その4 ~修練~
キリが悪いのでどうしてもこの章だけ文量が多くなりました。読みづらいなど有りましたらご意見頂けますと有り難いです。
この日から毎日のように《実体化》の練習が始まった。
最初は九尾で活動出来る時間を増やす目的であったのだが、《実体化》は朔夜にとっても大きな収穫があった。
霊力が飛躍的に向上し始めたのである。
元々大きな霊力を持つ朔夜であるが更に強大な葛の葉が取憑いている為、自然と霊力の供給を彼女に依存する癖が付いていた。
葛の葉が外で活動する間、朔夜が本来の霊力で様々な式を発動する事により、回復した時の霊力が格段に上昇した。更に少ない霊力で発動する方法を模索したので式がよりスマートな物になっていった。
更に別の方法で葛の葉が抜け出る方法も編み出した。
八尾で活動する時のネックであった燃費の悪さを補う為に、彼女が外に持って出る霊力を少なくして貰い、その代わりに朔夜と霊的繋がりを太いままにしておくのである。
お互いに何かあればすぐ分かるし、感覚も共有出来る。必要な霊力も融通しあえる。
また発動時に霊力を分離する作業が簡略化出来るので発動が早く、消費霊力が少ない為、葛の葉は遠くまで移動出来る。
式神契約の応用の様な方法だが、魂の根本で繋がっている二人だからこそ出来る方法であった。
二人はこれを《可視化》と呼ぶ事にした。
但しこれにもデメリットは有った。二人とも貸し借りし合っている為、結局二人とも中途半端な霊力しか振るえないのである。
特に葛の葉の方はいわば「借り物の体」を顕現させている状態なので精々が「普通に強い妖」程度の霊力しか振るえない。
当面は対応にスピードを求められる場面や偵察などを主な使用法にしようと葛の葉は考えていた。
◆ ◆ ◆
時は少し進み・・・
8才の或る日、葛の葉は《実体化》して朔夜の“修練”に付き合っていた。
《実体化》した葛の葉が相手をすると流石に朔夜では歯が立たないので相手は4体の式神である。
この頃には葛の葉は最長で2時間ほど実体化していられる様になった。
彼女の役目は怪我をした時の治療と、ヒートアップした時の仲裁役である。
(気を失うぐらい思いっきり殴って止めるので朔夜や式神たちからは甚だ不評ではあったが)
(ほんと憎ったらしいぐらいに優秀だねぇ・・・)
最初は1対1で行っていた組み手も次第に2対3になり、最近は朔夜一人で式神2体を相手する事も増えている。組み合わせによる相性もあるが大凡朔夜の勝率は7割と言ったところだ。
今は管狐の双子と組み手をしているところである。
元々葛の葉の眷属だったのだが4体の式神の中でも彼女らが真っ先に朔夜に“懐いて”しまった。
(全く!あの女ったらしが!!)
