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五話 一変

 (かしら)は生臭い匂いに眉をしかめ、瞼を押し上げた。

 そして、うつろな干した魚と目が合った。空虚なというにはあまりにも、死んだ目と。度肝を抜かれる一方で、妙に納得していた。干し物といってもまだ生乾きで、変に生臭い匂いがするのだ。

 

 問題はなぜここに干した魚があるかだ。

 頭は体を起こしながら、周りを確認した。軽い寝息が聞え、頭はそちらに視線を動かす。そこには、頭のベッドで気持ちよさそうに寝ている人質の王女の姿があった。


「……」


 頭は完全に沈黙した。

 どうしてとか、なぜという疑問の前に。


「王女のくせに図々しいな。いったいどんな神経をしているんだ……」


 正直すぎる感想が口から飛び出した。このまま寝かせてやりたい気もするが、このままにしておく訳にもいかない。仕方なく頭は近づき、ベッドを思いっきり蹴飛ばした。そう仕方なく、だ。

 少し強く蹴り過ぎたか。ベッドが大きく揺れた。勿論王女は飛び起きた。きょろきょろと周りを見渡して、その瞳が頭をとられた。


「……おはようございます」


ぼんやりとして言った彼女を、頭は容赦なく一喝した。

「今すぐ出で行け!」


 王女は弾かれたように部屋を飛び出していく。頭はその後ろ姿を見て、椅子に深く腰掛けた。

 頭は静かになった部屋に安堵し、それからふいに漂ってきた魚の生臭い匂いに顔をしかめた。





「よっ、姫さん。また何かやらかしたのか?」


 海賊の一人にそうからかわれて、私は曖昧に頷いた。

 何度も思うのだが、私は人質だ。そして私を拉致したのはこの海賊たちのはずだ。そのことをこの人たちは、きちんと理解しているのだろうか。

 その時はまだ、そんな楽天的なことを考えていた。


 賑やかな、騒々しい食事が始まった。

 海賊たちは、山盛りに盛られた皿を取り合っていた。海賊たちが食べている隅っこで、私は私専用に取り分けられた食事を口に運ぶ。これはサミュエルの気遣いだ。

 

 海賊たちが胃に食事を詰め終わった頃、頭が突如、立ち上がった。その目がいつも以上に輝いているのは気のせいか。


「お前らに、いい報告がある」


 よく通るその声を聞くと、騒がしかった海賊たちが静かにあった。一瞬で海賊たちをまとめる姿は頭領そのものだった。まあ、実際そうなのだが。


「人質の貰い手が決まった」


 まるで、何かに頭を強く殴られたような気がした。

 貰い手、か。

 頭に、必要以上の悪意はない。だからこそ、痛い。

 海賊たちも頭の言葉に戸惑っているらしい。ざわざわと騒ぎ始めた。何人かは私の方を気遣うように盗み見ている。


「ある貴族が、金を出すから王女を返せと言ってきた」

 

 血の気が引くとはこのことだろう。体中の血が一気に冷めた。私の中で、自分を糾弾する声がする。分かっていたはずだ、と。だから心を許すべきではなかった、と。

 

 そうだ。分かっている。私は人質で、彼らにとっては金蔓以外の何者でもないと分かっているはずだった。分かっていたはずだった。


「久々に皆に贅沢をさせてやれる」


 心底嬉しそうに、頭は言った。

 私は血が滲むくらい唇を噛んで俯く。今私は見っとも無い顔をしているだろう。そんな顔を他人に見られるのは耐えがたかった。それでも周りの視線に耐え切れなくなって、立ち上がってしまった。

 頭を含め、全員の視線が私に集まった。頭がじっと私を見ているのが分かった。それでも頭の顔を見ることは出来なかった。顔を見せることも出来なかった。


「すみません。体調が悪いので、部屋に戻ります」


 自分でも驚くほど平坦な声が出た。私はそれだけ言って、扉に向かう。

 分かっていた。分かっていたはずだったのに。

 どうして何か大切なものが出来ると期待してしまったんだろう。

 そう思った途端、不覚にも涙が出そうになった。

 慌てて顔を引き締め、扉に手を掛ける。開いた扉の隙間から、冷たい風が私を迎えた。

 

 私を引き止めようとする者は誰もいなかった。

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