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狐憑きの時空旅  作者: 翡翠 蛍
序章
2/12

その2 ~新月の出会い~

キャラの設定は頭の中に練ってた筈なのに書き始めると一人歩きして第2話で既に第1話と口調が変わりつつあります。他の作家さんのように設定を文章化した方が良いのでしょうか?

数多の魑魅魍魎が闇夜を練り歩く新月の夜。

葛の葉は住処の森を人里際まで降りてきていた。

人との接触を避ける様になっていた彼女は普段ならそんなところまでは来ない。

しかし並外れた霊力を持つ九尾の狐である彼女の感知力が、好奇心と胸騒ぎが同居する様な奇妙な存在を捉えていたのだ。


「あの人に会った時を思い出すねぇ」

嘗ての想い人を思い出し一瞬初心な感情に捕らわれる。


「はてさて、今宵の愛しき人は・・・ おや、子供とはまた。。」


そこには荒い息をして気を失っている3歳ぐらいの少年が居た。

着ている物を見る限り身分は高くない事が伺える。

しかし彼女の目を引いたのはその身なりではなく少年の放つ目が眩むばかりの強烈な霊力であった。

だが悪い事に今の彼の身は陰の気に飲み込まれかけており、陰陽のバランスが完全に崩れている。

外傷や病気は見当たらないが、親に捨てられたか何かで幼い精神は蝕まれてしまったのだろう。


葛の葉はこれまでもそんな子供らを幾度となく見て来た。

所謂”口減らし”等でこの深い森に捨てられた子供らは大抵が獣か魔物の餌食となる。


「消耗しているとは言え、幼子の身で朔の夜にこの森で生き延びるとは・・・。

霊力故か、或いは何かの星の加護でもあるのかね?しかしこのままではそれも時間の問題か。。」


「やれやれ、まさかまた人の子を育てる事になるとはねぇ。」

彼女は9本ある尻尾のうち1本を根本から噛み切り、そこに式を施した。

九尾の狐の持つ強い陽の気を己の尻尾を媒体に練り込み、それを少年の体に重ね合わせるように同化させていく。


光を放ちながら吸い込まれていった尻尾はやがて完全に少年と一体化した。

陰に席巻されていた気も光と闇が混ざり合い渦を巻くように美しい調和を取り戻し、先程までよりも更に強い輝きを放つ。


「保名殿、清明・・・」

懐かしい名を思わず口にしながら葛の葉は少年を背負って森の奥に歩を進めた。ちらりと覗いた背の上では少年が静かに寝息を立てていた。


◆ ◆ ◆


子供の成長は早い。

長い時を生きる葛の葉にとって実際その時間はほんの瞬きをする間に過ぎない。

しかし悠久を生きる彼女にはその迸る輝きがみるみる増していくのを肌で感じるのは最高の楽しみであり、そして少し羨ましい。


「ひゃっほ~い!!」

少年は出会いの日の由縁で新月の夜を意味する「朔夜(さくや)」と名付けられた。

8歳になった彼は日毎夜毎疲れを知らないとでも言うように信太の森を駆け回る。

木々の合間を抜け、枝から枝へまるで森全体をアスレチックにしているようだ。

この5年間で森の隅から隅まで走り回り、今では視力に頼らなくとも記憶と感知力だけでかすり傷一つ追わずに飽く事無く飛び回り続けられる。


彼が走り始めるのに気付いた森の獣が後を追いやって来た。

『朔夜さま見っけ!』

『朔夜さま~~~~』

『さくやさまあそぼー』

『朔夜殿、儂も付いてくぞい』

しかし彼らは並みの獣ではない。

知性を持ち、人語を解する所謂“妖(あやかし)”と呼ばれる存在であった。


「おー、みんな来たな。元気にしてた?

って言っても変わりない事は分かってるんだけど・・・」


彼らは皆、朔夜と式神として契約を結んでいる。

その為、何もしなくともお互いの存在を感知出来る上、意識を集中すれば五感を共有する事も可能だ。


『葛の葉様もお変わり御座いませぬようで』

彼等の中で年長者である蝦蟇(ガマ)の「周防(すおう)」が()()()()()()()声を掛ける。


(堅くならずとも良い。皆が朔夜と主従ではなく信頼関係を築いてくれている事は如何なる感謝を持っても代え難い)


『有り難き、いえ、有難う御座います』

律儀にも彼は言葉を少しやわらげて言い直した。




「葛の葉母さん、みんな集まった事だしいつもみたいに“修練”を始めようと思うんだけど、暫く僕から抜けてて貰える?」


(ふむ、そうじゃな。では久し振りに《実体化》させて貰おうかの。この辺りは丁度保名殿と会った場所に近い。少し散策して来ようかと思うがどれ程の時間なら耐えられる?)


