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三話 人質

 甲板に出た私を迎えたのは黒い船――海賊船だった。

 それを見た私の頭からは、船室に残してきた侍女たちのことは綺麗に吹き飛んでしまった。

 

 大きい。そして黒い。船そのものの側面は勿論、マストさえ真っ黒に染めてある。海賊船といえば髑髏のマークだが、この海賊船にはないようだった。

 黒い船を背景に数十人の海賊の姿があった。暗すぎて性格な人数は分からないが、三十人は超えないだろう。宵闇にまぎれるためだろうか、海賊たちは同じようなく黒い服を着ていた。その中で特にいい服を着ている人間がいる。――船室まで来たあの男だ。


 彼は船室と同様にじっと私を見ていた。帽子と黒い髪は夜にまぎれているのに、目だけが異常なほど輝いている。そこで私は妙なことに気づいた。他の海賊たちはそう上質とはいえないが、長持ちのする布の服を着ている。腰にある刀もさび付いているような者もいる。そのなかで私をつれだした男だけが上質な服を着て、磨かれた刀を持っている。


 この意味が分からないほど私は馬鹿ではない。


私を見て何を思ったのか、男は眼光を柔らかくする事もなく言った。


「俺がこの海賊の頭領だ。お前には今からこちらの船に乗ってもらう」


 その時私の頭の中を占めていたのは、軽い驚きだけだった。

 (かしら)か、この男が。


「獲物は手に入った。退くぞ!」


(かしら)の言葉で海賊たちが一斉に動きだす。身軽に次々と海賊船へと飛び乗っていく。私はそれを曲芸か何かのように、ただ見ていた。


「早く乗れ」


 頭が腰にさしたままの刀で私の背をつついた。

 言われなくても分かっている。

 先に乗り移った海賊の何人かが、親切にも手を伸ばしてくれている。私はあえてその手を無視して黒い船に飛び移った。船と船がぶつかっていてよかった。でなかったら、私には難しい距離になっていただろう。見事に黒い甲板に着地した私に、パラパラとまばらな拍手が起こる。


「出せ」


 私の後から飛び移ってきた頭は短くそう言った。それだけで数人が散らばり、船がゆっくりと動き出した。本来なら船と船が離れる時も擦れるような嫌な音がするものらしいが、振動さえほとんどなかった。どうやら彼らの船を扱う技術は相当なものらしい。

 私はまだ彼らの名前を知らない。後学のために訊いていてみたい気がしたが、海賊たちは忙しそうに走り回っている。その中で暇そうにしているのは、頭ぐらいで。


「すみません」

「……」


 私が恐る恐る声を掛けると、返ってきたのは鋭い眼差しだった。少しどころか尋常にないくらい怖い。それでその時は好奇心の方が勝った。


「あの、あなたたちの名前……」

「俺たちに名前はない」


 言い終わる前に遮られた。少し腹が立ったが、ここで何か言ったら殺されそうだ。名前のない海賊なんて聞いたこともない。


「私の名前はアニルロッダ・ウィルスン。どうぞよろしくお願いします」

 

 私は丁寧に名乗った。自分を拉致した本人に「よろしく」は厭味に聞えるかとも思ったが、私は最低限の礼儀を尽くしたつもりだった。だが、


「……そうか」

 

 返ってきたのはそんな言葉だった。

 相手が名乗ったら、自分も名乗るものだろう。私は頭の礼儀を欠いた態度に、腹が立った。私が育ったのは、礼儀を大切にする王宮だ。そのせいか私の周りにいる大人は礼儀を大切にする人ばかりだった。

 気づけば私は頭の正面に回りこみ、彼の顔を睨みつけていた。


「こちらも名乗ったのだから、そちらも名乗ったらどうですか」


 はたと我に返った時にはもう遅い。近くにいた海賊たちと頭がじーと私を見ていた。

 私はあたふたと慌てた。忘れてしまっていたが、今の私はただの人質で何の権限も持っていなかった。

 (かしら)は慌てる私を一瞥し、先刻と同じ様に冷えた声を出す。


「人質に名乗る名はない。人質は人質らしく、黙って従っていればいい」

「遠慮します」

 

