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狐憑きの時空旅  作者: 翡翠 蛍
序章
1/12

その1 ~3人の子供と白狐~

初めての作品です。週に1度か2度は更新したいと思っていますし必ず完結させます。長期に渡って更新が停止する場合もお知らせなどで連絡しますので長いお付き合いを頂ければと思います。

古くは信太の森と呼ばれた場所がある。

その地にこれまた古くからある神社を訪れる一人の少年が居た。

年の頃は十二、三歳と言うところか。

明るいところでは青くすら見える淡い髪の毛を乱雑に刈り込み、Tシャツにジーパンと言うラフな格好。日に焼けた手足は健康的に引き締まっており、スリムだが華奢ではない。

やんちゃ坊主から青臭さが抜け、加速度的に大人へのステップを駆け上がってきている、そんな印象を感じさせる子供だ。

初夏の光に照らされた大きな楠に眩しそうに目をやり、来る途中のコンビニで買ったペットボトルに手をやる。


(・・・自分の奉られている神社を1000年もの未来で見る事になるとは奇妙なもんだねぇ)

彼の頭に女性の声が響く。


(立派な息子殿の御陰でしょ?)

これまた頭の中でひねくれた事を言い返し、ペットボトルに口をつける。


(それは違う!童子丸が規格外に優秀すぎるだけで、妾も十分に優秀なんじゃぞ!

ああ、しかしあの子は確かに優秀であった。

ふふ、やはり保名(やすな)殿を選んだ妾の目に狂いは無かったんじゃな。

2人の愛の結晶が遙か時を経てこの平成の世まで知れ渡っているとは。。

ああ、保名殿・・・あの夜を思い出すと、うふふふふふふ)


途中から自分の世界に入り込みクネクネと一人惚気ている彼女を放って、彼はここに来た目的を果たすべく待ち合わせている人を探し始める。


朔夜(さくや)兄ちゃん!葛の葉(くずのは)姉ちゃん!」


神社に快活な声が響き、今度はちゃんと耳に声が届いた。

声の方向から一人の少女が駆けてくるのが見える。

背中を超えて腰の近くまでもある艶々とした黒髪を一つに束ね、特上サイズの黒曜石(オブシディアン)をはめ込んだかのような大きな瞳。年齢は10歳前後、朔夜よりも更に少し若い。肉付きは薄くまだ少女の枠を出ないが2~3年もすれば輝きを得て美しく華開く事だろう。


可愛い妹分に目を細め、しかし表情を引き締めてたしなめる。

陽茉莉(ひまり、人前で2人同時に呼ぶなと何度も言ってるだろう。変に思われるだけならともかく万一感性のある人がいたら冗談では済まない事になる。」

そう、彼は普通の人が見れば彼はどこからどう見ても1人で立っているようにしか見えない。

しかし、彼の中には陽茉莉が"葛の葉姉ちゃん"と呼んだ女性が同居している。


この事を知る人間は3人、いや4人。

朔夜、陽茉莉、葛の葉、そしてここにいないもう1人の友人のみである。

今日はいつも通り4人で近所の河原か静かな神社にでも行って"トレーニング"をする予定なのだ。


「陽茉莉、道一(みちかず)とは会わなかった?」

「まだ会って無いよ。あの人の事だから先に場所取りしてもう人払いでも施してるんじゃないかな?」


ここにいない道一という年長の友人の事を考えて、彼ならありそうだと思った。学校の成績はもとより彼は本当の意味で頭がよい。良いのだが一般人の思考速度を振り切って行動する為、いつの間にやら予定外の単独行動を取っている事が多いのだ。

朔夜が道一の携帯を呼び出すと、案の定既に近くの河原に人払いの式を敷いて陣取っていた。

中高一貫の高校に通う道一はこの春から高校生だ。

細いフレームの眼鏡をかけ、細身の長身を誇る生真面目な顔をした青年である。

学校から直接来たのか学生服姿だが少し汗ばむ陽気に学ランを脱ぎ、Tシャツになっている。


「遅いじゃないか。」


「火曜日の午後4時頃、天気は曇り、更に今晩から雨という条件で近辺の人通りの少ない場所ぐらい算出して欲しいものだが?」

「いや、それが出来るのはアンタぐらいだよっ!」


「まぁまぁ朔夜ちゃん、時間が勿体ないしそろそろ始めようよ。朔夜ちゃんが居ないとトレーニングにならないんだから。」


「では妾もそろそろこの体から抜けようかのう。可視化で良いか?実体化するか?」

葛の葉の言葉に少し考え朔夜は答えた。

「可視化で良いだろ。実体化までして派手にやる程のスペースは今回取れてないみたいだし。」


◆ ◆ ◆


この奇妙な4人(?)組。

彼らの出会いについて話すには、まずは1000年前・平安の世での出来事から話さねばならない。


◆ ◆ ◆


平安と呼ばれた時代。

魑魅魍魎と人間は生活空間を交わらせながら時に争い時に協力し、しかし互いの存在を確かに認め合いながら生きていた。


葛の葉はその頃、信太の森で穏やかに過ごしていた。

過去には自分を怪我から救ってくれたと恋に落ち、一子を設けた。

その子はやがて優秀な陰陽師となり命を落とした自分を救ってくれ、今では人間の世でも重用されているという。

ただ、人里を離れた自分にはもう関係のない事。

後は静かな日々だけが待っている、そのはずだった。


しかし運命の悪戯はここから更に葛の葉を翻弄する事になるのである。

長い長い、時間も空間も飛び越えて最高にスリリングでエキサイティングで、温かな旅路へと。


異世界に行くまでを序章にします。お気付きの方も多くいらっしゃると思いますが、葛の葉は伝説で安倍晴明の母親とされている白狐です。保名=清明の父親=葛の葉の昔の旦那。童子丸とは清明の幼名です。

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