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序章

 

 その日は気持ちがいいほど晴れていた。城の中で唯一街を見渡せる場所から王女は商家の花嫁姿をぼんやりと眺めていた。好いた男と結婚した娘は王女と同じくらいの年頃であるだろうに、ひどく遠い存在に見えた。


「あの話はなかったことになったよ」

「お父様」


 振り返れば父親でもあり、この国の最高権力者が穏やかな笑みを浮かべて立っていた。

「申し訳ありません、お父様のお手を煩わせることになってしまって」

「いや、もとはといえば私の注意不足だ。王子たち二人に好き勝手させていたからな」


 公爵の子息とは会ったのか。

 王女は首を横に振る。

 眼下の花嫁が男の手をとり、馬車に乗り込んでいく。きっとこれから親戚の家に挨拶回りにいくのだろう。ちらりの見えた横顔は幸せそうな笑みであふれていた。国王は王女が見ている風景に気付き、困ったように眉を寄せた。


「アニー、あの子が羨ましいか」

 

 幸せそうな結婚。好いた人と一緒になれること。羨ましくないはずがない。だけどそれは王族が望んではいけない。

 

 「いいえ。そんなことありません。それよりそろそろ会議の時間では」

 国王は王女に急かされて渋々立ち去る。王女は国王に付き添わず、まだ花嫁の乗った馬車を見ていた。

 王はその姿に何か言いかけ、しかし何も言わずに踵を返した。



 


 それから一ヶ月後のこと。王女は久々に(おおやけ)の場に呼ばれていた。

 何を考えているのか分からない貴族の重鎮(じゅうちん)。不服そうな顔をした兄達。そしていつもどおりの国王。

 久しく感じていなかった政独特の雰囲気に、無意識に体に力が入る。


「前々から言ってあった王女の結婚のことだ」

 父ではなく国王としての声が王女に降ってくる。

「お前を隣国の第二皇子に嫁がせることに決まった」


 国王の表情の裏で父親としての顔が悲しげにゆがんでいる。その一方で王女は安堵の息を漏らした。

 これは国のための婚姻だ。それなら頷ける。深く頭を垂れながらはっきりとした声で言う。


「はい。謹んでお受けいたします」


顔は上げられない。けれど、このとき王女は本心から安堵していた。


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