 言い返してしまった後で、しまったと思ったが後の祭りだ。(かしら)の目つきがますます悪くなる。人質が口答えしたのが御気に召さなかったようだ。

 こうなったら、後は勢いだった。


「人質は大人しくしていろと言ったのが、聞えなかったのか」

「残念ながら、聞えませんでした」


頭の目が通常以上に細くなる。目力だけで人を射殺せるのではないだろうか。

私も気力を総動員して、頭を睨みつける。

 にらみ合う二人の間を割るようにして海賊たちが割り込んできた。私ははっとして身を引いた。だが、海賊たちが食ってかかったのは(かしら)の方だった。


「ひどいですよう。頭は目つきがよくないんですから、そんなに睨むと泣いちゃいますよ?」

「そうです。もう少し自覚してください」

「泣いた女ってのは、もう面倒で……」


 口々にわめく海賊たちに、頭は鬱陶しいそうに手を振る。

「うるさい。黙れ。わめくな。持ち場に戻れ」

 にべも無くあしらわれた海賊たちは不満そうにしながらも、持ち場に戻って行った。ただ一人を除いては。


「サミュエル、お前もどっか行け」

「嫌だなあ、僕の持ち場は調理場だよ? 今から食事の準備でもすんの?」

 

 頭は忌々しげに眉を歪め、舌を打った。

 一方サミュエルと呼ばれた男は、上機嫌に笑い、私の方を向いて朗らかに笑った。


「こんにちは、王女様。ようこそ、この海賊船へ。僕はこの船の料理全般を担っている。気軽にサミュエルって呼んで」

 

 気軽に呼べというのか、自分を拉致した当事者たちを? それはあまりにも、無茶苦茶ではないか。

何だろう? 想像していた海賊と違った。私が考えていた海賊は、もっと欲にあふれ、血みどろの争いをしていた。

 私が考える海賊というのはそういうモノで、私はそれ以外の海賊を知らなかった。

 私が軽い現実逃避をしている間にもサミュエルは言葉を続けていた。


「この子の名前どうするの(かしら)? 本名は長いよね」

「お前に頭と呼ばれるとむかつくのはどうしてだろうな」

「後ろめたいことがあるからじゃない?」

 

 頭が苦々しげに呟いた言葉をサミュエルは軽く流して、ねえどうすると「頭」に追い討ちを掛けた。そんなサミュエルに諦めたようにため息をついた。


「適当に、アニーとでも呼べばいいだろう」

 

アニーというのは私の愛称だ。人質を愛称で呼ぶつもりなのか、この人たちは。


「いいね。さすがは頭だ」

センスが光ってる。そう評された頭はうれしくなさそうだった。そんなことをサミュエルは笑顔で私を振り返った。笑顔が眩しすぎる。

  

「今から君はアニーだ。よろしく、アニー」

「私にはアニルロッダという立派な名があるのですが」


 当然のように私の主張は無視された。

 落ち着け、落ち着け。こんな事で腹を立てていたら、この船ではやっていけないだろうことは早々に分かっている。さっきの二の舞いはごめんだ。それに怒りで頭の血管が切れて死亡なんて笑えない。


「サミュエル。こいつを部屋につれて行け」


 そう頭はサミュエルに命令した後、船内に入ろうとして、ふと足を止めた。振り返った。その目は私に焦点をあてていた。


「まだ何か?」


 露骨に顔をしかめた私を見て、彼も顔をしかめた。


「人質だろうが、ただ飯を食わせるつもりはない。お前も飯が食いたかったら、働け」


 それだけ言うと、今度は本当に船内に入ってしまった。


「最初に言ったことと、矛盾してますが……」

 

 彼は初め、人質らしくしていろといったはずだ。それとも海賊の世界では、人質は自分のご飯のために働くのか。というかそもそも私は、望んでここにいるわけではないのに。

 

 理不尽だ。

 こうして私の人質生活は本人の意思に関わらず、幕を上げた。


三話、長い!

自分でも思ってもないほど長くなってしまいました。

読みづらくて、ごめんなさい。

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