*傭兵ということ
次の店に向かおうとした時──
「!」
ベリルは張り詰めた気配に表情を険しくさせた。
気が付くと周囲に人がほとんどいない。この時を狙っていたか──!
「きゃっ!?」
ベスの腕を掴み走り出す。
「な、なに?」
「来るぞ」
「!」
振り返ると、怖そうな男たちが追ってきていた。
「……」
視界に捉える程度に背後を一瞥し足を速める。
個室で捕まえた男と気配が似ている……同じ組織の人間か? 相手はかなり本気らしい。追いかけてくる人間の数が増えてきた。
これだけの数ではガードたちも太刀打ち出来ない。ベスの体力も長くは持たないだろう。すでに息を切らせて来ている。
「きゃあぁ!?」
突然、横抱きに抱えられ驚いて叫んでしまった。
「……っ」
うわっ、うわ……私お姫様抱っこされてる!? 状況は最悪なのだが彼女の世界はバラ色だ。
「!?」
そんな気分も、バシュ!……という音にかき消される。
鈍い音のした壁に目を向けると、何か硬いモノがぶつけられたような凹みが出来ていた。
これって確か消音器ってやつよね……少女は怖くなり彼にしがみつく。
「ぐっ……」
「きゃあっ!? ベリル!?」
「心配ない……っ」
やはり無傷で逃げ切るという訳にはいかないらしい。左腕の痛みに顔をしかめる。
「問題ない」
少女に小さく笑みを見せた。そして走りながら周囲に目を配る。どこか隠れる場所を探さなねば……
「!」
先ほどよりも軽い発射音がして腕に小さな痛みが走った。この違和感は……まずい麻酔か!
「ベス、……っ抜いてくれ」
「!」
見ると右腕に何かが刺さっている。恐る恐る注射器を抜いて捨てた。
麻酔銃を使ってきたということは、相手は少女をガードしている者が不死者だと気付いたという事だ……ますますもって状況は思わしくない。
「……っう」
少しずつ遠のいていく意識にベリルは頭を振ってなんとか保とうとした。
「!」
「きゃっ!?」
建物の壁際に大小、様々なサイズの箱が積み上げられた山に勢いよく飛び込む。そして少女を護るように自分の体で包み込んだ。
「奴らが近づいても、決して声を出すな。少し、私は眠るが……動いてはならん」
「ね、眠る……?」
さっきの注射針? あれのせい?
「麻酔には少々弱くてね……30分ほどで、目が覚める……だろう」
本来なら数時間は眠るものだが、不死からなる彼の回復力は驚異的だ。
「ベ、ベリル……?」
返事がない……眠ったらしい。
「!」
大きな足音に彼の腕にしがみつく。
自分を守る者の肩越しから顔をやや上げて箱の隙間から少し見える外を見やると、語気を荒げた数人の男の声と影が見えた。
「……っ」
動いちゃダメ! 大丈夫……彼が側にいるもん。
小さく体を震わせて遠ざかる足音にほっとした。
静かな時間──少女は意識のない彼の顔をのぞき込んだ。
「……」
小さな寝息、極限まで気配を消してるんだ。これが傭兵? 依頼されれば命を賭けるなんて……彼女は傭兵という仕事に眉をひそめた。
そして彼の顔をジッとのぞき込んでゆっくりと髪を触る。
まつげ結構、長いんだ。髪の毛、金の糸みたいにサラサラ。この距離で彼の瞳を見てみたいな……きっとホンモノの宝石より綺麗だと思う。
いつまでも見ていたい……彼が目覚めるまでの時間が長いとは感じなかった。
「……」
ひとしきり見つめたあと、眠っている彼の唇に軽く自分の唇を重ねた──