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 そして、大学生活最後の年の瀬がやってきた。君を俺の家に招いて、新年を迎えるんだ。

 嬉しかったなぁ。

 君と、新しい一年を迎えられる。

 今年最後の一日。前日から家に泊まりに来てくれていた君と、何をするでもなく、のんびりすごしていた。ふいに君は言った。

「シュウジ君、私ね、シュウジ君と行きたいところがあるんだ」

「ん、今日?」

「そう。年が明けるとき、この街で私が一番好きな場所で、一番好きなシュウジ君二人でいたいの」

 嬉しい申し出だった。

「桜丘公園、って知ってる?」

「あぁ、うん、名前は。少し遠いんじゃない?」

「うん。でもね、夕方を過ぎると、人気がなくなるの。二人きりにもなれるくらい。私も冬に一人で行ったことはないけど、寒くなる前に何度も行ったの。そう景色が良い訳でもないけど、雰囲気が好きなのよ」

 大学の知り合いから聞いたことがある。

 名前の通り桜が植わっている小高い丘の公園で、少し歩かなければならないが、花見にはうってつけらしい。

「そこが、この街で一番好きな場所。一人で街を見下ろすとね、切ない気持ちになるの。それが私には良かった。でも、それもおしまい。あなたとその景色を見れば、ただひたすらに、幸せだと、思える気がするの」

 俺の頬は緩んでいただろう。

 君の望みを叶えられる、そんな存在になれるのだと、俺も幸せだったんだ。


 除夜の鐘が街に響く頃、俺たちは桜丘公園にいた。街を見下ろせるベンチに座り、寒空の下、体を寄せる。

 君は俺の肩に頭を乗せて、やっぱり、と言い、微笑んだ。

 いつまでも、続けばいいと思った。何かの漫画で読んだように、この状態のままで、人形のようになってしまってもいいと、そこまで思えた。

 君は、運命の人だった。


 それから幸せな毎日が続いた。これから、何があっても、君と一生を共にしよう。

 俺はそう考えていたんだよ。

 けれど、この一日だけは、少しだけ、他の女性を想わせてほしい。俺は帰郷の準備を始めた。

 俺が地元に帰ると伝えると、

「どうしてこんな中途半端なときに帰るの? 卒業してから初出社までに帰ればいいじゃない。会える日、減っちゃう」

 君はそう言ったね。拗ねた顔が愛おしかった。けれど、今度こそちゃんと言おうと思った。

 三月。この月の、十四日。

 この日が、三年前、彼女を失った日だ。

「ごめんな、今月の十四日が命日なんだ」

 君は当然、誰の命日か、と訊く。

「三年前の三月十四日に、当時付き合ってた彼女が亡くなったんだ。轢き逃げでさ」

 それを聞いた君の表情は、少し青白くなっていた。俺は、亡くなった彼女をまだ好きだ、と勘違いされたと思って、弁解したんだ。

「いや、今その子に恋愛感情があるんじゃないよ。俺が好きなのは君だ。でも、彼女はその俺を作ってくれた一人なんだよ。だから、命日の墓参りは、できるだけ欠かしたくないんだ」

 君は、

「そう、なんだ。うん、それは、行ってあげた方が、いいと思う」

 少しつまりながら、そう言った。そんな動揺させるなんて、思ってなかったんだけど。

 そして三月十二日の晩に、俺は一人、夜行列車に乗り、実家へと向かった。

 一日は家族と過ごし、君の話をした。夜には昔から付き合いのある友人と酒を飲んだ。

 十四日。彼女の墓参りに行った。

 君とのことを報告したよ。おかげでうまくいっている、天国で見守っていてくれ、と。


 十五日の晩まで自宅でゆっくりして、それからまた晩に自宅へと帰る列車に乗り込んだ。

 そういえば、帰り際、駅に君と似た人がいたよ。

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