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一話 襲撃

 私は、政略という言葉が嫌いだ。

 それは誰も彼もがその言葉を逃げ道にしていたから。国にとっての政略ならば許せる。しかし、利己的な政略なら従わない。

 そう決めていた。

 

 珍しく呼び出された謁見の間にて、私は隣国へ嫁ぐことが決まったのだと知らされる。

 私の意思なんて、そこには微塵もなかった。だけど、それが国のためなら。

 私はその場で、首を縦に振った。




 船が襲われた時、私は隣国へ嫁ぐ花嫁として王女付きの侍女たちと船室にいた。激しい衝撃が船中をめぐる中、賊に襲われたのだと航海について無知な私でも分かった。

 

 海の上での賊といえば、海賊しかいない。船の揺れが収まった後、私の頭の上で平常時には聞けないような慌しい足音が続く。


 私の傍にいた五人の侍女は、すぐに王女である私を守るように取り囲んだ。

 よく訓練されている。近頃の王女付きの侍女にはこんなことも求められるのか。私は人事のようにそう思った。集まってきた侍女たちは顔色ひとつ変えず、じっと扉の方を警戒している。


 その時、外側から扉が蹴飛ばされた。


 きっと扉の金具が曲がってしまっただろう。私は場違いなことを考えながら、美しい装飾がされた扉の残骸を眺めて、それから扉を壊した張本人に視線を向ける。


 壊された扉の向こうに立っていたのは、長身の男だった。黒い服で身を包み、帽子を深くかぶり顔は隠れていた。着ている服は上質の絹だったが、どう見てもその男は貴族に見えなかった。なにせその男の腰には無骨な刀が居座っていたのだから。


「おい」


 男が少しだけ顔を上げたせいで、その鋭い目が見えた。男はなかなか次の言葉を発しなかった。まるで何かを見定めるように、そのあまり目つきのよろしくない瞳で私をじろじろと見ていた。


「姫様」


 声を掛けてくれたのは、私の右隣に立っていた侍女だった。はっと我に返ると自分の体が僅かに震えていた。

 怖いのか。そう思うものの、その感情自体がどこか現実味に欠けていた。私は自分がいったい何に恐怖を抱いているのか、分からなかった。

 

 目の前にいる男の扉を金具ごと吹き飛ばすという芸当か、海賊に襲われたという今のこの状況か、はたまたたった一人でここに立っているこの男自身か。

 ただとにかく、怖かったのだろう。体の芯の方が震えて、目の前にいる男を直視出来なかった。


「王女というのはお前か」


 落ち着きを払った声がひどく耳に障った。


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