勇者のかわりに
「よくきたな! 勇者よ!」
「……」
夜だった。
雲が満月を隠して今も闇は濃くなっていく。
「まずはここまで一人でこれたことを誉めてやろう!」
「……」
遠くのはずの波音が、風と重なって近くのように聞こえてくる。風がしめった海の匂いを運んでくる。微かに花の香りが鼻腔を掠った。
「勇者! 貴様、満月の日に来るとは……な」
「……」
すす、と完全に満月が消え足元の影が闇とついに同化した。
「魔族が満月の日に覚醒すると知らないのか?」
魔王はからかうように紅い唇の端で笑う。
「いいえ」
私は囁いた。口に出して言ってみると、それが自分の本音ではないと思い出した。
「そうか、神殿の奴らからはなにも教えてもらえなかったのか!」
魔王は笑みを見せる。神殿の奴らからはなにもきいたことがなかった。彼のこと以外――
「はい」
私はその表情に寂しげな気配を感じ、一瞬魔王に視線を合わせてしまった。
「はっ! 今回の勇者は出来そこないなんだな!」
荒れた闇の中、私の胸にちくりと、いや、大きな風穴が開いてしまった。
『ちがう!』
その思いが全身を駆け巡り、熱くなっていく。ちがう、ちがう。ちがう!
「勇者は、勇者はっ! 勇者は!」
彼の呼称を言うたびに、私のぼやけた視界、ぼんやりとした思考が鮮明になっていく。魔王の言葉の否定の思いが強く、本来の目的から遠ざかっていく。ぶれる。風が冷たくなる。潮風の匂いが鮮明になっていく。
魔王がなにか喋っている。なにをいっているのかわからない。手に短剣の柄が触れる。
「出来損ないなんかじゃないっ!」
私は短剣の柄を握りしめると、庭の花を踏み散らした。
「こい! エイルの仇は私がとってやる!」
魔王はにやりと笑って、両腕を広げ、大きな声で言った。
*
千切れ、魔王は宙を舞った。ゆっくりと魔王の顔から表情が消えていく。私の周りから、さらさらと小さな光の粒が空へと流れていく。
月は隠れたまま、波が風に揺られている。暗闇には目がとっくに慣れていた。悲鳴を上げる体を無視して立ち上がる。魔族の肩が微かに動いている。まだ息があるようだ。私は魔王を仰向けにした。唇が紅く、弱い少女だった。
「なんだよ、留めはささないのか? 勇者」
「はい、いいえ」
「それはどっちだ」
少女は舌打ちした。
「留めはささないのか? の問いに肯定。 勇者の呼称に否定」
私が答えると、悔しそうに言う。
「は? なんだ、それ! 私は勇者じゃなくて、ただの人間に……っ! なんだよ! それ、なら勇者はどこだ!」
魔王は目をカッと強張らせ、魔力を全身にほとばらせ地面を抉った。
「同士討ち、藍の魔族と、水晶の森にて」
すると、少女は表情を無視しふてくされた口調で言う。
「なんだよ、もう……エイル様、勇者殺してたんじゃん」
「あなた、魔王じゃなかったんだ」
「そうだよ、私は魔王じゃない」
私の問いに、少女は諦めたように、隠れた月へと向いたまま答えた。
「貴様は? 私は魔王エイルのお、幼馴染だ」
「勇者アクアスの召喚獣」
魔王の妹は目を大きく開いて、私の腕を掴んだ。
「はあ!? な、なぜ! 契約切れてるはずなのにどうし、て」
反対に私は自分の目を細めた。
「私自身の魔力」
勇者みたいに綺麗に笑えているだろうか。
「お前、馬鹿だろう……」
「召喚獣、だから」
私は嬉しさで笑いを噛みしめながら言うと、魔王の幼馴染の少女は唇を歪めた。小さな光は勇者のいるとこへ行けているだろうか。さらさらと私が欠けていく。
読んでくださりありがとうございました。
……とてもわかりにくいですね゜゜
最終決戦。勇者と魔王は、魔王城で戦う前に同士討ちで倒れる。
一人になった召喚獣は勇者との契約の証が消えても、約束があるため
自分の魔力を使いながら魔王城へ。
襲撃してきた魔族を魔王とは気づかなかった。
魔王城にいる少女を魔王と勘違い。
少女を倒し、自身の魔力がつきるのと同時に世界にお別れ。
……。
ほんとうは魔王勇者両方女の子のお話みかけないので、自分で考えようと思ったら゜゜
いつか、やりなおしたいです。