四
そして、大学生活最後の年の瀬がやってきた。君を俺の家に招いて、新年を迎えるんだ。
嬉しかったなぁ。
君と、新しい一年を迎えられる。
今年最後の一日。前日から家に泊まりに来てくれていた君と、何をするでもなく、のんびりすごしていた。ふいに君は言った。
「シュウジ君、私ね、シュウジ君と行きたいところがあるんだ」
「ん、今日?」
「そう。年が明けるとき、この街で私が一番好きな場所で、一番好きなシュウジ君二人でいたいの」
嬉しい申し出だった。
「桜丘公園、って知ってる?」
「あぁ、うん、名前は。少し遠いんじゃない?」
「うん。でもね、夕方を過ぎると、人気がなくなるの。二人きりにもなれるくらい。私も冬に一人で行ったことはないけど、寒くなる前に何度も行ったの。そう景色が良い訳でもないけど、雰囲気が好きなのよ」
大学の知り合いから聞いたことがある。
名前の通り桜が植わっている小高い丘の公園で、少し歩かなければならないが、花見にはうってつけらしい。
「そこが、この街で一番好きな場所。一人で街を見下ろすとね、切ない気持ちになるの。それが私には良かった。でも、それもおしまい。あなたとその景色を見れば、ただひたすらに、幸せだと、思える気がするの」
俺の頬は緩んでいただろう。
君の望みを叶えられる、そんな存在になれるのだと、俺も幸せだったんだ。
除夜の鐘が街に響く頃、俺たちは桜丘公園にいた。街を見下ろせるベンチに座り、寒空の下、体を寄せる。
君は俺の肩に頭を乗せて、やっぱり、と言い、微笑んだ。
いつまでも、続けばいいと思った。何かの漫画で読んだように、この状態のままで、人形のようになってしまってもいいと、そこまで思えた。
君は、運命の人だった。
それから幸せな毎日が続いた。これから、何があっても、君と一生を共にしよう。
俺はそう考えていたんだよ。
けれど、この一日だけは、少しだけ、他の女性を想わせてほしい。俺は帰郷の準備を始めた。
俺が地元に帰ると伝えると、
「どうしてこんな中途半端なときに帰るの? 卒業してから初出社までに帰ればいいじゃない。会える日、減っちゃう」
君はそう言ったね。拗ねた顔が愛おしかった。けれど、今度こそちゃんと言おうと思った。
三月。この月の、十四日。
この日が、三年前、彼女を失った日だ。
「ごめんな、今月の十四日が命日なんだ」
君は当然、誰の命日か、と訊く。
「三年前の三月十四日に、当時付き合ってた彼女が亡くなったんだ。轢き逃げでさ」
それを聞いた君の表情は、少し青白くなっていた。俺は、亡くなった彼女をまだ好きだ、と勘違いされたと思って、弁解したんだ。
「いや、今その子に恋愛感情があるんじゃないよ。俺が好きなのは君だ。でも、彼女はその俺を作ってくれた一人なんだよ。だから、命日の墓参りは、できるだけ欠かしたくないんだ」
君は、
「そう、なんだ。うん、それは、行ってあげた方が、いいと思う」
少しつまりながら、そう言った。そんな動揺させるなんて、思ってなかったんだけど。
そして三月十二日の晩に、俺は一人、夜行列車に乗り、実家へと向かった。
一日は家族と過ごし、君の話をした。夜には昔から付き合いのある友人と酒を飲んだ。
十四日。彼女の墓参りに行った。
君とのことを報告したよ。おかげでうまくいっている、天国で見守っていてくれ、と。
十五日の晩まで自宅でゆっくりして、それからまた晩に自宅へと帰る列車に乗り込んだ。
そういえば、帰り際、駅に君と似た人がいたよ。