*想い
静かに目を覚ましたベリルはすぐに周りの気配を探る。どうやら逃げ切れたらしい。
「!」
小さく溜息を漏らして少女の存在を確認すると腕の中で静かな寝息を立てていた。目覚めるのを待っている間に寝てしまったようだ。
「ベス、起きろ。ベス」
「ん……もう起きたの?」
目をこすりながら応える。
「戻るぞ」
「うん」
「! ……」
撃たれた腕にハンカチが巻かれているのに気付いてそれに目を細めた。
「大丈夫なの?」
「気配は無い。人が大勢いれば奴らも手は出せない。走るぞ」
周りを窺いながらゆっくり出て行く。少女の手を掴み駆け出す。
「……」
その手をベスは見つめた。
気付かれてないよね……? 彼女のファースト・キスは少女の胸の中だけに静かに秘められている。
無事に部屋に戻り少女は疲れたようにシートに体を預けた。
「目を閉じるか向こうを向いてもらえるか」
「どうして?」
「裸を見たいならそのままでも構わんが」
「そうならそうと言ってよ!?」
真っ赤になって後ろを向いた少女にクックッと喉の奥で笑う。
「ベリルのバカ!」
ぜったいイヤがらせだ!
そうして夕食の予約を済ませ再び部屋に戻る。
「ベス」
「何?」
「中を回らなくてもいいのか」
「あ……うん、いいの」
目を泳がせる少女に柔らかに微笑む。
「心配しなくて良い」
「うん……」
「ねえ見て! あれすごい!」
嬉しそうに笑いかける少女に笑顔で応えた。
「……」
はしゃぐ少女を静かに見つめる。
彼女の心境も理解出来る。いつ誘拐されるとも限らない日々……屈強な男たちが周りを取り囲む。彼女にはそれが息苦しかったのだろう。ピエールたちはそれに気付いていた。
いつかは自分の置かれている立場を理解し対応していくだろう。しかし、まだ15歳の少女にそんな窮屈な思いを強いるのは彼らも心苦しく感じていた。
ガードたちは彼女を自分の子供のように見守ってきた。色んな事に触れ、学び、育って欲しい。
初恋も……その痛みも彼女を大きくするだろう。彼らは初めから全員でベリルを選んだのだ。彼になら必ず恋をする。
ベリルに知られれば全員、殴られることは間違いないだろう。
夕食も終え再び部屋に戻る。
「!」
荷物を整理しているベリルが手にしている血に汚れたハンカチを見つめた。
「ん? うむ。新しいものを贈ろう」
「ううん。いい、これで」
手を差し出してハンカチを受け取る。
「血は取れない」
「それでいいの」
これは私を護ってくれた証だもん。
今まで気付かなかった。みんな命がけで私たち家族を護ってくれてたんだよね……私のワガママにもイヤな顔一つしないで色々聞いてくれてた。
みんな家族だったんだね……自然と涙がこぼれ落ちる。
「……」
その様子に目を細め少女の隣に腰を落とした。
肩に手を添えられると力が抜けたのか、感情を抑えきれず彼にしがみついて泣き続けた。