「【焔火】!」
朔夜の右手側から姉の朱魅が30cmほどの紅い火の玉を連続で打ち出す。
彼女は五行では“火”に属する妖で、“金”の気に偏っている朔夜にとってやや相性が悪い。
朔夜は勿論全ての属性を操れるのだが、金に属する葛の葉と長く同化している為、どうしても霊気が金に偏ってしまうのである。
「何の!水剋火!【水流波】!!!」
「そう来ると思っていました。【樹海の降誕】、【木の葉乱舞】」
朔夜の左手側に陣取っていた妹の梔子が続け様に式を放つ。
「ゲッΣ( ゜∀)!!」
【木の葉乱舞】を受けて火力を増した【焔火】が【水流波】を飲み込んだ【樹海の降誕】に燃え移り一気に青白い炎を上げる。
双子でありながら“火”と“木”と言う異なる属性を持つ息のあった合わせ技である。
「しょうぶありだねー」
やや舌足らずな口調の(見た目は)少年は細く茶色い瞳の持ち主で、名を虎目と言う。彼はよく見れば額に小さな角があり、人並み外れた膂力を発する鬼の一族と分かる。“土”に属する妖であり火のとばっちりを受けるのは割と平気。
「その様ですな」
重々しい口調の蝦蟇、周防も“水”に属する妖である為、この程度の火なら自ら剋する事が出来る。
「あっちーーーーーー」
ゴロゴロと起き上がってくる朔夜はかなりの距離吹っ飛ばされたはずだが、聞いた限りでは殆どダメージを受けた様に見えない。
「「わーい、勝った勝ったー。あと一回勝ったら朔夜さまに良い事して貰うんだーーー」」
「「ちょっ!?」」
母と息子の声が綺麗にハモった。
「それは内緒だって言っただろ!」
「どういうことじゃ!!」
「えっとねー、3かい つづけてかったらねー おねがいひとつ きいてもらえることになってるのー」
空気を読んでか読まずか暢気な子鬼が言い放つ。
「わーわーわー」
誤魔化そうとするが既に遅い。
ゆら~り・・・と幽鬼の様に背後に近付いた葛の葉から逃れようとするが時既に遅かりし。
「え、えっとね、母さん。“修練”も飴と鞭と言いますか、ほら、ご褒美があった方が身が入ると思わない?別に疚しくて隠してた訳でもなくて・・・、って聞いてないね??」
「うん♪取り敢えずシメるぞ?」
「「「「あ、出るね。葛の葉様の対朔夜様最強法術、“教育的指導”」」」
「うぎゃーーーー!!」
◆ ◆ ◆
「九尾の母さんに勝てる様になりたい!!」
ある日の修練の事。
この日は実戦をしないから母さんは久し振りにゆっくり《実体化》して散歩でもして来なよ!と体よく追い払い、式神たちと作戦会議をしていた。
「無理だと思いますよ~、素の朔夜さまの霊力が今のところ葛の葉様の尾2本分ぐらいだと見積もってますけど、普段はそこに1本足した状態で行動してる訳でしょう?それを九尾化した葛の葉様相手だと2対9じゃないですか。4倍以上ですよ4倍以上。勝てませんって。」
素気ない朱魅である
「じゃぁ霊力を増やしたらどうだ?」
「そんな簡単に・・・お気持ちは分かりますけど地道に行くのが一番ですよ。まだまだお若いんですし。」
妹の梔子も流石に簡単に同調出来ない。
「俺が一番得意なのは式神を操る事なんだ。そんで、普段から母さんに取憑かれてるから同化の感触には慣れている。以前から考えていた事なんだけど、憑依術を使えばもっと式の幅が広がるし霊力も沢山扱える。」
「しかし“金”に傾いている朔夜殿の霊力に我らの気を合わせるのは中々に困難ですぞ?」
「周防の言う事も分かる。でも、俺は・・・」
「「「「俺は??」」」」
「みんなと“合体”したいんだ!!」
「「「「!!」」」」
元々朔夜に惹かれて集まった4体である。“合体”の一言。これは事実上のプロポーズに等しい。
双子などは「「はうっ・・・!」」と声を上げた後、倒れてしまった。
「で、では最初は儂が宜しかろう。相剋から言っても“金”と“水”なら相性が良い。」
「「「あ!周防、ズルい!」」」
「「あたしも!」」
「ぼくも!」
だがしかし、実際相剋で最も相性が良いのは周防である。
実は朔夜は“金”に傾いていると言うだけでどれも殆ど同じように扱えるのだが、年長者の口八丁にみんな上手く誤魔化されてしまった。
◆ ◆ ◆
「では行きますぞ」
「うん、いつでも良いよ。てか周防って人に取憑いた事有るの?」
「取憑き殺した事なら有ります」
「・・・母さんと一緒か。ま、逆に同じと考えれば楽かな?」
「さて、どっちがどっちに合わせる?」
「儂も“水”以外も多少なら扱えますが朔夜殿ほど自在ではありませぬ。先に儂が霊体化しますので波長を合わせて頂けますかな?」
「りょうかーい」
初めてなので手を繋ぎ直接感覚をやりとりしながら進める。
周防の霊体は葛の葉と違い、静かに漂い、流れ、強くうねり、将に海の凪と波を同時に併せ持つイメージであった。
(陰の気が強いな・・・本来の俺は陰を強く持ってるから呑まれない様にしないと。。)
(儂にはこれが精一杯ですじゃ。上手く合わせて頂けますかな?)