「じゃぁ、半刻(約1時間)ぐらいで。その後は悪いけど戻ってきて貰って良いかな?」


(了解じゃ。では一旦、尻尾を返してくれ)


「分かった。よいしょ・・・っと。何回やってもこのぬるっとした感触は慣れないな」


(それは当然じゃろ。魂と同化してる霊力を分離するのじゃから。。しかも子供の身で並みの人間の何倍にも相当する霊力を一度に取り出しておいて『慣れない』の一言で片付けられては陰陽寮も形無しじゃろうて)


葛の葉は念話を交わしながら朔夜の傍に姿を現す。

そこにはちゃんと9本の尻尾が揃っていた。


◆ ◆ ◆


幼い朔夜を救う時、葛の葉は自らの尻尾のうち1本を霊力に変え朔夜の魂に同化させた。

しかしそこで彼女自身予測していなかった事態が発生した。

彼女の霊力の源でもある尻尾を一つ失った事により一日で摂取するエネルギーを消費するエネルギーが大幅に超えるようになったのだ。

簡単に言えば、物凄く燃費が悪くなってしまった訳である。

尾が足りないのでエネルギーの貯蔵が足りない→エネルギー補給の為に狩りに出る→狩りで使ったエネルギーが摂取エネルギーを上回る、と言う本末転倒な事態に至り、これでは朔夜を育てる事と自分が生きていく事を両立出来なくなってしまった。


そこで彼女が採った方法が「朔夜に取憑く」と言う方法であった。

霊体と化して朔夜の中に居れば既に同化している尾の霊力を共有し、擬似的に彼女も九尾に戻れる。更に朔夜と葛の葉の膨大な霊力を共有すれば2人ともエネルギー不足に困る事が無い。必要な時は八尾で短時間外に出れば良いのだ。

狐憑きは精神に影響を及ぼす可能性があると言うリスクも考えたが、元々彼自身の霊力が強いので耐えられるであろうと言う事と、既に魂に自分の一部が同化しているので問題はないと判断した。


しかし彼女は最終判断を朔夜に委ねた。

難しい話をして通じるか不安に思いながら出来るだけ簡単な言葉で問いかけた。

「朔夜、お前の中に母さんの一部があるのはもう感じているだろう?これからは全部一緒になって生きていこうと思うんだけど、どうする?」

「僕は別に良いけど・・・どうしてそんな事聞くの?」

「ひょっとしたら、だけど、朔夜はその後一生自分が誰だか分からなくなるかも知れない。だからこれは朔夜が決める事なんだよ」

「そんなの全然良いよ。お母さんが居なくなったらどうせ僕はまたひとりぼっちだもん。お母さん居ないんなら何でもおんなじだよ。」



葛の葉は決めた。

伝説の白狐と呼ばれた自分の名にかけてこの少年を育てあげる事を。

霊力がどうとかではない。

我が子として幸せに育てる事を。



葛の葉にとってもこの様な形での憑依は初めてであった。

勿論、妖狐である彼女は取憑き方自体は知っているし、悪意を持った相手に対して何の遠慮もなく取憑き狂わせた事もある。


最後に短い逡巡を挟み、式を組み上げ空間に溶け込むように体を霊体化させると彼の中に入っていった。


(ッ!!!!)


霊力が高い事は分かっていた。しかし彼女を驚かせたのはそこではない。


(何て、美しく淀みない流れ・・・)


高位の霊力を持つ妖狐の尻尾という「異物」を受け入れ、今さらに葛の葉自身という強大な存在を受け取ったばかりだというのに、逆らわず躊躇わず受け止め受け流し、まるで生まれた時から其所に在ったかとでも言うようにバランスを取っている。


(これは下手したら居心地良すぎて出られなくなる・・・)


葛の葉がそんな事を考えていると、一部感覚を共有している|朔夜(宿主)から声が聞こえた。


(あったかいね-、お母さんにお腹の中から抱っこされてるみたいだよ)


こうして朔夜は自分の母に取憑かれた狐憑きになった。

拙筆ですが、何人かの方に読んで頂けているようで感激しています。評価・感想お待ちしています。厳しくても良いので忌憚のない意見を頂けると幸いです。

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