないのだ。

幼少の頃から天才だと持て囃されてきたが、実の親のことすらわかりもしないで何が天才だと、無性に己を責め立てたい気持ちに駆られた。

物心がついた時からずっと自分は夕月家の一員であり、父の後を継いで後世まで夕月家を繁栄させていくのが使命だと信じて疑わなかった。それが今やどうだ。跡継ぎはいないと言われてしまったではないか。


「この家を継ぐ者は誰もおらん」 


昨夜の言葉が脳裏にこびりついて離れない。何故私では駄目なのですか、そう叫びたい思いを無理やりに押さえつけた。

家来たちの前では平然を装っていたが、一人になると胸が苦しくてたまらなくなる。

武道も水泳も流鏑馬も剣術も学業も全て、全て夕月家のために努力してきたことだった。


"彼女の才能はすごい""夕月の血はやはり優秀なのであろうな" 

そういった言葉も数多く耳にしてきた。でも違う。才能なんかではない、努力だ。

……この家のために私はずっと努力してきたんだ。




その日紅は産声を上げた時以来初めて涙を流した。

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