(大丈夫。これぐらいでバランス崩してたら母さんと同居出来ないよ)
ちゃぷん・・・
深い水の中に沈んで行き、そしてそれらが轟々と自らに押し寄せてくる。
それに逆らわず、呑まれず、循環させる。
呆気ないほど上手く行った。
2人にとっては長く感じた時間も外では一瞬だった様だ。
(わぁ・・・)
(母さんが憑いてる時ほどじゃないけどこれも結構凄いな。。)
霊力は無論、葛の葉が憑依している時に比べるべくも無いほどだが、それでも自分一人に比べれば倍以上は有ると感じる。
周防を含め、式神1体の霊力は今の自分一人分より少ないはずなのだが、自分の“金”が周防の“水”を増幅させているのかも知れない。或いは憑依による同調の効果なのか、今はまだ判断が付かない。
(どっちにしろ、これは凄いな)
今まで扱った事のない霊力を同調させる事でコントロールの練習にもなりそうだ。
「よし!朱魅、梔子、まとめてかかってこい!これで勝ったらお願い2つ聞いてやるぞ!」
「ほんとですね!?」
「2人で2つとか駄目ですよ?1人2つずつですよ?」
「勿論。勝てたら、だけどな!!」
「【焔火】【炎竜】」「【樹海の降誕】【木の葉乱舞】」
何の前触れもなく巨大な炎の嵐が襲い来る!
そして以前と同じように“木”属性により水剋火を防いでいる。
「あまい!金剋木!【金色の羽衣】よ、【刃】を纏いて降臨せよ!水剋火!【蝦蟇鉄砲】よ、【水流波】を纏いて貫け!」
「「4式同時展開!?」」
朔夜の放った【金色の衣】は本来防御用の式、それが【刃】の纏って広範囲攻撃へと変化、【樹海の降誕】を粉々に切り裂く!
周防の得意とする(と言うか固有技)である【蝦蟇鉄砲】に【水流波】が巻き付き、こちらもさながら水竜の如き勢いとなる。更にそれは“金”により勢いを増し、双子の放った高熱の炎を一瞬で消し去り、勢いそのまま押し流す!!
「「ふみゃぁーーーっ!」」
渾身の一撃を放った後の硬直を不測の反撃に襲われ、2人は為す術無く飲み込まれた。
「うー、ズルいです。。」
「何ですか?あれ。展開後の硬直無く4式同時展開とか意味分かりませんけど。。」
「ごめん、自分でも驚いてる。怪我無い?」
「心が痛みました。痛恨の一撃です。もう朔夜さまと一緒にやっていく自身がありません。ぎゅーってして貰わないと許せません」
「うぅ、ごめんね、梔子。じゃぁ梔子がぎゅーってしてよ。梔子が満足するまでそうしてて良いから」
梔子の花がぱあぁぁぁ~~~~~っと花開いた。
「ぎゅーーーーーーー><」
「こら!ドサクサに紛れて!あたしも!!ぎゅぎゅぎゅーーーーーっ!」
今度は朱魅が姉妹サンドイッチしてくる。
(・・・どうでも良いが中には儂が居る事も忘れんでくれよ??)
戦闘シーンを生まれて初めて書きました。。色んな作家さんの仰る通り難しいですね。意見・感想・評価、ばしばしお待ちしています。